グリストラップとは?基本構造と役割
グリストラップとは、排水の中に混ざっている油脂や生ゴミなどを分離し、浄化した水を下水へ流すための装置である。
残飯や野菜くずなどを含んだ排水をそのまま流していると、排水管が詰まる原因となってしまう。油脂や生ごみを含んだ汚水は、時間が経つと悪臭を放つだけでなく、害虫が発生する要因にもなりかねない。そうした問題への解決策となるのが、汚れをキャッチしてフィルターの役割を果たすグリストラップである。
| 第1槽 | 網目状のバスケットが掛かっており、残飯や野菜カスなどの生ごみを収集 |
|---|---|
| 第2槽 | 水面に浮上する油脂と下に沈む汚泥を分離 |
| 第3槽 | 2槽と同様に油脂と汚泥の分離に加え、トラップ管を通して出口へ排水 |
この3槽の構造により様々な汚れやゴミを取り除くことで、きれいになった水を排水管へ流している。
屋内・屋外など設置場所による違い
グリストラップの設置場所は、屋内と屋外に分かれており利点や費用なども異なる。店舗によっては設置スペースが限られているケースもある。飲食店を新規開業する場合には事前に確認しておくといいだろう。
屋内だと厨房や床下などに設置するタイプがあり、清掃やメンテナンスを行いやすい。しかし放置していると油脂などが漏れ出て衛生面に問題が生じるだけでなく、悪臭が店内に充満することでお店のイメージが悪くなってしまうこともありえる。
また屋内設置には、「床置き型」と「埋設型」の2種類がある。「床置き型」は、その名の通り空いたスペースにそのまま設置するタイプとなる。店舗の規模によっては容量の少ないものしか導入できないが、工事を行う必要がないため低コストで取り入れやすい。「埋設型」は床下などに埋め込むタイプで、設置スペースを取る心配がない分、大掛かりな工事と費用が必要になる場合もある。
一方で屋外設置は、主に店舗の裏口付近に埋め込んでおくタイプのものとなる。万が一清掃を怠っていても、悪臭や害虫が店内で発生するリスクを避けられることに加え、スペースを気にせず大容量のグリストラップを設置しやすい。
飲食店にグリストラップの設置義務はある?
飲食店において、グリストラップそのものの設置義務が明確に規定されているわけでない。しかし法律によって排水の基準や対象となる建物などが設けられており、結果として多くの店舗で設置することが必須になる。
具体的には以下の通りだ。
法律 | 基準値や対象物 |
|---|---|
| 建築基準法 | 汚水が油脂、ガソリン、土砂その他排水のための配管設備の機能を著しく妨げ、又は排水のための配管設備を損傷するおそれがある物を含む場合においては、有効な位置に阻集器を設けること |
| 下水道法 | 次に定める基準に適合しない下水を継続して排除して公共下水道を使用する者は、除害施設を設け、又は必要な措置をしなければならない。 ノルマルヘキサン抽出物質含有量(動植物油脂類含有量)が1リットルにつき30mg以下 |
| 水質汚濁防止法 | ノルマルヘキサン抽出物質含有量(動植物油脂類含有量)の許容限度は30mg/L。 一日当たりの平均的な排出水の量が50㎥以上である工場又は事業場に係る排出水について適用する |
| 各都道府県の条例 | 地域条例により異なる |
法律については、グリストラップの設置義務は設けられていないものの、地域条例の中には明確に記載されているケースもある。例えば東京都の場合、下水道局のWebサイトでグリース阻集器の設置を呼びかけているため、自店舗のある地域の条例を確認しよう
参考:東京都下水道局「飲食店のみなさまへお願い」
グリストラップを整備、清掃するメリット
グリストラップの導入はそれなりのコストがかかり、定期的なメンテナンスといった手間も増える。しかし設置するのには、相応のメリットがあることも知っておきたい。では具体的な内容について見ていこう。
排水管詰まりと悪臭の対策
グリストラップは設置するだけでなく、定期的な清掃も必要になる。分離した油脂や取り除いた生ごみなどが、容器自体に蓄積されていくからだ。これらの汚れを定期的に取り除き排水管などをきれいな状態に保つことで、グリストラップのメリットを最大限に活用できるだろう。
損害賠償リスクへの備え
グリストラップの設置や清掃を怠っていると、最悪下水管が詰まってしまうケースも考えられる。その場合、周囲の住宅や施設にまで被害が及び、損害賠償まで発展する可能性があり、近隣の清掃や消毒、工事などに掛かる費用を負担することになりかねない。
排水管や下水管の詰まりは店舗運営に重大なリスクを与えることもあるため、グリストラップを設置していない店舗がある場合には、企業として衛生管理の重要性を理解してグリストラップの導入を検討しよう。
グリストラップの清掃方法と頻度
グリストラップを清掃する際には、余計な手間や負担を増やさないためにもできる限り作業の手順や頻度などは明確にしておくべきだ。より効率的に実施するためにも、清掃の具体的なやり方と頻度について解説していく。
グリストラップの清掃方法3ステップ
3槽構造となるグリストラップでは、それぞれの槽で段階的に清掃をおこなっていく。具体的な手順としては、以下の通りだ。
| ステップ1(第1槽目) |
| バスケットに溜まった残飯や生ゴミなどを回収する。次にバスケット自体を洗浄して、ぬめりや目詰まりなどを洗い落とす。 ネットなどを被せておくと、ゴミの回収を楽に行える。 |
| ステップ2(第2槽目) |
| 水分から分離して浮上した油脂などを目の細かい網や柄杓などですくって取り除く。また沈殿している汚泥なども同様に回収しておく。 底の深い容器の場合、柄の部分が長い網などが必要になる。 |
| ステップ3(第3槽目) |
| 2槽と同様に油脂や沈殿物を取り除く。またトラップ管に油脂などが付着しぬめりが発生しているため、蓋を外してブラシで内部の汚れまで落とす。 |
また清掃時には、グリストラップ自体の蓋を開けることになるため、内部に溜まった悪臭が流れ出てしまう。そのため清掃し終わった後には、室内の換気や消臭なども行おう。
グリストラップの清掃頻度
グリストラップ全体を毎回清掃するのは手間や時間が掛かりすぎるため、それぞれの槽で清掃頻度を分けて行う。具体的には以下の通りだ。
| グリストラップの清掃頻度の目安 |
|---|
| 第1槽:毎日実施 第2槽:2~3日に1回程度 第3槽:最低1~3カ月に1回程度 |
ただし各槽の清掃頻度は、飲食店によって異なる場合もある。例えば、ラーメン屋や揚げ物屋など油を多く取り扱う業態では、グリストラップに溜まる油脂の量も増えやすい。店舗に適した頻度で清掃を実施し、清潔感のある環境を保つことが大切だ。
HACCP制度対策や衛生管理のコツ
グリストラップの清掃において知っておくべきことの1つに、すべての飲食店で義務化されているHACCPに基づいた衛生管理が挙げられる。
一般的衛生管理のひとつにあげられるグリストラップの清掃を怠っていると、不衛生な環境や害虫の混入などの危険性があるので、対策を講じる必要がある。
関連ページ:3ステップではじめる飲食店のHACCP制度対応~食の安心・安全入門~
そこで重要になるのが、グリストラップの清掃を定期タスクとすることだ。複数店舗を展開している場合でも、店舗運営を管理できるツールを使うことで、どの店舗が実施済みか未実施か瞬時に確認できる。マニュアルとも紐付けられるので、業務の手順とやり方を把握しやすい。これによりグリストラップ清掃を定期タスクとして盛り込み、従業員へ周知徹底させられる。管理システムやツールを活用すれば、HACCP制度に対応した作業環境を構築しやすくなるだろう。
グリストラップを正しく運用し店舗の清潔さを保つ
飲食店において、グリストラップは周囲の環境に配慮するための重要な設備である。だからこそ、常に清潔な状態に保つための清掃やメンテナンスは欠かせない。
そして店舗の衛生管理は、店長などの責任者だけの問題ではなく、従業員が一丸となって取り組むべきだ。日々の清掃業務を通して、食の安全性に対する意識を高めていきたい。またグリストラップの構造や仕組みが曖昧だった方も、これを機にしっかりと理解して衛生的な環境の維持に努めよう。












