ホテル・旅館の従業員による不正の事例
| 年月日 | 地域 | 不正内容 |
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2025/6/2 | 岡山県 | 温泉施設で受付業務を担当していた従業員が、売上の一部を横領していた。 利用客から受け取った料金の一部をレジに通さず、約170回にわたり51万円相当の金額を着服していたことが判明。不正行為は2023年7月から2025年4月の間に行われ、防犯カメラの映像により事態が発覚。2025年4月に従業員を解雇している。 |
2024/12/24 | 長野県 | 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた宿泊施設に向けて配布していた「観光業を支援するためのクーポン」が従業員によって不正に持ち出された。 県の調査によると、4つの施設で複数の従業員が不正に持ち出したとされており、飲食などに利用されていたことが判明。不正に使われたクーポンは2021年6月~2023年6月までに実施されたもので、合計3300万円に上る。 2つの施設は全額を県に返還、残りの施設も返還し始めているという。 |
2024/12/19 | 静岡県 | 県内のリゾートホテルに勤務する従業員が、売上金などを窃盗する事案が発生した。不正行為は一定の期間で繰り返し行われ、被害総額は約2億円にも上る。 同ホテルの事務所などで管理する売上金や釣銭準備金が狙われ、利用客等への窃盗行為は確認されなかった。 ホテル側は元従業員の懲戒解雇と、民事および刑事上の責任追及などで然るべき対応を進めているとのことだ。 |
2023/12/19 | 香川県 | ホテル内に併設されているレストランで、従業員による着服が発覚した。 当時会計担当だった従業員は、同年10月10日から11月12日までの期間に過大な支払額を利用客に提示し、その差額分4万340円を着服した。また会員カード利用で付与される16,310円相当のポイントも自身のカードへ移していた。 同従業員には厳正な処分を行い、着服した現金とポイントについては返還するとして心当たりのある利用客へ連絡を呼びかけている。 |
2019/6/28 | 千葉県 | 宿泊施設の会計担当の女性職員が、施設の売上金など1千万円以上を着服。同職員は1人で施設の会計を担っており、保管している現金などを持ち出していた。 前年度の決算を取りまとめる中で事態が発覚。平成28~30年度分で約1193万円にも上る。 |
2018/1/15 | 静岡県 | 株式会社下田プリンスホテルでは、当時在籍していた元従業員が2011年8月に支払書類の偽造や請求書の改ざんなどを行い、68万円を横領したことが発覚している。 この件は2015年2月に判明し、社内調査を実施することで不正が明らかになった。同職員は2015年5月29日に懲戒解雇され、2018年1月15日に業務上横領罪の疑いで逮捕されている。 |
2017/7/28 | 東京都 | 経理などを担当していた元役員が、業務を受託する子会社から不正出金や着服を繰り返していたことが発覚した。 不適切な仕訳の入力や重要な書類の廃棄などで事実を隠蔽した。20年以上にわたり不正を行なっており、1億2,630万円の被害額となっている。 元役員の自己申告により発覚し、弁護士などとの調査により不正内容が明らかになった。その過程において、同社のマネージャーによる450万円相当の着服も別件で判明した。 |
2011/9/14 | 北海道 | ホテル従業員による拾得物の横領が同年8月に発覚した。 経緯としては、同従業員がホテル内のトイレで拾った財布からお金を抜き取ったことをTwitterへ書き込み判明。違法行為とホテルの社会的信用を落としたことを重く見て厳重な処分が下された。 被害者は特定され、該当従業員の警察への出頭で事件は解決している。 |
従業員による不正行為は発見されるまで繰り返し起きるため、長期的になることが多い。また、事業者による公表はないまま処理されるため、氷山の一角とされている。
従業員による不正への対策
ホテルや旅館では、宿泊事業以外にもレストランなどの併設施設も多く、経営者の目が届きにくい側面がある。そうした環境で従業員による不正行為を防止するには、金銭や物品の流れを「見える化」する仕組みづくりと、監視の目が行き届く環境構築がポイントになる。具体的な対策を見ていこう。
業務の属人化を防ぐ
宿泊施設では受付や売店、調理や接客などの様々な業務に対して、担当する従業員が配置されている。人員が限られている場合は、業務の分担や相互チェック体制が不十分になりがちだ。
例えば、経理担当が1人しかいない場合、「少しお金を持ち出しても他の従業員にはバレないだろう」という思いから不正行為に手を染めてしまうケースがある。そこで対策として挙げられるのが、業務の分担や定期的なローテーションの実施だ。
売店やレストランなどでは仕入と支払いを別々の担当者に分担したり、従業員の業務をローテーションすることで職務を固定しないようにする。これにより業務の属人化を防ぎ、特定の人物だけが金銭や物品の流れを把握することを防げるだろう。
監視カメラの設置
従業員の不正が起こりやすい現場は、主に受付、売店のレジ、調理場、金銭を管理する事務所などが挙げられる。そうした場所に監視カメラを設置することは、不正の証拠を抑えるだけでなく、抑止力としても機能しやすい。
ただし、カメラで写せる範囲には限界があるため、手元を隠したり、利用客や取引先とのやりとりを見えない場所で行われるケースも考えられる。レジ前であれば後方や側面など、できる限り死角のない場所に監視カメラを設置しておきたい。
社内のコンプライアンス意識を向上
不正行為の防止には、従業員への教育も重要だ。悪い行いだとわかっていても、それが会社にどの程度の被害をもたらすか、従業員にどんな処分が下されるかを理解していないこともあるからだ。
そこで、明確に犯罪行為であることや刑事告発につながる可能性を周知し、従業員のコンプライアンス意識を高めておきたい。具体的には、新人スタッフへの教育や既存社員への研修制度の導入が挙げられる。
取り入れるべきテーマとしては、以下のようなものを盛り込むとよい。
- 法律や一般常識、違法行為に関するもの
- 社内規定などの遵守すべきルールを明確化
- 過去に起こった不正事例の紹介
また、コンプライアンスに関する定例会を実施し、「過去の事例に対してどうすれば防げたのか」といった従業員同士での議論やルール設定などに取り組んでもらい、1人ひとりの責任感を高めることも有効だ。
内部監査や通報体制の整備
社内で自主的に調査を行う内部監査は、従業員の不正防止に有効な手段といえる。例えば、定期的な監査で繰り返される不正を無くし、突発的な監査で「いつチェックが入るか分からない」という意識を浸透させることで抑止力につなげられる。
加えて、内部監査は不正の兆候を早期発見するのにも役立つ。取引パターンがいつもと異なっていたり、不審な行動や記録を見つけやすくなるからだ。従業員が緊張感をもって業務を遂行するようになり、ミスやトラブルの防止につながるメリットもある。
また、従業員からの通報体制を整えることも、不正を明らかにする手段の1つだ。経営者目線では見つけにくい不正でも、現場の人間だからこそ発見できるケースもあるからだ。そのためにも、まずは従業員が安全に通報できる窓口を設置する必要がある。
例えば、通報用のメールボックスを作成し匿名での投稿を受け付ける、外部機関による匿名通報システムを導入するなどだ。通報者が不利益を被らないよう、明確な社内ポリシーを制定しておくことも忘れてはいけない。
デジタル化による内部統制
社内のあらゆる不正を防ぐには、仕入れや在庫管理、支払いや請求書など、あらゆる数値をリアルタイムに管理することが必要不可欠だ。しかし、紙媒体でのアナログ管理やエクセルによる手入力では、従業員の負担が大きくなり、改ざんされるリスクも少なくない。
そこで、POSレジや管理システムなどのITツールを導入し、支払いや取引記録などを自動的に記録させる方法が挙げられる。これにより、従業員による不正への対策を強化しつつ、業務の効率化を図れるだろう。
例えば、仕入れ方法をFAX、電話でなくインターネットを使った受発注システムにすれば、発注や伝票処理、購買金額などのデータを一括記録し、すべての取引履歴を残しておける。加えて過去の実績も速やかに検索できるため、定期的な監視体制の構築に大きく役立つ。その他にも、取引実績を元にしたデータ分析や原価管理などにより、会計情報や在庫とのズレをいち早く察知して不正の早期発見にもつながるだろう。
まずは従業員が不正しにくい環境を整える
従業員による不正行為は、機会(周囲に誰もいない)・動機(自分は給料が少ない)・正当化(もっと対価が支払われるべき)という3つのトライアングルが成立することで発生すると言われている。
職務分離や業務のローテーション化、労働環境の改善や待遇の向上といった方法で、根本的な原因を取り除くことが大切だ。とはいえ、人手不足などの様々な要因により、完璧な対応が困難なことも多い。
そこで、まずは業務の監視体制の強化や管理システムなどを導入し、横領や着服などができない環境を構築することが重要となる。特にITの活用は不正防止に有効とされ、業務の効率化にも貢献するので積極的に検討すべきだろう。経営者は従業員を不正行為から守る責任がある。












