ホテル・旅館の反転攻勢に必要な、withコロナ時代の正常収益力の見極め方

飲食・宿泊2021.09.13

ホテル・旅館の反転攻勢に必要な、withコロナ時代の正常収益力の見極め方

2021.09.13

ホテル・旅館の反転攻勢に必要な、withコロナ時代の正常収益力の見極め方

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新型コロナウイルス感染拡大によって宿泊業界は厳しい状況が続いています。国の施策で雇用調整助成金やキャンセル料補填などの施策が実施されてきましたが、宿泊予約の減少やキャンセルが続き、インバウンド回復の見込みも立っていません。

今回はコンサルタントの視点から客観的にホテル・旅館事業者が、今後のコロナ共存時代をどう生き抜くかを考え、経営の活性化につなげるポイントと現段階ですべきことを解説します。

[クロスワンコンサルティング株式会社 塚平和実]

目次

宿泊業界が受ける新型コロナウイルスの影響と対応法

コロナ禍で以前のようなマーケットの規模に戻すことは難しく、経営には工夫が必要です。しかし宿泊業界は大がかりな設備が必要になるため、迅速かつ柔軟な対応を取ることは容易ではありません。

クロスワンコンサルティング株式会社 塚平和実氏

これからの経営はふたつに分けて考える必要があります。まずは今までの延長として物事を考えるケース、もうひとつはまったく新しいことに挑戦していくケースです。

今までの延長として物事を考えるケースとは、例えばコロナ禍でも実施できる単価の高いサービスに注目し、磨くことで収益を上げていく考え方のこと。しかしこれでは限界があるため、新しいことに挑戦していくケースが注目されることになります。

 

コロナ禍で生き残る3つのポイント

8掛け、9掛けの売上を前提にしても、お金をかけない保守的な方法で収益を安定させ、キャッシュフローを稼ぐ方法は3つあります。

(1)付加価値を高めて客単価を上げる方法
(2)マーケットサイズに合わせて事業規模をダウンサイジングする方法
(3)再構築補助金を活用して新しいマーケットに出る方法

1つ目の客単価を上げる方法は、すべての宿泊事業者が取り組むことができます。宿泊業は、労働集約的な人的サービス産業の側面と、装置産業としての側面をあわせ持っています。装置の機能改善や向上は多くの資金が必要となりますが、人的サービス品質向上によるお客様満足度アップは、すぐにでも取り組むことができます。

ただし、取組みを進める場合はやみくもに施策を打つのではなく、自施設のコンセプトや基本戦略との整合性はしっかりと見なければなりません。また、新たな取組みの実効性を高めるためには、マネジメントの仕組みも構築することが必要です。

2つ目の事業をダウンサイジングする場合、例えば施設で常時使わない客室を作る、可能な限り社員だけでサービスを回すことなどが考えられます。ただし、一律にサービスを削ればよいという訳ではありません。ダウンサイズする方向に向かうと縮小均衡でどんどん収縮していき、事業が立ち行かなくなるリスクが高まるからです。

一時的には仕方ないですが、いかに効率良く施設を稼働させられるかという点で生産性の低い事業を見直し、ある程度キャッシュフローを改善する道筋をつけるべきです。例えば、現状は金融機関から大規模な設備投資は難しいと言われていたとしても、足元の収益が落ち着いてくれば次の局面を考える手立てになります。

3つ目は再構築補助金等も活用しながら新しいマーケットに出る方法です。1つ目、2つ目が今までの延長であるのに比べて、3つ目の事業再構築補助金は新たなことに挑戦するケースです。どのような分野へ取り組むかは、業種や規模による違いに加えて、商圏の状況、各事業者の資金、人材、施設といった経営リソースの状況により様々です。

なお、補助金チャレンジにあたっては、コンセプトや基本戦略の変更・修正が発生することを自覚することが重要です。現状ではターゲットにしていないお客様層に対して、今まで取り組んだことがないサービスを提供するのですから。そしてこの取り組みは、自施設のブランド、既存ターゲット、オペレーション、収益構造など様々な影響を与える可能性があります。

新たな取り組みにより獲得できるブランドイメージ、ターゲット、売上がある一方で、失われるブランドイメージ、ターゲット、売上が発生する可能性を、よく考えなければなりません。補助金を獲得したいがために、今まで大事にしてきたブランドやお客様層が離れていくのでは本末転倒です。典型的な「目的と手段の取り違え」にならないよう、「こんなはずではなかった」と後悔しないよう、熟慮の上取り組むべきかを判断していきましょう。

3つの方法を組み合わせながら足元の事業基盤を安定化させ、私たちは本格的なwithコロナ時代への対応を準備しなければなりません。その際に必要なのは、売上、利益といった収益力、借入金、純資産などの財務的状況に加えて、経営者の資質、組織の状況、オペレーションの状況も経営者自身が客観的に把握することです。数値だけではなく、事業の定性的な側見も把握することにより、自施設が本来獲得できる売上や利益を見極めるのです。これが準備の第一歩です。上記売上や利益が“正常収益力”です。

事業継続に必要な正常収益力の見極めポイント

事業性の項目は、定量的・定性的に分けられます。

定量的項目売上、借入金、経費(特に食材費、人件費)、利益など
定性的項目経営者の資質、組織風土、オペレーション、メニュー開発など

 

定量的な項目では、借入金やトップラインの売上、最終的な利益率などが挙げられます。宿泊業界と費用構造が似ているものに飲食業界があり、どちらもフードコストとレーバーコストが大きな要素を占めています。これらは金額や売上に対する率に注目すべきであり、財務諸表を見ることで把握できます。

定性的な項目では、経営者の資質や組織構造、組織風土、モチベーション、モラルなどが挙げられます。決算書を見ているだけでは考えが及ばない館内のサービスなどのオペレーションにも目を向けるべきです。客室の清掃状態などの館内サービスや宿泊プランの展開、夕食のメニュー開発の方法、内容の善し悪しなどです。

ポイントは定量的・定性的の両面で事業性をみていくことです。特に、定性的な項目が機能しているのかを見ることが重要です。コロナ禍が落ち着いた際、マーケットは変化し以前より縮小しているかもしれませんが、正常収益力をベースにしながら、各施設にとって最良の戦略を構築していくことが、経営者に求められます。

今後withコロナ時代を生き抜くためには、経営者もマネジメントスタイルのことを考える必要があります。ここで重要なのは、自身がどのようなマネジメントスタイルなのかを客観的に理解することです。例えば、強力な指導力を発揮してトップダウンで組織を引っ張っていく、逆に、部下の自主性を尊重しながらボトムアップで組織づくりを行うスタイルが考えられます。

まずは、経営者自身がどのようなマネジメントスタイルが得意なのかを客観的に理解します。その上で、現在の組織にとって自身の得意なスタイルのみで対応してよいのか、何か別の方法があるのかを検討していきます。検討にあたっては、経営層でのディスカッションに加えて、社外の専門家に相談することも考えられます。

今後の宿泊業界の見通しは

宿泊業界は、2020年上半期においては破綻に追い込まれる事業者が散見されましたが、行政の金融支援など様々な施策によって下半期以降は減少しています。現状(2021年9月上旬)は変異株が猛威を振るう一方でワクチン接種も進んでおり、旅行需要の回復トレンドに向けた光明も見えています。

本格的な回復局面になれば、今までの緊急的な行政施策や金融支援は終了します。その先には、withコロナ時代の新たなマーケットにおける厳しい競争が待ち構えています。例えば、従来のビジネス出張需要は戻らず、個人旅行の比率が高まり、インバウンドは数年の時間を掛けて回復していくなどが想定されます。

宿泊業といっても旅館、シティホテル、リゾートホテル、ビジネスホテルなど様々な業態がありますが、今こそ、自身の業態を踏まえた事業の正常収益力の見極めを行うことが求められています。そして、正常収益力を見極めながら、環境変化に対応するための戦略と施策を考え、厳しい時代を生き抜いていきましょう。


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