適正在庫とは?在庫管理の重要性
適正在庫とは、欠品しない程度の食材量を保ちつつ、最小限に抑えた在庫数のこと。
例えば、在庫量が増えすぎると食材費に余計なコストが掛かる。また、在庫管理の手間や人手も増えるので、現場の人件費が上がり、業務効率も落としかねない。
大雑把な在庫管理を行なっていると、食材の過多や不足が発生してしまう。特に飲食店では生鮮食品を取り扱うことが多く、数日置いているだけで食材が傷んで腐敗する。これらは食品ロスとして、利益の損失につながる。
在庫はどれだけあるべきか
店舗の売上や来客数は、適正在庫を決める上で重要な要素となる。1日の平均売上高を計算し、棚卸額とおおよその原価率が分かると、現状の在庫が何日分になるかを予測できる。
在庫日数= | (棚卸額 ÷理論原価率) | ⇒店の在庫を全て販売したときの売上高 |
────────────── | ||
(年間売上÷営業日数) | ⇒ 1日の平均売上 |
もちろん取り扱う食材や業態などによって在庫日数は異なるため、大体の目安として考えて欲しい。これに加えて、原材料の仕入れ頻度を考慮しながら発注を行う必要がある。
しかし飲食店では、思惑通りにお客様が訪れるわけではない。季節や天候、立地、客層、曜日などの様々な要因で変動しやすい。平日よりも金・土・祝前日のほうが客数や売上は高くなるなどの傾向がある。
■立地条件ごとの売上傾向
立地条件 | 平日(月~金) | 土日・祝祭日 |
---|---|---|
オフィス | 〇 | ✕ |
郊外 | △ | ◎ |
商業店舗 | △ | ◎ |
◎絶好調 〇好調 △不調 ×絶不調
こうした変動に対応するには、売上予測の精度を高めることが必要だ。具体的には、
・年、月、週単位の売上データと比較
・直近の客数や天候などから来店客の動向を予測
などが挙げられる。
手作業で在庫適正化するとどうなるか
棚卸や在庫管理を、エクセルや紙媒体などで管理している店舗も少なくない。ただこうした手作業による方法は、課題も数多くある。「なにが問題なのか」「どんなデメリットがあるのか」を理解した上で運用してほしい。
時間と人件費の浪費になる
常に少数の在庫なら手作業でも問題ないが、店舗の規模が大きくなるにつれて現実的ではなくなる。原材料の種類が増えるほど手間や時間も掛かるからだ。
また新メニューの提供やメニューの入れ替わりなどがあると、食材の仕入れや消費が大きく変動してくる。そうなると、管理シートの修正作業にもかなりの労力を割くことになる。
エクセルでの管理表作成は自由度が高い分、複雑な計算式やファイル間でのデータ相互参照などを取り入れやすい。だが属人化になりがちで、作成者がいないと作業や修正を行えなくなり、入力作業が滞るのも問題だ。
適正在庫の見分けが困難
適正在庫を見分けるには、日々の発注や在庫などの膨大なデータを抽出する必要がある。しかしエクセルなどの手作業で管理していると、必要な情報をすぐに取り出すことは難しい。
例えば発注量や在庫数、売上や原価率などの情報を参照できなければ、どのくらいの在庫数が適正かを導き出すことも困難だ。さらに欲しいデータが様々なファイルやシートに散らばっていると、探し出すだけでも時間が掛かってしまう。
そもそもエクセルは表計算ソフトのため、大量の情報を貯めこむデータベースとしての利用にはあまり向いていない。
エクセルなどの手作業で行うデータ管理は、数値間違いや入力場所がズレるといったケアレスミスが起こりやすい。取り扱うデータ量が増えれば増えるほど、人為的ミスによるリスクは高まる。
正確な数値管理ができなければ、在庫量の過不足も発生してしまう。過剰に在庫を抱えることで、消費期限内に食材を使い切れず、廃棄量の増加につながるのだ。
こうしたミスの発生は、二重チェックなどの管理ルールを徹底することで、ある程度防ぐことが可能になる。
受発注システムであれば、発注履歴を残せるため、膨大なデータでも正確でスピーディーに処理が行える。
失敗しない在庫管理のポイント
飲食店では仕入れた食材を調理し、お客様に提供することで利益を得るため、メニューの元となる在庫(原材料)は、いわば企業が投資したお金を現物化したものだ。きちんと在庫管理ができていないと、無駄な出費になるだけでなく、資金繰りが上手くいかず黒字倒産してしまうこともある。
店舗経営に失敗しないためにも、在庫管理のポイントやコツは押さえておきたい。具体的には以下のようなものが挙げられる。
・定期的な棚卸
・作業のマニュアル化
・適切なロケーション管理
・管理システムの導入
定期的な棚卸
棚卸は、店舗の実在庫を把握する上で欠かせない作業だ。現状の在庫を確認することで、売上や食材の消費量、食品ロスなども割り出すことが可能となる。
棚卸は週末や月末の決まった日に実施すること。一般的に月1回は行うものだが、週や日別などの細かくするのが望ましい。より正確に在庫量を把握できると、お客様の動向や注文状況の変化にも気付きやすくなるだろう。
日や週ごとの棚卸では、できる限り従業員の負担にならないよう入出荷した分の在庫のみを確認すると良い。その分、月次棚卸では在庫数だけでなく、原材料の仕入れ単価や消費期限などの細かい情報までしっかり押さえる。
また、在庫量だけでなく、食材の消費期限や保管状況、衛生状態を確認する、先入れ先出しで消費するなど、保管する期間をできるだけ短期間に抑えることも重要だ。
作業のマニュアル化
従業員ごとに異なる方法では、安定した在庫管理を行うのは難しい。そのため誰が実施しても同じ結果になるよう、作業のマニュアル化やルールを決めておくことが重要と言える。
例えば、「食材の量が○個以下になったら仕入れる」など、発注時の数値を定めておくことや、食材の保管容器には日付を記入する、在庫の先入れや先出しをするなど。原材料の使用する順番を明確化することで、食品ロスを削減できる。棚卸の際に確認場所を毎回きちんと設定しておけば、重複チェック・記入を防止しやすいだろう。
保管時のロケーション管理
在庫の種類によって、あらかじめ保管スペースを定めておく。どこに食材があるか把握しやすいと、調理の際に取り出しやすく棚卸時の確認が容易になる。一目で分かりやすいよう、食材のエリア毎に色分けするなどの工夫や整理も行うと良い。
また消費期限の近い食材から使用するため、新しいものは奥、古いものは手前への配置を心がける。特に回転率の高いものや消費期限の短いものは、できる限り広いスペースを確保し、食材を入れ替えやすくすることも大切だ。
管理システムの導入
適正在庫の把握には、これまで以上に膨大で複雑な作業や細かいデータ管理が求められる。エクセルなどの手作業で実施するのは相当な負担になるため、管理システムの導入で作業の効率化やスムーズな情報共有を実現することが望ましい。
例えば、システムによる受発注や見積書作成の自動化で、事務作業を大幅に削減できる。スマホやタブレットからもアクセスできるものなら、スキマ時間を活用した事務作業や現場を確認しながらの棚卸もスムーズに行える。
また取引データを基にしたレシピ・原価管理で、より正確なデータ分析や情報の抽出も可能に。管理システムの導入にはコストも掛かるが、それを差し引いても魅力的なメリットや利益がある。
適正在庫のための受発注管理・棚卸などバックヤード業務もデジタル化の時代
以前に比べて飲食店のデジタル化は進んでいるものの、いまだに電話やFAXによる受発注、手作業による在庫管理を行う企業も多い。管理・受発注システムの移行には、ある程度の手間やコストが掛かるからだ。
システム導入による効果の見通しが立たない場合、なかなか改善に踏み切れないだろう。だが受発注管理やバックヤード業務のデジタル化は、リアルタイムで在庫量や原材料の消費を把握しやすい。適正在庫をする上でも取り入れるべき改善事項だ。
特に近年では、コロナ禍による影響で飲食店の経営がシビアになっている。客数や売上の増加を目指すよりも、メニュー原価率の調整や食品ロスの削減で、確実な利益確保が優先される傾向だ。飲食店のコスト見直しを図るためにも、ぜひ管理システムの導入を検討してみてほしい。