人と人をSAKEで繋ぐ柴田屋HD。S1 サーバーグランプリ、海外展開、外食経営塾事業の軌跡

卸・メーカー2023.05.09

人と人をSAKEで繋ぐ柴田屋HD。S1 サーバーグランプリ、海外展開、外食経営塾事業の軌跡

2023.05.09

人と人をSAKEで繋ぐ柴田屋HD。S1 サーバーグランプリ、海外展開、外食経営塾事業の軌跡

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飲食店の接客サービスNo.1を決めるS1サーバーグランプリをはじめ、外食事業者向けの経営塾・太陽の会や日本酒資格制度SAKE EXPERT、酒類の輸出入、M&Aによる外食参入など、次々と新規事業に乗り出す酒販卸の株式会社柴田屋ホールディングス。

1935(昭和10)年創業の同社は社員13名の家族経営から収益構造を変え、いまでは約200人(グループ全体)の社員を抱え、首都圏全般に2,500件以上の取引先を持っている。同社の三代目社長の代表取締役・柴泰宏氏と、御子息で営業本部特販部の柴大晴氏に、事業展開と成長の軌跡、飲食業界への思いについて伺った。

目次

老舗卸の三代目が展開する改革と拡大

【Q】創業(昭和10年)からの沿革を伺います。

株式会社柴田屋
ホールディングス
代表取締役
柴 泰宏 氏

代表取締役 柴 泰宏 氏(以下、柴代表):当社は酒類の卸売りに携わってきて、今年で88年目になります。もともとは茨城県の作り醤油の蔵でしたが、五男である祖父の五郎が、東京に販路を作ろうと上京し、昭和10年にお酒の免許を取って「柴田屋酒店」という屋号で酒屋を始めたのがきっかけです。

やがて業務用卸売業を始め、それが軌道に乗ってきた昭和44年に、父である二代目(現会長)の進一郎が取締役就任と同時に法人を設立しました。

私は大阪の業務用卸で当時日本一だった「株式会社幸田」に大学卒業から3年間、入社前の修業としてお世話になり、どうやったら酒屋で生き残っていけるのかという勉強をさせていただきました。

【Q】修業時代に印象に残ったことはなんでしょうか?

柴代表:お酒の仕入れから販売までのテクニックはもちろんですが、一番教わったのは、お客様はもちろんお取引先様を大事にしなさいということでした。つまり「人を大切にする」ということです。なかでも強烈だったのは、とにかく社員を大切にすることを重視する会社だったことでしょう。人を大切にすることが、日本一の酒卸になる方法なのだと、間近で勉強させていただきました。

【Q】他社で修業してから自社を見たとき、どんなことを思いましたか?

柴代表:当時は会社というより酒屋さんとして、従業員は家族含めて13人、業務用酒卸一本でやってきました。途中からワインを始めましたが、このまま続けていくとどうなるのだろうと不安に思いました。

売上は増えていくけれど利益率は悪くなっていく。売上を取ろうとすると値段が下がるという悪循環に陥る。この利益構造は良くないと思わざるを得ませんでした。

価格競争に巻き込まれずに、どのようにトップラインを上げていくのか。考え抜いた末に導き出されたのが、酒類で一番難しいとされる“ワインで日本一”を目指すことでした。国内で流通しているワインよりクオリティが高ければ、差別化が図れるのではないかと考えたのです。

もちろんビールもその他のお酒も、飲食店さんで扱うものは続けながらワインのシェアを少しずつ上げていこうと考えました。当時の目標としては5年以内にワインの売上構成比を30%まで持っていければ、利益を取りながら会社も成長していけるだろうという考えを基に計画を立てたのです。

ワインへの特化を目標に連鎖的に改革を推進

【Q】そこから様々な改革を打ち出し始めたのですね。

柴代表:ワインを扱うならワインに詳しくないといけません。まずは私自身がソムリエの資格を取りました。その頃には、営業担当者の全員がソムリエになることを目標とし、現在では50名ほど有資格者がいます。

次に、品質管理のためにトラックをすべて冷蔵車に切り替えました。当社はすべて自社で物流を行っているため小回りも利きます。

あわせて倉庫も、温度管理ができるように整備し、常温・冷蔵・冷凍という三温度帯の倉庫に切り替えたのです。ワインはヴィンテージかどうかだけでなく、生産国や作り手などが複雑で管理が難しいお酒です。冷蔵庫を切り変えたタイミングで、商品管理もすべてバーコード管理に切り替えました。

【Q】海外法人設立の経緯は?

柴代表:国内に流通しているワインだけを扱っていくと、インポーターさんの値上げに伴い柴田屋も値上げをしなければなりません。「その値上げって本当に適正なの?」と思いながら、なかなか切り出せないままでした。そういう疑問もあったため、「それなら自分たちでやってみようか」ということになったのです。

お付き合いのあるインポーターとバッティングしないように、まだ日本に入ってきてないもの、もっとコスパがいいものを狙えば、飲食店さんに喜んでいただけるのではないかと考えたのです。

輸入はパートナー会社の「SELESTA」で始めました。やがて輸入だけでなく「日本酒は世界で受け入れられるはず」という思いから輸出も手がけることになりました。

2012年にはタイのバンコクに、2014年にはイタリアのミラノに、2018年には韓国ソウルに現地法人を立ち上げました。ドイツのデュッセンドルフにもパートナー会社を通じて販路を築いています。日本酒や焼酎などを輸出するだけではなく、現地法人がインポーターとして輸入に携わり、かつ問屋としてのディストリビューター機能も併せ持たせています。もちろんデリバリーも自分たちで行います。これからは、ワインの輸入だけではなく、国酒である日本酒が“国際酒”として世界に広がるよう輸出にも力を入れていきます。

【Q】2021年にはホールディングス化されましたね。

柴代表:2018年に最先端のクラフトビールを生み出す醸造所を併設したビアレストラン「ビール工房」を運営する麦酒企画という会社をグループ化しました。また、お酒とおつまみの品揃えを充実させた小売店などを「SAKE-YA JAPAN」という会社に統合しました。

2023年1月には惣菜屋を展開する会社をM&Aでグループ化しました。いわゆるセントラルキッチンで、いまは3店舗ですが、いずれ直営店はもちろん、外食にも提供できないかと考えています。

2021年9月には、社内に物流部門としてあった機能を「株式会社SKL」として独立。コロナ禍で個人宅へのデリバリー需要の増加を見込んで、飲食店への納品だけでなく物流会社としての体裁を整えたということです。

こうした事業展開に伴って2018年にグループをホールディングス化し、いまは人事、総務、経理、経営企画、広報と、すべての管理部門を集中させました。M&Aで様々な会社と一緒になるときにも、ホールディングスとして動くことで意志決定も早く、事務手続きも非常にスピーディーにできます。

採用面でも酒類卸事業に興味がある人、製造事業に興味がある人、物流事業に興味がある人などを一括して採用することができるようになりました。採用した社員の定着、キャリアアップを図る上でも、手掛ける事業を多角化してきたことが大きなメリットを産み出すことに繋がっています。

理念経営における様々な仕掛け

【Q】幅広い事業展開を支えるのに必要なことは何でしょうか?

柴代表:当社では「絆を大切にし、社員とお客様の成長と幸せのために挑戦し、飲食業界の発展に貢献する」を全体のミッションとして掲げています。その中で、もっとも大切にしていることが「全社員の幸せ」を追求することです。

そうしたミッションを完遂するには、「社長経営ではなく理念経営が大事」だと私は考えています。社長の言うことを聞かなきゃいけない会社であってはなりません。経営理念を実現するためにこの会社が存在している。それを私も含めた全社員が自覚することが大事だと考えています。

【Q】その理念を全社員にどう浸透させているのでしょうか?

柴代表:当社は今期で88期目を数えますが、期が変わる9月に経営計画書を社員一人一人に配っており、柴田屋酒店のミッション・ビジョン・バリューを明記しています。いわばバイブルのようなもので、これを理解してもらうように何度も明示しています。

入社後の研修でもテストしますし、朝礼の際に「絆と挑戦」というバリューについて、毎日エピソードを変えて、1分間スピーチをしてもらっています。私が全社員と面談して、皆の夢を知り、それを実現することを目標にしたレクチャーを受ける「ドリームプラン研修」という企画も実施しています。

「週刊社長」というトップメッセージも毎週1本書いて、社内報として流すこともやっています。あるニュースを取り上げ、私が感じたことを伝えることで視野を広げてもらう。社員に感想を聞くこともあります。もうすでに450号を超えていますから、9年弱にわたって、毎週書き続けています。

人事評価の基準についても、等級ごとの給与額をオープンにしています。また、評価をしっかりとフィードバックする仕組みも整えています。いずれも、他社ではなく当社を選んで入社してくれた社員に対して、経営サイドにいる者としては、やはり一人一人と向き合って行きたいと思い始めたことです。

13人の会社から、いまでは社員が210名ほどに増えました。パートさんも含めると400人近い社員のいる会社にまで成長できたのは、社員のみんなが支えてくれたからです。社員を大事にしていくのは経営者として当然のことだと思っています。

飲食業界の発展に向けた「S1サーバーグランプリ」

【Q】得意先である飲食事業者向けにも様々な企画を展開していますね。

柴代表:「飲食業界の発展に貢献する」という企業理念の一環として、試飲会、店舗運営セミナーの開催や情報紙を発行し、365日試飲ができる「Tasting Bar」を開設するなど、情報提供を精力的に行ってきました。

おなじ目的で、「S1サーバーグランプリ」を運営しているNPO法人「繁盛店への道」を2004年に立ち上げました。飲食店で働くすべての人を「サーバー」と定義し、彼らにスポットを当てた接客コンテストで、今年17回目を数える全国規模の大会となっています。

他にも2004年に一般社団法人「太陽の会」を発足させました。外食企業の経営者たちが気軽に悩みを相談できる場、情報を共有する場として定期的に開催しています。経営塾という位置づけで捉えてもらえれば分かりやすいと思います。

さらに2015年には「日本酒を国酒から、国際酒へ」をモットーに、日本酒の資格「SAKE EXPERT」を認定・発給する一般社団法人「JAPAN SAKE ASSOCIATION(JSA)」もスタートさせています。

【Q】なかでも「S1サーバーグランプリ」は全国的に定着してきましたね。

柴代表:「S1サーバーグランプリ」の第1回は2006年でした。飲食店のスタッフを対象にした催しではありますが、もともと接客の大会を開催したかったわけではありません。

当社は、飲食店に対してドリンクメニューの提案と供給がメインの仕事になります。関連した知識を増やすためにセミナーを開催したり、勉強会を行ったりして来ましたが、所詮1社だけではできることには限界があり、入手できる情報も限られるし、既知の業界情報しか入手できません。

これをNPOにして、酒屋以外にも八百屋さん、飲食店さん、食器屋さんが一堂に集まる場所があれば、人脈もノウハウもアイデアも、100社なら100社分集まるわけです。そうすることで、いままでできなかったことにも挑戦できると考えたのです。ただ接客技術を磨くだけでなく、コミュニティを形成することで業界として力を蓄えてボトムアップしていこうという思いで始めたことです。

産みの苦しみ。それからの紆余曲折

【Q】発足当初は反対意見も多かったのでは?

柴代表:実際のところはたくさんありました。「飲食業界を知らないくせに何様のつもりだ」とか「サービスの何が分かるのか」や、「サービスを可視化するとは何事だ」といった声も少なくありませんでした。

なので、本当に不安で仕方がなかったです。ですが蓋を開けてみると、2カ月間のエントリー期間を設けて参加者を募ったところ、1カ月ほどで200名もの応募が集まり、「よくぞ開催してくれた!」「こういう大会を待っていた!」などの声も届きました。これは社会的に必要な催しだったのだと実感しましたね。

【Q】全国的に広がっていった理由は何だと考えていますか。

柴代表:初回、2回目と東京開催でしたが、2回目の優勝者が大阪の方だったことをきっかけに、3回目を大阪で開催しました。それからは前回優勝者の出身地で開催するのが通例のようになりました。全国を巻き込んでやらなければ飲食業界の発展に貢献するという理念から離れていくような気がしており、東京だけの大会で終わらせたくなかったのです。

以降は、名古屋、福岡、仙台、札幌と開催地を変えても人が集まるようになってきたため、地区の代表を選んで全国大会に行くスキームで運用しました。関係者の協力があったからこそですが、どの地区でも十分なエントリーが獲得できたのは手ごたえを感じました。

シェフや料理人と比べると、普段はあまりフォーカスされることがないホールスタッフたちが全国的に名を知られるような場所になったので、それだけ意義のある企画だと分かり、主催者としても嬉しいできごとでした。

【Q】2021年の15回大会はコロナで中止となりましたね。

柴代表:あの決断は辛かったです。ですが、そのおかげで16回大会を新しい形でスタートさせることができました。

それまでは、一次審査で落ちてもエントリー費が一律15,000円かかっていました。さらに二次審査、三次審査まで進むとなると、交通費や滞在費など、エントリーされた方の負担が増えることを主催者として課題に感じていました。

ところがコロナ禍でオンライン開催の道が開けてきたのです。Zoomなどのリモート会議システムが一般的になり、いつでもどこでもS1サーバーグランプリに参加できるようになりました。エントリー費も以前の3分の1にあたる5,000円に下げ、交通費も滞在費もかからない。主催者側から見れば会場費が不要なので、その分は優勝賞金を100万円に引き上げることができました。

また、三次審査では予備審査として一般投票ができる仕掛けを作りました。YouTubeで配信をし、それをもとに投票してもらうことにしたのですが、その副次的効果として、自分の接客の様子を家族や知人に見てもらえるようになったことがありました。

【Q】様々な仕掛けが功を奏して大盛況でした。

柴代表:当初はエントリーを断られるケースが相次ぎ、6月末が締め切りのところ、5月になっても伸び悩みました。それでも、最後の1カ月で急速にエントリーが増えて、過去最高の900人にまでは届かなかったものの、最終的には630人を超えるエントリーを獲得できました。

【Q】息子さんは初めての参加だったそうですが、いかがでしたか。

株式会社柴田屋
ホールディングス
営業本部 特販部
柴 大晴 氏

営業本部特販部 柴 大晴 氏(以下、柴大晴氏):当日は大会運営上でハプニングが随所に置きましたが、そのたびにスタッフの方々が団結してトラブル解消に動いていました。共通の想いを持った仲間が集まると、人はここまで一生懸命になれるのだと感動しました。

今回はたまたま事務局に入ることができて熱いパワーを感じることができましたが、次回からはぜひ運営にも携わって、さらに深い満足感を得たいと強く思いました。

今後の展望と関係者への思い

【Q】「S1サーバーグランプリ」代表理事として、またサプライヤーとしての展望をお願いします。

柴代表:外食企業では人手不足や物価高騰など、いくつもの課題を抱えながらサービスを続けています。一方で柴田屋酒店は、そんな外食企業との付き合いの中で売上を立てています。だからこそ、サプライヤーとして「苦しい状況に諦めず、業界を一緒に盛り上げていきましょう」としか、言えることがありません。

幸いにいまインバウンドが元に戻りつつあります。私は、これをきっかけに日本の鎖国状態が解けると考えています。チップなのかサービス料なのか、名目はともかくとしてインバウンド需要に乗って、最初は恐々と単価を上げていく店が増えていくでしょう。それでも外国人観光客が利用していただくと、外食の単価についてトップラインが決まってきます。

適正価格が定まってくると、日本の外食が海外で安心して展開できる状況になります。もともと日本食は海外で人気だし、クオリティが高く、世界で競争できると思っていますから、やがて日本の外食、食文化が海外展開していくことになるはずです。

S1サーバーグランプリでも、あるいは他のイベントでも構いません。飲食業界が一丸となって前に進んでいく。そうやって一緒に業界が盛り上がっていけば、それほど嬉しいことはありません。

柴大晴氏:飲食業界の現場で働いているスタッフの地位向上というのは、もっと考えていかなくてはならない問題だと思っています。日本の外食は世界に通用する文化ですが、海外に進出していくためには、まず足下を見ていかなくてはなりません。

本業で会社の売上を伸ばすことはもちろんですが、一方で、S1サーバーグランプリをはじめとする業界が良くなるための取り組みは、ぜひとも継続させ、拡大していきたいと思います。

食品卸の3大課題 受注、入力、販促を解決『TANOMU』

株式会社柴田屋ホールディングス

1935(昭和10)年に東京都中野区で柴五郎が個人企業として柴田屋酒店を創業。「絆を大切にし、社員とお客様の成長と幸せのために挑戦し、飲食業界の発展に貢献する」を理念とし、世界から日本へワインを輸入し、日本から世界へ日本酒を輸出する。小売りスペースを併設した飲食店「SAKE-YA(サカヤ)」も運営している。
公式ホームページ:https://www.shibatayaholdings.co.jp/

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