黒麹仕込みの原点回帰で誕生した「食に合う焼酎」
焼酎造りに適した風土といわれる宮崎県都城市。この地で霧島酒造は今年創業100周年を迎えた。もともとは焼酎を仕入れ販売する小さな商店に端を発し、1916年に本格焼酎の製造に着手。他のメーカーに先駆けて焼酎造りの近代化を進め、杜氏制の廃止や、減圧蒸留機、仕込みタンク、瓶詰ラインなどのオートメーション化を実現するなど、革新の風を吹き込んできた。
「当社が目指していた黒霧島のコンセプトは、ずばり『食に合う焼酎』だったそうです」と霧島ホールディングス企画室の長谷川裕晃氏。黒麹が醸し出す独特のコク、キレこそが、このコンセプトを実現する上でのカギだったという。
ここで少し、九州における焼酎造りの歴史について紐解いておこう。明治の終わり頃まで、焼酎に使われる麹菌は琉球泡盛にも使用される黒麹が主流だった。しかし、黒麹は名の通り胞子が黒いため、空気中に飛散して服や設備を黒く汚してしまうという理由もあり、昭和に入ってから白麹へとシフトしていった経緯がある。
霧島酒造も創業時は黒麹を使っていたが、白麹に切り替えて久しかった。1990年代に入って黒霧島の開発にあたり、同社は創業当時の『黒麹仕込み』の味わいを再現することにこだわった。そこで黒麹を使用した焼酎の生産に、最新鋭の設備を駆使して黒霧島が誕生した。現在でこそ『芋臭さを感じない斬新な芋焼酎』と評される名品だが、実は原点回帰が生んだヒット商品なのだ。
「当初は、焼酎を深く知る玄人向けの商品として考えられていました。しかし、芋焼酎が苦手な女性などからも『すっきりしていて、これならオン・ザ・ロックで飲める』という声を多くいただくようになったと聞きます」
意外にも当初想定していたターゲットとは異なる層から支持が得られるようになったことで、社内には「いけるかも」という雰囲気が漂い始めたという。