『黒』を前面に押し出すことを提案したのは、同社の江夏拓三専務だった。白い光を放つカーナビが、トンネルに入ると途端に黒く反転するのを見てひらめいたという。
「専務が、黒地に金の刺繍が施されたネクタイを着けて会議に参加し、『このネクタイのデザインは良いでしょう!』と会議の中で賛同を得たエピソードは、社内の語り草になっています」
無数に並ぶ焼酎のボトルの中でも、一際目立つ黒のデザイン。販売促進の一助になっていることは間違いない。専務のひらめきと行動なしでは、ここまでのヒット商品にはならなかったかもしれない。
安定供給体制を整え、焼酎界の雄へ
2002年、これまでの下地作りが実を結ぶ。黒霧島がテレビで紹介されたことをきっかけに一気に売上が伸び、翌年には芋焼酎市場で出荷量1位を記録することとなった。さらに2004年には需要があまりにも急激に伸びすぎたため、出荷を制限せざるを得ない事態に陥った。せっかく獲得した顧客にひたすら頭を下げ続ける、とにかく苦しい時期だったという。
「原料である芋には、傷みやすく保存が効かないという大きな弱点があります。ですから、商品が製造できるのは年間100日程度に限られていました。そこで、芋の冷凍保存を導入することにより、通年で製造できる体制を構築することに活路を見出したのです」
また、地元・都城市の農家を囲い込み、原材料である芋が不足するリスクを軽減している。現在、同社と契約を結んでいる生産者は約2000軒と万全の体制。豊作、不作に関わらず一定の支払いを保障する仕組みも築くことで、作り手のモチベーションを上げることにも繋げている。
今や、全国のスーパーやコンビニ、酒販店などの小売店で気軽に購入できる「定番」に欠品は許されない。南九州産の芋にこだわりながらも安定供給体制を整えた同社に対する信頼は、更に増しつつある。
黒霧島は、EU圏、北米圏、アジア圏にも輸出されている。主な消費者は現地在住の日本人ではあるが、本社工場周辺に広がる『霧島ファクトリーガーデン』を訪れている外国人観光客が年々増えており、注目の高まりが感じられる。「国内の基盤を固めつつ、海外展開の準備にも注力していかなければ」と語る長谷川氏。和食人気の高まりとともに、食に合う焼酎『クロキリ』が世界を席巻する日もそう遠くはないのかもしれない。
霧島酒造株式会社
宮崎県都城市下川東4-28-1
電話0986-22-2323
事業内容:本格焼酎の製造および販売、地ビールの製造および販売、レストラン事業、パン製造および販売、焼酎粕のリサイクル処理・エネルギー化
公式HP:http://www.kirishima.co.jp/
お話:霧島ホールディングス株式会社企画室 長谷川裕晃氏