ヒットに繋げた独自の販促キャンペーン
とはいえ、発売時は当然無名の状態だった。白麹を使った既存商品の『霧島(現・白霧島)』愛飲者が多い中、まったく異なるコンセプトを持つ新商品をどう売っていくか、営業サイドも酒販店サイドも当初は戸惑っていた。そこで、地道な正攻法の営業活動に加え、ユニークな販促キャンペーンを繰り広げる。
「販促キャンペーンの中心を九州第一の都市である福岡市に定め、朝の駅で100ml入りの無料サンプルを配布していき、その数は1日約2000本にも及んだそうです」
出勤前のサラリーマンにアルコール飲料を配るという、斬新な販促活動には狙いがあった。仕事帰りに配ったのでは、そのまま家に持ち帰るだけで終わってしまう。しかし、出勤前なら職場に持ち込んでもらえるので、より多くの人の目に触れ話題にしてもらえるというわけだ。そんな販促が功を奏し、福岡のオフィス街に勤めるビジネスマンの多くが黒霧島の存在を知ることとなった。
一方で、酒販店向けには、新しく女性で営業部隊を構成。同社にとって未開の地である福岡を切り拓こうとする上で、同業他社とは異なる女性の営業担当を立てて差別化を図ったのだ。実際に、女性ならではの細やかな対応や、消費者目線での売場レイアウトの提案などで酒販店主からも好評を得たという。
また、『食に合う焼酎』という当初の開発コンセプトを訴求する努力も忘れていない。
「九州各地のタウン誌などに、宮崎や九州の『うまいもの』を紹介する記事を定期的に掲載しています。1987年から連載を開始し、2016年7月時点で710回目を迎えました。『食に合う焼酎』というコンセプトを、この連載を通して消費者の皆様に伝えています」
商品の特徴や魅力を前面に出すのではなく、あくまで九州の食をフィーチャーした内容は、純然とした広告とは異なり、読み物として好評を得た。読者は、黒霧島を『うまいもの』に合わせて味わいたい焼酎として、自然に認識するようになったのである。
そして力強さを感じる黒のラベルも、『黒霧島』を語る上で外せないポイントだ。
「現在でこそ、ほとんど抵抗ないと思いますが、当時の食品業界では『黒』というネーミングやパッケージはタブーという風潮がありました。当社の『霧島(現・白霧島)』と並べると『お葬式みたいだ』と、社内からも反対意見が多かったようです」