「カニアレルギーを持っていた従業員の方が、まかないで提供されたクリームコロッケにカニが入っていないと思って食べてしまい、アレルギー反応が出てしまったのです。『これはすぐにどうにかしなければいけない』と思いました」(湯田氏)
「一般のお客様は、情報に不安があればそのお店を利用しなければ済みます。しかし、まかないはそうはいきません。従業員の方にとっては、選択肢がない中で、毎日習慣的にとる食事ということになりますから、食材管理に不安があったら大きな問題です。生命に関わることもあり得ます。実際に、一般のお客様よりまかないのほうが、アレルギーに関する問い合わせが多かったのです」(橋本氏)
原因となる物質も症状も危篤度も人それぞれの食物アレルギーでは、まず情報を提供することが有効な対応となる。このメニューには、どんな食物アレルギーが含まれているのか、コンタミネーションの恐れがあるのか――。アレルギーを持つ人が、その情報をもとに「食べられるかどうか」を判断できることが重要だ。
情報提供には、取引先の協力が欠かせない、ということ
このアレルギー情報の提供に必要なのが、前述の商品規格書の管理だ。これには、当然ながら取引先の協力は欠かせない。
「今では、食材を仕入れている取引先のメーカー、卸のほぼ100%が、規格書を提出してくれています」(橋本氏)
というのも、同社では、取引の契約書に、年に1回、工場監査を行ってその結果を報告すること。そして、『BtoBプラットフォーム規格書』を通して規格書を提出することを、条件として入れているという。取引先にとっては、得意先から厳しい条件を突きつけられているかたちになるが、実際の反応はどうだろうか。
「最近では、『最初は取引のために仕方なく対応していたが、結果として従業員の食の安全・安心に対する意識が高まった』というお声をいただくことがあります。あと、『マルハンダイニングの厳しい要求に応えているということが、信頼できる実績として受け取ってもらえ、新規の取引先を開拓しやすくなった』と言われたこともあります。これは嬉しかったですね」(湯田氏)
「何か起きてからでは、遅い」
今後はアレルギー情報だけでなく、栄養成分の提供も視野に入れ、さらに情報管理を徹底したいと話す同社。最後に、外食業界全体の食の安全・安心について話がおよぶと、やはり命に関わる恐れがあるアレルギー対応の遅れを危惧しているという。
「食物アレルギーを持っている方が、怖くて外食できないという状況は続いています。これに、外食企業がほとんど応えられていない。なんなら“食べなくていいよ”と思っている企業もあるのではないのでしょうか」(湯田氏)
「実際にアレルギー対応をやって思いましたが、コンタミの問題もあるので、本当に難しいんですよ。だからといって向き合わなくていいのかというと、それは違う。実際、問題に直面して、困っている人はたくさんいらっしゃるんです」(橋本氏)
「弊社の代表の佐谷も、食の安全・安心に対しては非常にシビアです。対策をするにはコストがかかりますが、これで企業としての安全・安心を守れるならば、必要なコストだという考えです。企業として、当然行うべきリスクヘッジでしょう。何か起きてからでは遅いですから」(湯田氏)
何か起きてからでは遅い――。“食”に関わる企業にとって、それが何を意味しているかは明白だ。複雑化・多様化しているからこそ、他社の取り組みを参考にしつつ、まずは自社に必要な安全・安心対策を見直してみてはいかがだろう。
株式会社マルハンダイニング
住所:東京都江東区深川2丁目8番19号 さくらいビル4階
電話:03-5646-6777(代表)
事業内容:「ごはんどき」「カフェ バンカレラ」「てんがら」「Scrop COFFEE ROASTERS」などの飲食店の経営や、食料品の卸小売業など。
公式HP:http://www.maruhandining.co.jp/