飲食業で地域活性。周辺店を巻き込んで、若者が集まる仕組みをつくる~グッドフェローズダイニング西勇二社長

飲食・宿泊2021.02.18

飲食業で地域活性。周辺店を巻き込んで、若者が集まる仕組みをつくる~グッドフェローズダイニング西勇二社長

2021.02.18

飲食業で地域活性。周辺店を巻き込んで、若者が集まる仕組みをつくる~グッドフェローズダイニング西勇二社長

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地方では人口減少と高齢化が顕著な課題だ。若者の流出を防ぎ、街を盛り上げるために飲食業ができることはないか。その成功事例のひとつが鹿児島にある。居酒屋、カフェ業態と幅広く店舗展開するグッドフェローズダイニング。人気店の業態開発や季節イベントの企画などで街に活気を呼び込み、コロナ禍の中にありながら鹿児島初の公園一体型レストランカフェをオープンさせたり、従業員の満足度を上げたりもしたという。

居酒屋甲子園の理事として全国の飲食店をまわった経験から、代表取締役の西 勇二氏は、「自分の街の価値を認識する。周りを巻き込み、自分だけでがんばらない」と、お客を奪いあうのではなく増やす、飲食を通じた地域活性化のポイントを語る。

目次

自分の街だけを考えていても、この業界に未来はないと思った

【Q】鹿児島を拠点に、幅広い業態で繁盛店を展開されていますね。

私が小学校に入る前、父が突然それまでの仕事をやめて鹿児島黒毛和牛を飼うと言い出しました。そして本当に電気も通っていない山で、自分で切った木で柵をこしらえ、稲作と芋づくりをしながら牛を1頭ずつ増やしていったんです。農業、畜産に関わる中で魅了されていったのが食の力でした。どんなにキツイときも、おいしいものを食べたら笑顔になる、そんなエネルギーを与えられることを積み重ねていければと思ったのが原点です。

2002年に26歳で創業し、今でこそ、鹿児島の玄関口である鹿児島中央駅があるエリアなどに居酒屋やカフェ、レストランと様々な業態を出店し、県内全域に15店舗を展開しています(2021年1月現在)。

一号店は、県の南端にある南九州市川辺町という人口3万5000人足らずの小さな町でした。自分の育った地域をどうにか盛り上げよう、新しい飲食店があれば若者離れが止むんじゃないかとレストランバーをオープンしたのがはじまりです。

人口流出は、どの地方自治体も抱える悩みだと思います。当時の川辺町は数十年後には人口が半減すると試算されていて、次に店舗展開した隣町の南さつま市も同じ状況でした。地方で人口が減っていく中、自分たちの街のことだけ見ていてもダメなのではと次第に考えるようになりました。

その思いは、居酒屋甲子園の理事として全国各地の飲食店を視察した経験からいっそう強くなりました。過疎化はどの地方でも進んでいますが、その中でも元気な街というのは、共通して玄関口の駅前が栄えています。

鹿児島の繁華街・天文館は、新幹線の停まる鹿児島中央駅からは離れた場所にあり、当時の中央駅周辺といえば改札を出て左側はビジネスマン向けの飲み屋で賑わっていたけど、右側は空き店舗が目立つ古い商店街でした。老舗の名店も美味しい店もあるんですが、長年、新たなお客様を呼び込むということをしていないエリアでした。まず玄関口のこのエリアが面白くなければ地方の未来は描けないのではないか、ここを盛り上げようと決めたんです。

【Q】あえて賑わってない側に出店されたんですね。

鳥門米門うまいもん。総本店(鹿児島中央)

考えるべきは「うちの店が」ではないんです。隣の店の客を奪って自分の店の売上を作っても、地域活性にはなりません。

街を元気づけるために居酒屋業態で出店すると、待っていたかのように繁盛しました。昔ながらの街で新参者が店を繁盛させると、どうしても反発が起きます。

肝心なのは、かき入れ時の宴会シーズンだけでなく、閑散期でも客足が絶えない店であることです。常に賑わい続けていれば、反感のあった店舗も次第に、「いつもお客様が溢れているあの店と、自分の店の違いはなんだろう」と考えるようになります。

そして、考えるようになった店舗は長年同じだったメニューや店構えがどんどん変わっていきます。もともと魅力のある飲食店が多いので、おもてなしの姿勢を少し変えるだけで新しいお客様が「この街イイね」と気に入って通ってくださいます。

そんな店が増えれば街自体の話題性が出て、メディアで取り上げられるようになり、パイの奪い合いになることなく街は活気づいていくんです。10年経つ間に、空き店舗ゼロ、出店したくてもなかなか物件が出ない人気エリアに成長しました。2021年4月には、県内一の高さの再開発ビルが竣工して商業施設も開業します。

飲食をやりたい若い人が、この街面白そう、ここに店を出したいと思うような街づくりをしておけば、街は自走していきます。そうなれば我々はバトンを渡すといいますか、居酒屋だけに偏らないようにカフェや洋食など他業態で展開したり、また鹿児島の別のエリアで同じように出店して盛り上げていったり、その繰り返しです。

人材募集を求人誌に掲載しなくても100人超が殺到する理由

【Q】何もないところから街を活性化させるご苦労はありませんか?

全国各地で飲食を通じた地域活性化の話をさせていただく機会があるのですが、そこでは多くの経営者が自分の生まれ育った場所を飲食で盛り上げ恩返ししたいと考えています。ただ、ありがちなのが同じ思いのプレーヤーの足並みをそろえて物事を進めようとするケースです。これは我々も当初そうだった経験があってお勧めしません。行動がとても遅くなるからです。ひとりで矢面に立つ覚悟、「新参者が勢いだけでやっている」とキツいことを言われても成し遂げる姿勢を見せ続けていれば、共感して力を貸してくれるメンバーがいつの間にか隣に並んでくれるのです。

JR鹿児島中央駅前AMU広場にて開催される
『鹿児島クリスマスマーケット』

鹿児島市内で店舗展開するようになって、ありがたいことに駅ビルの商業施設と組んで、2015年からクリスマスシーズンに駅前広場で「鹿児島クリスマスマーケット」という県内最大の冬の風物詩を開催しています。

はじめに考えたのはイベントの持続性で、あえて周りを巻き込むことを意識しました。続けることで、ああ冬になったね、今年もこの季節だねと感じてもらえる風物詩創りは街のひとつの原動力になります。

開催期間中、飲食業って楽しいと感じたアルバイトの子は、また翌年もやりたいと応募してくれます。実際、我々は、新店舗オープンと、年に一度のクリスマスマーケット以外に求人広告で募集することはありません。

通常、飲食業でアルバイトを募っても応募は数人といったところですが、「鹿児島の玄関口を、食を通じた風物詩で一緒に盛り上げよう」と声をかけると、12月でも1週間で170人もの希望者が殺到するんです。食を通じて地域を照らす喜びを伝え、飲食を志す人を増やし、間口をしっかり作るのが、これまでたくさんの地域に支えられて繁栄させていただいた恩返しだと思いますし、この業界の未来につながるのではないかと考えています。

【Q】飲食業界の地位向上も、取り組みとして掲げておられますね。

私が飲食業をはじめた20年ほど前は、飲食業はキツいし稼げない水商売だと思われていました。今は、働き方を時代に合わせて、週休2日しっかり休めるし、居酒屋業態なら昼が空いてるから実は子供の授業参観や学校行事にも参加できるんだと伝え、少しでもブラックというイメージを払拭したいところです。給与の面でもコロナ禍であっても絶対下げずにむしろ上げています。

地位向上のためにも、創業時から学べる環境づくりを大事にしていました。県内に飲食経営の勉強会がなく、今のようなオンラインもない時から、各店舗の店長には東京・大阪・福岡と各地に飛んで、店舗経営+αの自分ならではの強みを身に着けてもらっています。

また社内制度として、QSC向上や数値の見方などを部活動のように店舗を横断して学べる場を設けています。心がけているのは、スタッフそれぞれの能力に寄り添うこと、自分で考えて成長する環境づくりと、数字の見える化です。

どうしても現場は忙しくなりがちで、休みが取れない中で学べといわれても余裕が持てません。学ぶ時間も労働時間内に組み込み、率先して学んで働く環境の整備をするのは経営陣の務めだと考えています。

IT化で仕入れコストとレシピを管理

【Q】どのような環境整備をされたのでしょうか。

たとえば食材の受発注は2018年にインフォマートの『BtoBプラットフォーム 受発注』を導入して、環境改善とコストの見える化を両立させています。振り返れば恥ずかしいですが、当時、店舗数が10店舗を超えていたのに発注はFAXや電話が中心でした。それでは各店舗で頼んでいる同じ商品の値段が卸業者ごと違っても、把握するのは困難です。それに、営業終了後にFAXで発注をかけると発注ミスや漏れが起きるリスクがどうしてもありました。字がきれいな店長ばかりじゃないし、FAXを受け取る先方も大変だろうなと思っていました。

受発注のシステム化で、食材の価格は本部で把握できるようになりました。鶏もも肉やエビなど、だいたいこの時期に値上がりしやすいなと定期的にチェックしています。発注状況が画面上で確認できるので、ミスも減っています。

また、1年ほど前からメニューごとに原価やレシピを管理する『メニュー管理機能』も活用するようになりました。我々は業態が多岐にわたるので、メニューも店舗ごとに違うのですが、たとえば居酒屋が新たにアヒージョをメニューに加えたいと考えた際に、洋食業態の姉妹店が提供しているアヒージョのレシピを参考にするといった使い方をしています。作り方を1から考え原価を洗い出すのは大変ですが、姉妹店ですでに試行錯誤した上で実際にお客様に提供までしている人気商品のレシピが共有できるのは有効です。

地域活性化で未来をつくる

【Q】今後の展望をお聞かせください。

先日、鹿児島中央駅と繁華街の天文館を結ぶエリアに再開発で新しい公園が誕生したことで、中心市街地の回遊性がますます向上しています。我々はこの公園に、県内初の行政と民間が手を組んだ公園一体型レストランカフェ「BlackSmith(ブラックスミス)」を出店し、店舗の一角には、誰でも出店できるレンタルキッチンスペースを作りました。

また、社内に大手コーヒーメーカーと提携したバリスタスクールも構えました。実際の店舗で働き、給与をもらいながら技術を身につけることができるんです。バリスタの技術のみを習得する一般的なスクールと違って、人材育成やマネジメントも学べる研修施設や講師陣を準備し、だいたい資金がたまる2年ほどで独立できるような、実践的な環境を整えています。

鹿児島でも市街地を離れると、将来的な空き家問題は深刻です。当社のスクールで学んだ子たちが、自分たちのおじいちゃんやおばあちゃんの古民家を再生利用してカフェを開業する道を思い描いています。県内の離れたエリアや離島に古民家カフェが点在し、休みの日にはカフェめぐりが楽しめる、ヨーロッパの歴史ある街のような鹿児島になってもらいたいですね。

日本各地域、その土地ならではの魅力と可能性にあふれています。価値に気づき、物語をしっかり伝えていくこと。その街に住む人たちの心が幸せになること。そこに飲食事業で関われる喜びは、何事にも代えがたいものだと思っています。


BtoBプラットフォーム受発注

株式会社グッドフェローズダイニング

本社所在地:鹿児島県鹿児島市谷山中央1丁目4971
事業内容:飲食事業
公式ウェブサイト:https://www.good-fellows.net/

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