それはアテネオリンピックで大活躍をした、水泳チームの強さに迫る番組でした。オリンピックが始まるずいぶん前から、彼らは「アテネの空に日の丸を掲げる」を合言葉にして言い続けていたそうです。つらい時にその言葉を思い出して踏ん張ることで、実際に大量のメダルを獲得していました。その時「人は言葉ひとつで団結して、強くなれるものなのか。もしや、これは企業理念にも通じるのではないか?」と気づきました。
理念そのものについての認識は改まりましたが、すぐにいい理念が浮かんだわけではありません。散々悩み、作り変えるなかで、何週間も白紙のまま進みませんでした。
しかし、妻の言葉がきっかけで「幸せ」というひとつの言葉が浮かんできたのです。そこから「結局、人は皆、幸せになりたいのではないか?」という考えに至り、「幸せ」を英語にして、より能動的になるように「Be」という動詞を加えて「Be Happy」というフレーズが誕生しました。
この言葉が色々な場面で大切になるんですよ。このフレーズが決まったあとは早くて、私の考える飲食業界に対する姿勢や、将来のビジョンなども加えて、現在の企業理念が完成しました。
【Q】企業理念が完成して、すぐに結果は出たのでしょうか?
実はここが大事なポイントで、理念は『ある』だけではダメなんです。それを社員全員に浸透させないといけません。とある有名な社長に会社経営の成功の秘訣を伺ったところ、理念の浸透が50%、それを基にした良い社風作りが30%、戦略や戦術は残りのたった20%だと。そこで私も、第2ステップとして企業理念の浸透に力を入れました。
【Q】具体的にはどういうことをしたのでしょうか?
理念を伝えるということは、言葉を伝えるだけでは足りません。例えば、理念の中に「快適な空間の提供」というものがあります。しかし50代の私が考えるものと、入社間もない社員さんには、一言だけでは伝わらないものなのです。
そこで、理念で掲げた言葉をひとつひとつ抜き出して、同じ解釈というか、共通の認識を持ってもらうための、解説本を作成しました。非売品で2000冊近く発行して、うちで働くスタッフはアルバイトも含め、全員必ず1冊は持っています。
【Q】そもそも、企業理念があるとどういう面で効果を発揮するのでしょうか?
会社の意思決定スピードが格段に上がります。例えば、会社経営をしていると、大きなことから小さなことまで、決めるべき事が山ほどあります。それを何の判断基準もなく決めてしまうと、重要な決定事項を誤って判断してしまうことにもつながります。