プロフェッショナルな農家とのパイプで仕入れる、良質な牛肉
萬野社長は23歳の頃、祖父の代から続く精肉卸会社に入社。と畜解体など、抜骨の捌き職人として修行を重ねた。その後、36歳で「やきにく萬野」の1号店を大阪市天王寺区でオープンし、焼肉業態を拡大してきた。
「当社の強みは、修業期間で得た食肉の正しい知識と高度な技術、そして何より、家業として長年お付き合いしていた農家さんとの太いパイプです。丁寧に牛を飼育している生産者から仕入れた肉は、肉質(BMS)、肉の色(BCS)、脂の質(BFS)のバランスが取れています」
飼育に長けた生産者を選ぶという萬野社長は、生産者指定の牛を「ドメーヌ牛」と呼ぶ。ドメーヌとは、ワインでいう作り手だ。
「より分かりやすく言えば、スーパーで産地よりも生産者を売りにした『誰々さんのトマト』というものです。通常、果物や野菜がほとんどですが、これを和牛にも取り入れています。私が東北地方で牛の買い付けをする際、各県の農家さんを1軒ずつ訪ね、肥育やエサ、肉の甘みなどに、AやBダッシュなどのランクをつけて、仕入れの基本としています。こういった食肉の情報を把握している他の焼肉屋は、ほとんどないでしょう」
一切れ肉の提供を実現する、原価管理方法
萬野屋の店舗の中には、1頭買いでさばいた食肉部位を一切れから提供しているところがある。来店客の“いろいろなお肉を、少しずつ試したい”という要望に応えるためだ。しかし一切れ肉の提供には、厳密なグラム数や原価の算出が不可欠。萬野社長によると、ここで利用しているのがパソコンを使った受発注のシステムだという。
「たとえばお皿に100グラムの肉を盛る際、数切れあれば大きい肉や小さい肉で量の帳尻を合わせられます。しかしうちは一切れ25グラムから注文を受けています。3グラムオーバーしただけで原価率(※)が10%も違います。これが積み重なれば、全体の原価率にかなり響くのです。だからこそ、概算ではなく正確に、即座に把握することが重要です」
(※)原価率・・・売上げに対して原価が占める割合のこと。飲食店の場合、提供するメニューの原価額(材料費など)÷販売価格×100で算出する。
萬野屋では原価管理に「BtoBプラットフォーム受発注」というシステムを使用している。インターネットで発注した食材の量や価格をデータで管理することで、店舗ごとの在庫量や棚卸額を、日ごと、月ごとに即座に集計でき、店舗間の比較にも使っているという。
「システムを導入してから、副店長以上の役職はとても数字に強くなっています。また、お酒など発注したもののデータは、取引先との価格交渉にも使っています。それまでは感覚値でしたが、明確な数字を出せるようになったことで、交渉がスムーズになりました。数字の影響力とITのありがたさを感じています」
萬野社長は、もともとシステムを積極的に業務に取り入れている。12年前からグループウェアを導入し、人事異動や役員会議の予定のほか、誰がいつどこにいるのかを全社員が把握しているというのだ。