人材育成は認めること。飲食業界で活躍する女性社長~フード・フォレスト森口愛氏

飲食・宿泊2024.07.16

人材育成は認めること。飲食業界で活躍する女性社長~フード・フォレスト森口愛氏

2024.07.16

人材育成は認めること。飲食業界で活躍する女性社長~フード・フォレスト森口愛氏

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静岡県浜松市を拠点に、とろろ定食「和ごはん とろろや」7店舗、「とんかつ八兵衛」2店舗を展開する株式会社フード・フォレスト。代表取締役社長の森口愛氏は22歳から飲食業をスタートし、女将としてお客様の心を掴んできた。

お客様からの評価だけでなく従業員の満足度も重視する経営姿勢で、「働きたい店舗アワード」中部エリアランキングで上位入賞も果たした。1人ひとりと向き合い、悩み、得意なところを伸ばすことが大事と語る森口社長に、起業からこれまでのストーリーと人材育成について伺った。

目次

偶然が重なり、22歳で飲食店のオーナーに

【Q】どんな幼少期を過ごされましたか?

株式会社フード・フォレスト 代表取締役社長 森口 愛 氏
株式会社フード・フォレスト
代表取締役社長 森口 愛 氏

株式会社フード・フォレスト 代表取締役社長 森口 愛氏(以下 同):私は浜松市の生まれで、実家では祖父や祖母のお客様が訪ねてくることが多く、料理やお茶でおもてなしをするのが当たり前でした。私も子供の頃から、お客様への挨拶や座布団の置き方、畳の歩き方から季節ごとのお茶の淹れ方など教育されたのを覚えています。

両親は食事を大切にしていて、私も旬を大事にするよう教わりました。それに母が料理好きだったこともあり、外食することはほとんどありませんでした。昭和50年代当時は食品添加物が問題視されていて、インスタント食品や冷凍食品は毒だと教わったほどです(笑)。東京の大学に進学して初めてカップラーメンを食べたときは衝撃を受けました。こんなに美味しいものがあるのかと。今の時代は当社の「とろろや」のような外食はもちろん、インスタント食品や冷凍食品などでもおいしいものを選べるのでうれしいですね。

【Q】22歳の若さで「とろろや」を起業しました。

大学進学後、バブル崩壊で父の事業が立ち行かなくなり、家がなくなってしまったんです。家計を支えようとした母が「料理屋を始めるからあなたも手伝って」と。でも私は田舎に帰りたくなかったので、高級住宅地である佐鳴台(現・浜松市中央区)に出店するなら、雰囲気がいいからやってもいいと冗談交じりに言ったんです。

「とろろや」店舗外観

そしたら、たまたま実家の税理士さんの顧問先に佐鳴台のとろろ屋さんを譲渡したいという方がいて。さらに同じ時期、大学の先輩に紹介された占い師に「あなたには商売の星が5つある」と言われ、ならばやってみようと。飲食業界はまったくの未経験のうえ譲渡されたとろろ屋さんは68席の広い店でしたが、資材などすべて揃っていたので、看板はそのままにメニューを変えて起業しました。

価格設定などで分からないことはお客様に「このメニューいくらならご注文されますか?」と聞いたりして、少しずつ形にしていきました。未経験だったからこそこうあるべきだという先入観がなく、周りに助けられてここまできたと思います。

【Q】「とろろや」のメニューについて教えてください。

「和ごはん とろろや」とろろ汁

「とろろや」で扱う自然薯と大和芋は、起業当初から手すりにこだわっています。すり鉢でゆっくりとすり合わせて鯖出汁(さばだし)と伊豆味噌の味噌汁を加えてとろろ汁にします。メインのおかずと小鉢、味噌汁、麦ごはんがついた身体にやさしいごはん。これが当店の看板メニューです。
 

「和ごはん とろろや」メニュー例

お客様には、安心して召し上がっていただける食事を提供したいのです。食という字は、人を良くすると書きます。身体に良い食材と気持ちのこもった接客で、心地よいひとときを過ごせる店を作りたい。そんな思いで30年以上やってきましたし、従業員にもそのように伝えてきました。

もちろん苦労も多かったですね。メニューが多いのでオペレーションの工夫は絶えず必要でした。多くのアルバイトやパートさんがいてコミュニケーションのすれ違いもありました。スタッフから次々と辞めたいと申し出を受けたこともあります。その事はじめてコミュニケーションが取れてなかったと自覚し、一人一人と話し合ったことで誤解がとけ、全員が引き続き一緒に働いてくれました。だからこそ、お客様の満足度だけでなく、スタッフの満足度も大事にしています。

相手の価値観を理解し、互いに認め合うチーム作り

【Q】従業員の育成では、どんな点を重視していますか?

人を育てるのは大変です。例えば食器をお客様のテーブルに置く際やドアを閉める際に音を立てないようにすることは当たり前の配慮ですが、こういった価値観が通用しない場面もあり、新人育成に苦労することもあります。でも思い返せば、私も若手の時代に新人類などと呼ばれて、昭和ヒトケタ世代の人たちから「君たちは何を考えているのかよく分からない」と言われていました。世代が違うからこそ、互いに認め合うことが大切だとつくづく実感します。

若手スタッフには「私の考えは古いかもしれないけど、昭和世代はこう考えるんだなとまずは認めてほしい」と話したりします。そのうえで私たちも、平成や令和世代の考え方を世代の違いだけで片付けないで、話し合い、認め合うようにしたいと思っています。いつの時代にもある大切なものを失わせないためにも、相手を思いやる寛容な心や感謝を伝える基本はしっかりと教えています。

【Q】店舗オペレーションで工夫されていることはありますか?

「とんかつ八兵衛 入野店」外観

お客様に気持ちよくお食事をしていただくため、従業員にはいろいろな接客指導教育をしてきました。ただ、教育期間がとにかく長く、注文ひとつにしてもメニューを覚えてもらうだけで一苦労でした。そこで注文用のタッチパネルを導入し、お客様ご自身でご注文いただくようにして、スタッフは笑顔や気遣いに力をそそげるようにしました。

とんかつ八兵衛 メニュー例「たから豚 ロースかつ膳」

また、以前は、店長に対してオールマイティーな能力を求めていましたが、今は本人の得意なポイントを伸ばし、足りないところは他のスタッフがカバーするという考えに変わりました。その人がいると店が明るくなるとか、厨房が得意、ホールでの接客が上手い、数字が得意などの特技を伸ばし、足りない点は他の従業員が支える。そうすれば、互いにリスペクトし合えるチーム作りができるでしょう。

とにかく自分の感覚だけが正しいとは思わないようにしています。社員はもとよりアルバイトさんの考えや意見も大事にしていますし、お客様のご意見も取り入れられるよう店舗にアンケートボックスを置いて、私も必ずチェックしています。

お客様アンケートのおかげで、たとえば「座布団がペラペラだった」など、お客様目線での感じ方にも気付くことができ、すぐに交換しました。お叱りのアンケートを見て落ち込む従業員もいますが、指摘していただいてありがとうと思えばいいんだよと教えています。

お客様だけでなく従業員にも心地よい会社であり続けたい

【Q】今後の展望をお聞かせください。

急激な店舗展開は考えていません。次の店長が育った段階で出店するという今までのペースを守っていきます。店長業務や人材育成もできるスタッフが増えれば、お給料も上げたいですし、出店を考えるでしょう。一方で店長のキャパシティをしっかり見極めなければ、無理に出店しても結局は営業に支障が出てしまいます。

お客様にとっての心地よさと同じように、従業員が働きやすい会社であり続けるためにも、その慎重さは大切です。これからも食を通じてお客様や社会に喜ばれ、従業員も満足する三方よしの経営を続けていきたいです。 

株式会社フード・フォレスト

本社所在地:静岡県浜松市中央区入野町611-1
設立:1996年8月8日(創業1991年3月3日)
公式ホームページ:https://www.food-forest358.com/

 

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