インボイス制度の対応は2つの課題に注目!金井税理士に聞く概要と事前準備

法令対策2023.04.06

インボイス制度の対応は2つの課題に注目!金井税理士に聞く概要と事前準備

2023.04.06

【課題②】免税事業者からの課税仕入への対応

インボイス制度は「納税なき控除」を認めない

現行制度では、免税事業者からの仕入れについて11万円を支払った場合、税率10%で、1万円の仕入税額控除を受けられる。インボイス制度では、控除ができるのはインボイス発行事業者からの仕入れに限られるため、免税事業者との取引は1万円のコスト増に。

ただし、激変を緩和するため条件を満たせば、計6年間、80%もしくは50%の仕入税額控除が認められる経過措置がとられる。

金井氏:「経過措置があるとはいえ、買い手としては控除できない20%部分の負担増の上、インボイス発行事業者からの仕入れとは別の経理処理が発生し、業務が複雑化します。それを避けたい買い手が今後はインボイス発行事業者との取引を選び、免税事業者は仕事を失うのでは…インボイス制度で危惧されているのが、この免税事業者の問題です」

売り手・買い手、どちらかの負担が増える

仕入先が免税事業者の場合、請求のパターンで業務が変わるため、方針を確認しておく必要がある。

パターン ①:従来どおり(本体価格+消費税)
経過措置を利用しても全額仕入税額控除にはならず買い手は負担増
パターン ②:従来の税込金額を新たな本体価格に
経過措置を利用しても全額仕入税額控除にはならず買い手は負担増
パターン ③:本体価格のみの請求(消費税分減額)
売り手の負担増
パターン ④:価格を調整する
売り手と買い手で価格を調整


金井氏:「一般消費者向けの事業の売り手なら免税事業者のままでもいいかもしれません。しかし、企業向けの売り手である場合や、新規取引先を増やしたい場合は、課税事業者の選択を検討するべきです。経過措置で納税額も3年間は売上税額の2割に抑えられます」

一方的な通告は法に抵触するおそれも

金井氏:「2割特例で買い手も、仕入先の免税事業者に対し、課税事業者となってもらう働きかけがしやすくなりそうです。ただ、お願いすること自体は問題ありませんが、公正取引委員会は、買い手が取引上有利な立場を利用して免税事業者に無理を強いることがないよう、注意喚起を行っています。

取引価格の引き下げや取引の打ち切りを一方的に通告する、消費税額の一部もしくは全額を一方的に支払わない行為は下請法や独占禁止法に違反する可能性があるため、注意が必要です。

また、仕入先の技術の希少性や、人手不足・供給不足により、インボイスの交付がないのに、これまでの取引条件の変更を求めることができないケースも想定されます。一番大事なのは話し合うことです。お互いの事情を出しあって、納得できるところに着地しましょう」

特にフリーランスなどに業務委託するビジネスモデルの場合、少なからず影響を受けることが予想される。直前の確認や調整は双方にとって負担が増える。時間的な余裕のあるうちに、今後の方針を検討しておくのが望ましいだろう。

なお、2年前の課税売上げが1億円以下等の中小企業は、6年間は1万円未満の取引についてインボイスの保存は不要だ。財務省の調査では、1億円以下という水準で全事業者の90%強、課税事業者の76%程度をカバーするとされる。

インボイス制度導入に当たっての事前準備

インボイス制度への対応はどのように進めていけばよいか、売り手と買い手、双方の主な事前準備を以下の表に示した。具体的なスケジュールと共に整理しておこう。

すみやかに登録申請を

インボイス発行事業者の登録申請は早めにすませておこう。インボイス制度の開始に合わせた登録申請の期限は、法令上、令和5年3月31日となっている。しかし、運用上は直前の9月30日まで認めることとされている。

とはいえ、申請が集中すると処理完了までに長期間を要する可能性があり、直前になるほど駆け込みの申請殺到が予想され、通知まで長期間を要する可能性がある。登録申請書に記載誤りなどがあれば内容確認のためさらに時間がかかってしまう。顧問税理士とも相談の上、可能な限り、すみやかに登録申請を行うべきだ。

インボイス制度の対応は経理業務デジタル化を前提に

インボイス制度導入後も登録番号などの記載項目だけ追加・変更して紙の請求書を出し続ける、という選択があるかもしれない。ただ、DXという言葉が浸透しつつあるように、社会全体はデジタル化による業務効率化に向かって進んでいる。「紙での業務を前提にしたシステムとオペレーションから、デジタルデータを利用した業務効率化へシフトしていくべき」と、金井税理士は強調する。

ただ、電子請求書も仕組みはデジタルデータでのやりとりだけではない。メールにPDFを添付したり、クラウド上からPDFをダウンロードしたりと様々だ。これから新たにシステムを導入する場合、自社の条件に適したサービスを選ぶ必要があるだろう。公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による、JIIMA認証を受けた製品なら、電子帳簿保存法の法的要件を満たしているので、検討する上での目安のひとつになる。

金井氏:「デジタル化は、経理担当者の業務負担を軽減するだけでなく、処理時間も短縮します。郵送だと、発送から到着まで数日かかり、記載ミスなどがあればさらにやりとりが必要で支払日までに処理が間に合わないというのも、あり得る話です。

結局、紙が介在する以上、人の目によるチェックなどはなくなりません。抜本的な業務の効率化を目指すには、やはりデジタル化が欠かせません」

システムの運用検討やシステム選定は数カ月かかるケースが多い。導入後も本格的な稼働までにテスト運用が必要になることを考えると、すみやかに対応を進めていく必要があるだろう。

早期に実現したいデジタル化の効果

理解が深まる消費税インボイス制度QA
金井 恵美子 著
発行日:2022 年1月14 日
税務研究会出版局 金井 恵美子 氏

金井税理士は、インボイス制度対応に次のような見解を述べる。

「業務は未来永劫、紙のままということはありえません。もちろん、紙が完全になくなることはないでしょう。しかし、ビジネス環境のデジタル化が止まることはないのです。デジタル化すれば効率化するのは間違いない。それなら早くしたほうが良いですよね。

経理業務のデジタル化によって、経理担当者はルーチンワークから解放され、人的ミスと決別することができます。それは、目に見えてコストが削減される会社の利益向上のための業務改革です。従業員の幸せは会社の幸せ。ぜひこれを期に、積極的に取り組んでください」

電子帳簿保存法・インボイス制度に対応! クラウド対応請求書サービス「BtoBプラットフォーム 請求書」

金井 恵美子 氏

金井恵美子税理士事務所 所長 税理士
1993年税理士登録、大阪市において金井恵美子税理士事務所開設。
現在、同事務所所長、近畿大学大学院法学研究科非常勤講師。全国の税理士会、研修機関等の講師を務める。インボイス制度に関する講演、執筆等で幅広く活躍中。

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