ブランドを守り信頼性を高めるHACCPは、コスト低減にもつながる
サントリーグループ傘下で「響」「魚盛」「鳥どり」など約50業態の飲食店経営や、ゴルフ場レストラン、道の駅などの受託運営を手がける、株式会社ダイナックホールディングス。首都圏、関西エリアを中心に254店舗を展開している(2018年12月現在)。HACCP制度化に向けた対策に取り組む品質保証部本部長の橋詰剛敏氏は、HACCPを「食の安心・安全を見える化するツール」だと語る。
「よく“認証をとればいいんでしょう”といわれる事もありますが、HACCPの認証は取得する必要はありません。また、取得したとしてもそれで終わりではありません。
すべての外食事業者は、お客様に食の安心・安全を提供する責任があります。食の安全とは、お客様が口に入れるものから、微生物や化学物質、異物などの危害要因(ハザード)を取り除き、健康を守り続けることです。食の安全を科学的根拠に沿って維持・向上する仕組みが、HACCPの考え方に基づいた衛生管理です」
HACCPに取り組むことで、食中毒や食品衛生法違反のリスクを減らし、ブランドの信頼を高めることができる。結果として中長期的にはコスト低減にもつながる。にもかかわらず、いまだに多くの飲食店でHACCPへの対応が遅れ気味だ。それはなぜか。
飲食業界では一般に、社員よりもパート、アルバイト従業員の比率が高い。入れ替わりも頻繁で常に新人スタッフがいるのも特徴といえる。
「私自身、長年現場に立っていた経験があるので実感しますが、店舗ではベテランから飲食業未経験者まで混在しています。食品衛生に関する知識レベルはバラバラ。手洗い、清潔な身だしなみ、体調管理など個人がすべき衛生管理は基礎中の基礎ですが、食品を扱ったこともない新人は、重要性を理解していません。おろそかにした結果、事故につながってしまう。食中毒事故は『無知』によって発生します。まず全員が最低限、基礎的な衛生管理の必要性を理解していないと、食の安全は保てません。大事なのは人材の教育・育成です」
衛生面の知識に差がある環境下では、個人の力量や経験に頼らない仕組みが必要だ。マニュアルなどの文書で作業を見える化して、誰が実施しても一定の水準が保てるようにしなければならない。
では実際、どのように仕組みを作り、守っていけばよいのだろうか。ダイナックの取り組みに沿って見ていこう。
HACCP対応の進め方は3ステップ
食品衛生法が定めるHACCP制度では、すべての食品事業者に衛生管理計画の作成が義務化される。ただ、飲食業など特定の事業者は、HACCPの手法をシンプルにした「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」というアプローチでよいとされている。
ダイナックでは一般社団法人日本フードサービス協会が作成した「多店舗展開する外食事業者のための衛生管理計画作成の手引き」をベースに対策を進めている。どの業界の手引書であっても基本的にポイントとなるのは、
1.衛生管理計画の作成
2.実施
3.記録・保存
の3点だ。
ステップ1.衛生管理計画の作成
衛生管理計画は、「一般衛生管理に関する項目」と食材と調理工程に応じた「重要管理項目」のふたつに大別される。一般衛生管理とは、施設・店舗の清潔維持や従業員の健康のチェックなど、基本的には日ごろから実施している衛生管理だ。手引書には主なチェック項目が用意されている。現状を確認し、それぞれの項目で、いつ・何のために・どのように対応するかを取りまとめる。
「管理計画では現在の取り組みの洗い出しを行って、作業の有効性や実行性、妥当性をしっかり検証しましょう。現状で行き届いていなかった項目が増えるかもしれませんが、逆に、ムダな確認やチェックが見つかって、省略できることもあります」
「重要管理項目」のポイントは、食材や調理工程によってどのようなリスクの発生要因があり、どう管理すれば予防できるのかの把握だ。食材の受け入れから下処理、調理加工し提供するまでの、それぞれのプロセスで危害を分析し、衛生管理の措置を確認する必要がある。特に、食中毒の事故を防ぐためには原因となる微生物が繁殖しやすい危険温度帯(10~60℃)に食品が長時間とどまらないよう注意が必要だ。そのため、常温で提供するメニュー以外は、
1.加熱せず冷たいまま提供
2.加熱して熱いまま提供
3.加熱と冷却を繰り返して提供
という3グループに分類。それぞれのレシピや調理手順において、加熱・冷却工程が妥当であるか洗い出しを行っている。
「ここではレシピや調理手順書の確認が必要になります。弊社の場合、メニュー開発や原材料の使用決定の管理主体は全254店舗ごと、あるいは業態のグループごとで、そのままでは本部が把握できません。
そこで、レシピは『BtoBプラットフォーム受発注 メニュー管理機能』を使って調理担当者に手順を作成してもらっています。原材料それぞれの商品情報や企業情報、一括表示、栄養成分、アレルゲン等を管理することができます」
また、各メニューが上記3グループのどの温度区分に属するかをシステム上に記載し、工程管理に活用しているという。このようにグループ分けして、焼く、煮る、揚げる、蒸すなどの調理工程と掛け合わせてまとめれば管理しやすい。
その他の重要管理項目を、次ページの表で示そう。