アニサキスによる食中毒の予防と、適切な食材管理・調理方法

衛生管理2022.11.24

アニサキスによる食中毒の予防と、適切な食材管理・調理方法

2022.11.24

アニサキスによる食中毒の予防と、適切な食材管理・調理方法

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度々ニュースなどでも聞くことのあるアニサキスによる食中毒。その事例のおよそ4割が、飲食店で発生しており、中には客から数十万円の損害賠償を請求された飲食店もある。

主に魚介類を媒介して感染するこの食中毒は、調理工程や保管などで対策することが可能だ。飲食店で実施できる予防対策について詳しく紹介していく。

目次

飲食店で対策すべきアニサキスとは?

アニサキス(出典:厚生労働省)

アニサキスは主に魚介類に寄生する線虫の一種で、大きさは長さ2~3cm、幅は0.5~1mm程度である。白色の太い糸のような形状をしており、様々な魚介類に寄生しているのが特徴だ。

そして寄生している状態の魚介類を生で食べることで体内に寄生虫が侵入し、胃壁や腸壁に穴を開けて食中毒(アニサキス症)を引き起こす。

出典:厚生労働省「食中毒統計資料」を基に作成(農林水産省)

農林水産省がまとめた資料によると、令和元年~3年のアニサキス食中毒の月別患者数は少なくとも19人、多い時では54人となっている。特に4~5月はカツオ、9~10月はサンマの事例が多いなど、魚介類の旬の季節により高まる傾向があるが、基本的には年間を通じて発生している。

飲食事業者におけるアニサキス事例

アニサキスが寄生する魚介類は、主にサバやアジ、カツオやサンマ、サケやイカなどが挙げられる。飲食事業者によるアニサキス食中毒は、令和4年に入ってからも全国で事例が確認されている。

令和4年に発生したアニサキス症食中毒事例(厚生労働省の資料から一部抜粋)

発生日発生エリア当該食品
6月13日北海道函館市刺身(ホッケ、シメサバ)
6月28日岩手県盛岡市寿司(ソイ、ドンコ)
5月24日千葉県船橋市刺身盛り合わせ(カツオ、シメサバ、イカ等)
3月10日東京都炙り〆サバ
4月18日福井県福井市特上握りのやりいか、とろ、ヒラメ等
7月4日愛知県名古屋市刺身(アジ)、寿司(イカ、シメサバ)
3月5日兵庫県神戸市シメサバ
5月13日高知県高知市刺身(スマガツオ)
5月29日福岡県福岡市刺身(マサバ)
5月10日佐賀県刺身の盛り合わせ

引用:厚生労働省「食中毒統計資料

アニサキス食中毒の発生は主に、食材を生で提供する刺身での事例が多い。特に近年では、冷凍ではなく生きたままの鮮度の高い状態で輸送する、いわゆる低活性化状態での輸送が発達しており、アニサキスの死滅処理が行われていない状態でお店に届きやすいことも要因のひとつといえる。

アニサキス食中毒の症状と潜伏期間

アニサキスによる症状は、主に以下の2つだ。事例の多くが急性胃アニサキス症で、喫食後から比較的早めに症状が出るのも特徴だ。

 症状発生までの時間
急性胃アニサキス症みぞおちの激しい痛みや悪心、嘔吐食後、数時間後~十数時間
急性腸アニサキス症下腹部の強烈な痛みや腹膜炎症状食後、半日~数日後

また体内に侵入した幼虫が胃壁等に穴を空けない場合でも、アニサキス自体が抗原となって、じんましんやアナフィラキシーといったアレルギー症状を引き起こすケースがある。

飲食事業者のアニサキス予防対策

生鮮魚介類を取り扱う飲食店は、こうしたアニサキスによる食中毒の予防対策が必要不可欠となる。厚生労働省や農林水産省ではいくつかの予防策を提示しており、事業者による対策を呼びかけている。

ではどのような取り組みをすればいいのか。具体的な方法について補足事項を交えながら見ていこう。

鮮度管理や目視による確認

魚が死んでから一定時間が経過すると、アニサキスは内臓から筋肉部分に移動するため、なるべく鮮度の良い魚を選び、速やかに内臓を除去しよう。

また、アニサキスの幼虫は2~3cmほどで肉眼でも見える大きさのため、調理前後に目視での確認も忘れずに行おう。

【注意点】
・アニサキスの寄生場所である内臓は必ず加熱処理を行う
・不自然に穴が空いている、鮮度の落ちた魚を選ばない

イカやヒラメなどは、光に透かして影になる部分を見つけることで特定しやすくなる。一方で普通の光では透過しないサバやカツオなどの赤身魚は、紫外線を照射するブラックライトを用いた判定方法も1つの手段だ。しかしこれらの方法は、確実に発見できるわけでないので、あくまでリスクを軽減する方法として取り入れてほしい。

十分な加熱、冷却処理を行う

アニサキスは基本的に低温や高温に弱く、しっかりと調理を行えば死滅する。

加熱処理中心温度が70℃以上、もしくは60℃で1分以上の加熱
冷凍処理-20℃の環境下で24時間以上置く

加熱の場合、表面を少し炙るだけでは食材の中心部が70℃に達していないこともあるため、確実に中まで火を通すことに注意しておかなければならない。鮮度が少しでも落ちた食材はなるべく加熱処理をした方がよいだろう。

冷凍の場合、長時間の処理が必要になるため、以下も併せて行おう。

・「-20℃になっているか」:冷凍庫内に温度計の設置、チェックシートによる記録
・「24時間以上冷凍できているか」:先出し先入れの徹底

もし規定の温度から外れている場合には、速やかに原因の特定、修理業者への依頼を行うなどの業務フローも作成しておくべきだ。

【注意点】
・食酢や塩漬けでの調理、醤油やわさびによるアニサキスの死滅効果はない

従業員への周知徹底

食中毒を予防するには、店舗責任者だけでなく、仕入れや調理に関わる多くの従業員がアニサキスに関する知識を深めておく必要がある。

【在庫管理のルール化】
特に飲食店では頻繁に食材の受け入れを行い、取り扱う食材の種類も多い。そのため、スムーズかつ正確に業務を遂行できるよう、受け入れ作業のルーティン化や保管場所の定位置化などを予め決めておく。

・受け入れ時
食材の状態と使用期限の確認→保管場所への収納
・食材の保管
新しいものを下段、古いものを上段に置くなど冷凍庫に置く鮮魚の場所を設定
・冷凍庫の温度管理
朝・昼・夕方などの決められた時間に温度を確認し、チェックシートへ記入する

【調理オペレーション・レシピ管理の徹底】
加熱や冷凍などの調理工程では、これまでの手順に温度や時間などの記録も状況に応じてつけよう。定期的に見直しを図り、より良い手順への改善を行う。

また飲食店では従業員の出入りが頻繁にあり調理工程の指導・教育が複雑化してしまうため、メニュー管理システムなどのデジタルツールを導入し、より効率的な業務体制を構築することも必要だ。

例えば、調理マニュアル共有システム「メニューPlus」では、調理工程のナビゲートや動画によるレシピの確認がスマホから簡単に行える。作業を改編した際には、正しい手順を従業員へ浸透させやすいのも大きなメリットだ。

原因と対策を把握し、食中毒へのリスクを軽減

アニサキスの食中毒事故が一度発生してしまうと、店舗などへ保健所からの立入検査が行われる。そして被害が拡大しないような予防対策や再発防止対策などを求められ、それらの措置が完了する期間までは、営業停止となる行政処分を受ける可能性もあり得る。

飲食に携わる上で、最も起こしてはならないのが食の安心・安全をおびやかすことだ。これまできづいてきたお客様の信頼を失わないように、万全な食中毒対策を行おう。また万が一、飲食店で食中毒が発生した場合には保健所と連携し、事態の収束をはかってほしい。

[参照]
農林水産省「海の幸を安全に楽しむために ~アニサキス症の予防~
厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」(PDF)
一般財団法人東京顕微鏡院「急増するアニサキス食中毒
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