飲食店での大規模な食中毒事例
厚労省のまとめによると、2021年の食中毒発生件数は717件(患者数:1万1,080人、死亡者数:2人)だった。
コロナ禍ということもあり直近20年間での発生件数は最も少なかった。しかし、家庭で発生した食中毒件数に対して、飲食店の発生件数はその約3倍となり、判明している原因の中で最も多い割合を占めている。
[参考] 厚生労働省「2022年3月17日 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会 議事録」
食中毒の原因菌別にみる対処法
飲食店などで発生する食中毒の傾向としては、寄生虫のアニサキスや、細菌のカンピロバクターやノロウイルスが原因となることが多い。主な食中毒の原因や、その対処法を順番に紹介する。
アニサキス症
アニサキスは寄生虫の一種で、サバ、サンマ、アジ、イワシ、カツオ、イカ、サケなどの魚介類を介して人に感染する。アニサキスの幼虫が寄生している魚介類を生食すると、幼虫が胃壁や腸壁に刺入して食中毒を引き起こす。厚労省が推奨する具体的な症状や対処法は以下の通りである。
症状 |
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・急性胃アニサキス症食後数時間後から10時間後に、みぞおちの激しい痛み、悪心、嘔吐が発生する。 ・急性腸アニサキス症食後10時間後から数日後に、激しい下腹部痛、腹膜炎症状を生じる。 |
予防法 |
・丸ごと1匹で購入した場合は、速やかに内臓を取り除く。 ・内臓は生食しない。 ・必ず目視で確認して、アニサキス幼虫を除去すること。 |
適切な調理法 |
・マイナス20度で24時間以上冷凍すること。 ・または70度以上で加熱すること。60度なら1分間の加熱が必要。 |
注意点 |
・一般的な料理で使う食酢での処理や、塩漬け、わさびなどを付けたとしても、死滅しない。 |
[参考] 厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」
カンピロバクター食中毒
カンピロバクター食中毒は、鶏肉の生食や、加熱不足、またはレバーを食した際に起こることが主な原因となる食中毒だ。細菌性食中毒の中では、近年発生件数が最も多く、コロナ禍以前は年間約300件(患者数約2,000人)もの報告がされていた。最近では、屋外で鳥ささみ寿司を提供したイベントで500人を超える患者が発生した。
この細菌は、動物の消化管などに存在しており、主に鶏肉に潜んでいる。市販の鶏肉の5~7割にカンピロバクターが検出されたという調査結果もあることから、調理次第では誰でも食中毒を引き起こす危険性がある。具体的な症状や対処法は以下の通り。
症状 |
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・食品を食べてから、2~3日で下痢、腹痛、発熱、頭痛、嘔吐、血便などの症状が出る。 |
予防法 |
・現在の食鳥処理技術では、食中毒菌を完全に除去できない。そのため、生や不十分な加熱の鶏肉は提供しないことが推奨されている。 |
適切な調理法 |
・中心部まで75度以上で1分間以上加熱すること。 ・食肉はほかの食品と調理器具や容器を分けて処理・保存すること。 ・食肉を触ったあとは、必ず手洗いし手からほかの食品を触ること。 ・食肉に触れた調理器具は洗浄・殺菌を行うこと。 |
注意点 |
・健康な個体でも、腸管などにカンピロバクターなどの食中毒菌を保有している場合がある。 |
[参考] 厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」
ノロウイルス
ノロウイルスに感染する原因は、ノロウイルスに汚染された水を摂取したり、カキを含む二枚貝などを食べたりすることである。感染者の便や吐しゃ物に接触し、手洗いが不十分なまま調理するなどして、その食品を食べることによって感染するケースも報告されている。ノロウイルスの具体的な症状や対処法は以下の通り。
症状 |
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・潜伏時間は24~48時間。 ・主な症状は、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱。 ・通常3日以内に回復する。 |
予防法 |
・野菜、果物なども十分に洗浄すること。 ・トイレに行った後に調理する際は、十分に手洗いして、清潔なタオルで水分を拭き取ること。 |
適切な調理法 |
・カキなどの二枚貝は85~90度で90秒間以上加熱し、中心部まで火が通っている状態にする。 |
注意点 |
・調理従事者に下痢、吐き気、おう吐、腹痛、発熱などの症状があったときは、 調理に関わらないこと。 ・湯通し程度の加熱ではウイルスの感染力は失われない。 |
[参考] 「食品衛生の窓」東京都福祉保健局「ノロウイルス」
食中毒の予防は、適切な調理と調理従事者の健康管理の徹底が基本
現在の食品加工技術では食中毒を完全に防ぐ術がなく、一般的に流通している食品にも食中毒の原因となる細菌が含まれている場合も珍しくない。食中毒の予防策として有効かつ行いやすいのは、食品の中心部まで加熱することである。
調理従事者を介して食中毒が広がる事例が毎年のように報告されているので、食品を取り扱う従業員には調理の指導と健康管理の重要性を啓発することが必要だ。