食中毒対策のポイント
一般的に食中毒事故は、細菌やウイルスなどの有害物質が付いた食べ物をお客様に提供することで起こってしまう。「ここで食事するのは危険」というイメージが付き宿泊施設の信頼を大きく失いかねないので、事業者にとっては絶対に避けたい事態だ。
中毒発生の予防方法や気をつけるべきポイントは、食中毒の原因によって異なるので様々な観点から対策を実施しなければならない。ケース別に気をつける点や、どのような細菌やウイルスが原因となるのか見ていこう。
食中毒予防の4原則
食中毒予防の4原則として、「つけない」「増やさない」「やっつける」「持ち込まない」という考え方がある。
つけない | 手についた汚れを介して、食品や食器へウイルスが付くことが考えられる。そのため、従業員の手洗いやうがいを徹底し、食中毒の原因となる物質を「つけない」ことが重要だ。 |
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増やさない | 細菌は温度や湿度などの一定の条件が揃うと、食品の中で増殖してしまう。しかし細菌やウイルスは目に見えないため、食品の種類に応じて適切な保存方法や設備の用意を行い、速やかに適切な方法で保存しなければならない。 |
やっつける | 細菌やウイルスを死滅させるには、加熱処理が有効だ。ほとんどの細菌やウイルスは加熱によって死滅するので肉や魚はもちろん、野菜なども加熱して食べれば安全です。 ただし食材の種類によって火が通りにくい場合もあるため、調理マニュアルを作成し、従業員教育の徹底も必要だ。 |
持ち込まない | 食中毒の原因となるウイルスを持ち込まないためにも、調理に関わる従業員の健康状態を管理し、食品や食器、人同士の感染を防ぐ対策の実施が必要だ。 また従業員は業務に不要な私物を持ち込まない、職場以外の場所でも日頃から清潔な状態を維持するよう従業員に周知することも忘れてはいけない。 |
食中毒の原因となる細菌やウイルス
ホテル・旅館で発生している食中毒は、主に以下のようなものが挙げられる。
病因物質 | 事件数(件) | 患者数(人) |
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ノロウイルス | 161 | 8,137 |
カンピロバクター | 18 | 553 |
ウエルシュ菌 | 12 | 777 |
病原大腸菌 | 9 | 617 |
クドア | 7 | 93 |
黄色ブドウ球菌 | 7 | 132 |
サルモネラ属菌 | 5 | 362 |
腸炎ビブリオ | 5 | 171 |
アニサキス | 1 | 1 |
植物性自然毒 | 1 | 8 |
(2013 ~ 2017年の5年間で発生したホテル・旅館の食中毒)
[参考]厚生労働省「旅館・ホテルにおけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理手引書」(PDF)
上記の表からも分かるように、食中毒の原因の多くをノロウイルスが占めているため食中毒のリスクを軽減する為には、ノロウイルスの感染予防を行うことが重と言える。また、ノロウイルスによる食中毒は料理従事者による感染が9割近くを占めることから、「衛生的な手洗い」「従業員の体調管理」「トイレの洗浄や消毒」などを徹底しよう。
ホテルや旅館における食中毒対策
ホテルや旅館では、従業員や食材の搬入などの外部業者、食品や調理器具、宿泊客などの様々な感染要因が存在している。これらの原因に対して、食中毒予防の4原則をもとに衛生管理を行うことが必要だ。まだ実施していない対策や不十分な部分があれば、ぜひとも取り入れてほしい。
従業員の健康管理
従業員の出勤時には、体温確認や手洗いチェックなどを行い、体調管理を実施しよう。そして発熱や吐き気などの症状があるスタッフには食品の取り扱いを行わせず、速やかに責任者へ相談、早退させるなどの対応を実施するのが望ましい。
従業員の衛生面において注意しなければならない点は以下の通りだ。
・清潔な作業着や帽子、履物の着用(こまめな洗濯の実施)
・食品に触れる際には、必ずマスクや手袋を着用
・定期的な検査(検便など)の実施
・外部の業者が施設を出入りする場合にも、従業員と同様の対応を実施
従業員の健康状態もしっかり管理しよう。発熱や吐き気などの症状があるスタッフには食品の取り扱いを行わせず、速やかに責任者へ相談、早退させるなどの対応を実施するのが望ましい。
衛生的な手洗いの実施
手指からの汚染防止のために、正しい手洗いの方法をしっかりと従業員へ教育しよう。
衛生的な手洗いの方法
1.流水で手洗い
2.両手分の十分な洗浄剤を手に取る
3.手のひらと指の腹面の洗浄
4.手の甲、指の背の洗浄
5.指の側面、付け根の洗浄
6.親指全体と付け根の洗浄
7.指先を手のひらに当てて洗う
8.手首の内側・側面・外側を洗う
9.十分な量の流水で付着した洗浄剤を洗い流す
10.しっかりと手を拭き、乾いた状態でアルコール消毒する
[参考]厚生労働省「できていますか?衛生的な手洗い」(PDF)
施設や調理器具の洗浄・消毒
食品を取り扱う場所や器具は、常に清潔な状態に保つことを意識しよう。特に直接食品と接触する調理器具は、食材のコンタミ(異物混入)などにも繋がるため、こまめに洗浄することが大切だ。
調理場や作業台、シンク周り
・始業前後や作業の合間などに洗浄・消毒
・布巾やスポンジなどはこまめに交換
・受水槽の清掃、残留塩素濃度の確認といった使用水の管理
・定期的な害虫駆除(年2回以上)
包丁やまな板などの調理器具
・肉用や魚用、野菜用などの用途ごとに使い分ける
・調理に使用した器具は都度洗浄
・使用前にはアルコール除菌。使用後は熱湯や塩素系漂白剤などで消毒。
食品の保存や加熱処理の徹底
食品を適切に保存できていないと、時間経過による劣化や細菌の増殖が起こってしまう。特にホテルや旅館では、仕込んだ料理を後から提供することが多く、適切な温度管理は必須だ。
・冷蔵庫は10℃以下、生食用のものは4℃以下に設定
・冷凍庫の場合はー15℃以下で管理
・始業前や終業後などの定期的な温度記録、チェックシートの作成
・食材の期限表示、定期的な確認
また食材の調理については、食品衛生法で調理基準が設けられており、必ず守らなければならない事項もある。
・鶏の卵を使用した調理は「70℃で1分間以上の加熱」
・生食用の魚介類は真水で十分に洗浄と汚染物質の除去
・牛の肝臓、豚肉・豚内臓は生食不可。調理は「中心部を75℃で1分以上加熱」
特に分厚い肉など中心部まで火が通りにくい食材には十分に火を通したり、加熱時の温度ムラができないようにしっかりとかき混ぜたりするなど、加工・調理工程の徹底も重要なポイントだ。
従業員教育にはマニュアルを共有しよう
調理手順をしっかり整備したあとは、現場で作業するスタッフに実施するよう伝える必要がある。この場合は口頭では伝達漏れや聞き間違いなどの原因になるため、マニュアルに落とし込んで従業員教育することが有効だ。
ただし食材ごとに仕入れ時の検品、保存方法はもちろん、焼き物や煮物、揚げ物など様々な調理工程があるため、紙のマニュアルでは膨大な量となるうえ、調理方法の確認やメニューの更新作業にも時間がかかる。とくにメニューの調理工程は煩雑になりやすいため、管理や共有はITツールなどを活用してスムーズに行うとよいだろう。
よりシビアな衛生管理で感染予防への意識を高める
食中毒には、ノロウイルスをはじめとした様々な要因が挙げられる。より安全にお客様へ食事を提供するためにも、それぞれの原因に適した対策を実施することが望ましいだろう。
近年では新型コロナウイルスによる感染拡大の影響もあり、より厳しい衛生管理や従業員の体調管理が求められている。従業員の手洗いうがいの徹底、食品の温度管理や保存状態、加熱処理といった工程などの管理体制を築くことが大切だ。そのためにも、まずは食品衛生や食中毒予防の正しい知識を取り入れることから始めよう。
[参考]
厚生労働省「旅館・ホテルにおけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理手引書」(PDF)
政府広報オンライン「食中毒予防の原則と6つのポイント」