飲食店の衛生管理には適切なチェックリストが必要
飲食店の多くは、衛生管理の項目をリスト化したチェックシートを活用しているだろう。しかし実施すべき内容が適切でないと、場合によってはお客様トラブルや食中毒などが発生することもある。飲食店は店舗ごとに業態や物件の形、設備、備品、調理工程、作業する従業員など様々な条件が異なるため、現場に応じたリストを作るのが望ましい。実際に活用できる管理項目を下記で紹介していく。
衛生管理のチェックリスト
飲食店の場合、一般的な衛生管理のほか、HACCP制度の重要管理項目に従って保管設備や加熱調理時の温度も記録しておく必要がある。
一般衛生管理
チェックシートには特記事項や備考欄、確認者の欄を設けて、異常時の対応やクレームなどが発生した記録も残しておく。問題の原因となる部分を速やかに把握することで、次回以降の改善に繋げていこう。
管理項目 | チェック箇所 |
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原材料の受入れ確認 | ・破損や汚れがないか ・消費期限や賞味期限は切れていないか ・発注内容と合っているか |
冷蔵・冷凍庫内の温度確認 | ・温度管理表を用意しているか ・保温や保冷器の管理は適切か ・湯煎や氷煎の管理は適切か |
交差感染・二次感染の防止 | ・厨房内へ不用品の持ち込みはないか ・不衛生なものを放置していないか |
器具等の洗浄や消毒、殺菌 | ・消毒や殺菌方法は適切か ・器具の使い分けは適切か ・布巾やクロスを定期的に交換できているか |
トイレの洗浄や消毒 | ・定期的に清掃できているか ・不快な匂いがないか ・必要な備品が揃っているか |
従業員の健康管理 | ・身だしなみや健康状態のチェック表を用意しているか ・管理項目は適切か |
手洗いの実施 | ・勤務開始前に実施しているか ・都度、適切なタイミングで行なっているか(休憩後やトイレ後など) |
【設備や調理時の温度記録】
管理項目 | チェック箇所 |
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冷蔵庫、冷凍庫、温蔵庫 | ・測定時刻 ・測定温度 ・記録者 |
フライヤー、グリル、オーブン、スープウォーマーなど | ・設定温度 ・実測温度 ・記録者 |
調理後の食材温度 | ・メニュー名 ・使用した調理器具 ・調理時間 ・中心温度 |
調理器具の定期洗浄や殺菌 | ・実施時刻 ・対象の器具 ・殺菌溶液の交換時刻 ・実施者 |
備品の交換 | ・実施時刻 ・備品の名称 ・交換した個数 ・実施者 |
冷蔵庫など食材を保管する設備や調理器具などは、表示されている設定温度と実際の温度に誤差がないか定期的に確認する必要がある。大きな誤差があるまま食材を使用すると、加熱や冷却不足により食中毒の原因となりかねない。
【従業員の身だしなみ・健康状態の確認】
管理項目 | チェック箇所 |
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作業場への入場手順 | ・ユニフォームにローラーをかけたか ・手洗いおよび消毒の実施 |
健康状態 | ・体調の確認(下痢や嘔吐などの症状がないか) ・手指に化膿や傷がないか |
身だしなみ | ・頭髪を整えているか ・爪を短くしているか ・装飾品を着けていないか ・着衣(ユニフォームなど)が乱れていないか ・履物が汚れていないか |
従業員に衛生管理の徹底を周知するには、各自でしっかりと確認してもらう意識づけが必要である。ただマンネリ化しがちなので、月に1、2回は店舗責任者がチェックするなどの習慣を作ることも重要だ。
重要管理項目
管理項目 | チェック箇所 |
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仕入れ時の点検 | ・食材の鮮度や品質、温度や表示を点検しているか |
食品を保存する際の温度管理 | ・冷蔵・冷凍・温蔵などの温度は適正か |
加熱調理時の温度管理 | ・加熱時間や食材の中心温度は適正か |
加熱調理後の食材管理 | ・加熱後、冷却を要する場合の温度管理や時間管理は適切か |
開封後の食材及び仕掛品 | ・一定のルールに基づいて管理し、速やかに使い切っているか |
仕込み・仕掛品 | ・使用期限を明確にし、使用期限を超えて使用していないか |
厚生労働省が公表している衛生管理の手引書を参考にしてほしい。
参考:厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」
新型コロナ対策のチェックリスト
コロナ禍がはじまった2019年以降、消費者の感染予防意識は高まっており、消毒薬がないなど対策不足の飲食店には不安感を抱くという声が多くある。きちんと対策しておこう。
管理項目 | チェック箇所 |
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各都道府県が実施する感染拡大予防ガイドラインへの取り組み | ・「感染防止徹底宣言」ステッカーを店頭や店内へ掲示している |
コロナ対策における責任者(リーダー)の選定 | ・各店舗に責任者を設置している ・責任者が不在時の対応(サブリーダー等の設置) |
パーティションの設置 | ・座席の間にアクリル板などのパーティション(仕切り)を設置している |
適切な座席間隔の確保 | ・座席同士の間隔を1m以上空けている |
手指消毒の徹底 | ・店内入り口にアルコール消毒液を設置している ・消毒液の濃度は適切か アルコール消毒液:濃度60%~90% 次亜塩素酸ナトリウム:濃度0.05% |
飛沫感染への対策 | ・従業員がマスクやマウスガードを着用しているか |
店舗内の換気 | ・建築物衛生法に基づく空気環境の調整に関する基準を満たしている ・建築物衛生法の対象外施設の場合、必要換気量(一人当たり毎時30m³)の設備を備えているか ・換気設備を備えていない場合、窓やドアを定期的に開放しているか ・換気扇の定期的な点検 |
管理項目 | チェック箇所 |
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来店時の発熱・体調確認 | ・非接触型の温度計による測定 ・咳や吐き気、頭痛などがないか個別の聞き取り |
マスク着用の推奨 | ・食事中以外のマスク着用を要請 ・マスクのないお客様へ配布するマスクの常備 |
手指消毒の徹底 | ・店内入り口にアルコール消毒液の設置 ・来店時にアルコール消毒の要請ができているか(掲示物や従業員による呼びかけ) |
客同士の密集回避 | 満席時や会計時の待機列は間隔を確保できているか ・注意喚起の案内表示 ・シールなどで立ち位置の表示 ・待合所の設置、座席間隔の確保 |
非接触による会計 | ・キャッシュレス決済システムの導入 ・トレイによる金銭の受け渡しの徹底 |
管理項目 | チェック箇所 |
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従業員の体調確認 | ・出勤前の検温 ・咳や吐き気、頭痛等の症状がないか聞き取り ・発熱(37.5度以上)や体調不良の従業員を自宅待機させる |
マスクなど備品の確認 | ・出勤前の検温 ・店内ではマスク着用の徹底 ・従業員用マスクの在庫確認 ・毎日新品のマスクを着用している ・ユニフォームの定期的な洗濯(週に1回行うなど) |
休憩スペースでの動向 | ・対面での会話や食事を控える ・喫煙所の利用人数を制限(1度に1人まで等) ・従業員用のトイレを利用する |
チェックシートを運用する際の注意点
自店舗用のチェックシートを作成できても、適切に運用できていなければ実施する意味がなくなる。衛生管理への意識を高めるには良いツールであるが、その運用方法にもできる限り注意しておきたい。具体的には、以下のポイントを押さえておこう。
●お客様にも見えるところに掲示
実際に衛生管理をしているという根拠を掲示することで、来店客にも安心感を与えられる。また第三者に監視されることで、従業員にも衛生管理に対する意識を高めやすい。
●衛生管理で確認すべきポイントの追加や重要性を補足
チェック項目の意味や効果も合わせて掲載することで、実際に記入する従業員への意識向上に繋がる。特に重要な部分は、文字を太くする、赤くするなどの目立つ工夫も有効だ。
●監督者のチェックと検印欄を設ける
上司や店長による二重チェックは、従業員の衛生管理に対する意識向上やマンネリ化の抑制に繋がる。チェックシートへ記入するだけの単調作業にさせないためにも、出勤時には従業員同士が身だしなみを確認しあうなどの方法も検討すると良いだろう。
従業員に指示する際の注意点
チェックシートを作成しても、実際に効果を出すためには実際に適切な運用をしなければ、ただの作業になってしまいがちだ。特に現場の従業員からすると、ただただ面倒な作業が追加されるだけと思われてしまいかねない。
そこでチェックシートを導入する際には、以下のような指示・教育なども合わせて実施することが望ましい。
●店長が実際にお手本を見せる
●手洗い場の前には写真付きの指示書を掲示する
●定期的(月に1回など)に衛生講習を実施する
●実施する理由も説明し、従業員に納得感を与える
手洗いや清掃などの手順が多い工程は、説明を受けても覚えられないこともある。責任者のお手本や写真付きの解説、ビデオなどで視覚的に分かりやすくするのも大切だ。従業員によっては、手順を間違えたまま覚えてる可能性もあるため、定期的に衛生講習を実施したり、店長などが作業の光景を確認する必要もある。
またチェックシートの導入直後や衛生講習を実施する際には、従業員に前向きに協力してもらえるよう納得感のある説明も忘れてはいけない。「調理の仕方や保存方法の徹底で、○○や○○の食中毒を防げる」「指示通りの洗い方で○○%の殺菌効果が向上」など、実施する際のメリットやリスクを盛り込むと意識を高められるだろう。
チェックシートがない場合のリスク
ただ漠然とチェックシートを作成していても、どのような効果があるのかを把握していないと衛生管理への意識は高められない。実際のリスクを理解した上でチェックシートを作ることが重要だ。
主なリスクとしては、以下のようなことが挙げられる。
●食中毒事故などの発生時に、保健所の立ち入り調査で提出できる根拠資料がない
●従業員の衛生管理の意識が身につかないと、思わぬ事故やクレームに繋がりやすい
●不衛生な在庫管理により食品廃棄が増える
●店舗内でクラスター感染が発生し、営業停止などのリスクもある
●ずさんな衛生管理などがSNSで暴露されると、店舗のイメージダウンに繋がる
特に2021年6月以降は、食品事業者にHACCPの完全義務化が推し進められ、業界全体で衛生管理への意識が高まっている。他の飲食店がどんどん衛生管理を改善しているのに、自店舗が何も変わらないままだとお店の安全性が問われかねない。
また近年では、元従業員がずさんな衛生管理体制をツイッターなどのSNSで告発するというトラブルも見かける。徹底した衛生管理や感染対策は、世間からの印象が悪くなるリスクを抑え、食品ロスの削減で利益アップに繋がるなどのメリットもあることを覚えておこう。
速やかにチェックできる監査体制の構築が重要
飲食店の衛生管理では、作業者が実施したことと監督者が確認したことを記録するチェックシートが必要だ。しかし管理項目が膨大な数になる上、店長がひとつひとつの項目を確認したりエリアマネージャーが複数の店舗を監督する場合、それぞれのチェックシートにすべて目を通し、検印を押すのはなかなか難しい。デジタルツールによるチェックシートの運用も手段のひとつとして検討できる。店舗オペレーション管理ツール『V-Manage』なら記録の蓄積は紙と異なりかさばることもなく、スマホやタブレットを見ることで離れた場所にある店舗の衛生管理やコロナ対策の実施状況も確認しやすい。少ない人員で効率的に衛生管理できる体制を作っていこう。
[参考]
公益財団法人全国生活衛生営業指導センター「一般飲食店用衛生管理点検表」(PDF)
一般社団法人日本フードサービス協会「多店舗展開する外食事業者のための衛生管理計画作成の手引き~HACCP の考え方を取り入れて~ Ver.1」平成31年3月(PDF)
東京都「東京都対策項目チェックリスト」(PDF)
鳥取県「新型コロナ感染防止対策チェックリスト(飲食店向け)」(PDF)
内閣官房「感染拡大予防ガイドライン及び「新しい生活様式」の定着に向けた都道府県の 取組状況等に係る調査結果等について」(PDF)