食品卸売業がM&Aを行う背景とは
食品卸売業の多くは、農水産物や加工食品、飲料などをスーパーやコンビニエンスストア、外食企業、ホテルなどの小売業者に卸売りしている。経済産業省が発表したレポートでは、2019年の食料品関連卸売業の市場規模は72兆9,400億円だった。新型コロナウイルスの影響を受けた2020年以降は、フード産業全体の市場が低迷し続けていることから、食品卸売業に与える打撃はさらに大きいと予測されている。
こうした状況の他にも、大手スーパーやコンビニエンスストアなどがプライベートブランドを開発し、食品卸売業を通さずに食品メーカーから直接仕入れるケースが増えており、今後は中規模小売店でも同様なスキームが取り入れられると予測されている。さらに食品卸売業では、配送を担うドライバーの不足や原油高に加えて、外食産業の不況なども重なった。このような問題点を解消しようと業界内でM&Aの動きが目立ち始めた。近年実施された食品卸売業界におけるM&Aの事例を見ていこう。
食品卸売業界のM&Aによる譲渡・買収事例
発表日 | 買収企業 | 譲渡企業 | M&Aの 手法 | M&Aの目的 |
---|---|---|---|---|
2019年11月26日 | 三菱食品 (食品卸) | MS西日本菓子 (食品卸) | 吸収合併 | 総合食品商社としての事業拡 大。スピード感と一体感を持った顧客対応を実現。 |
2019年12月12日 | 加藤産業 (食品卸) | Merison Sdn. Bhd (本社:マレーシア、食品卸) | 株式譲渡 | 企業規模を確立。今後の経済成長と消費市場の拡大が予想されるアジア地域での食品流通事業の展開と構築。 |
2020年1月31日 | 西原商会 (食品卸) | 松本農園 (農林水産) | 株式譲渡 | グループ内の連携を通じてシナジー効果を確保し、農業事業を拡大。 |
2021年3月 | 旭食品 (食品卸) | ヤマキ (食品卸) | 株式譲渡 | 営業面の強化や低温領域への投資を促進し、東海地区での事業基盤の強化・拡大。 |
2021年4月2日 | 加藤産業 (食品卸) | Song Ma Retail Joint Stock Company (本社:ベトナム、食品卸) | 株式譲渡 | すでに展開しているベトナムの南部ホーチミンよりさらに南部のメコンデルタへの販路拡大。 |
2021年10月29日 | 戸田商事 (運輸・倉庫) | 大和フーズ (食品卸) | 株式譲渡 | 未発表 |
食品卸売業のM&Aのメリットと特徴
中小企業の多くは、株式譲渡もしくは事業譲渡するケースが多く、株式譲渡では、買い手企業が売り手企業の株式を取得し子会社化する。株式譲渡のメリットは、資産と負債を全て譲渡できる点だ。売り手企業は買い手企業の子会社になるが、社名や住所、従業員の雇用なども変わることはない。株主が個人の場合、譲渡取得への税率は約20%で、事業譲渡と比較すると税率を安く抑えられる点も売り手側のメリットだ。
また、食品卸売業界は取引先や連携企業との長きにわたる関係性の上で成り立っているので、事業主が変わってしまった場合、事業が継続できるという保証はなく、取引を中断されるなど大きな損失を抱えてしまうリスクがある。
以上のことから、食品卸売業界では同業種間でのM&Aが多い傾向にあり、組合内のライバル企業が業績悪化した際に競合会社がその企業を買い取ることがある。他には、運送業者が食品会社を買収するような補完性のあるM&Aのケースなど、異業種を買収することで互いにメリットが生じる場合もあることから、新たな業種とタッグを組む企業も出てきている。
M&Aで経営の安定化や事業拡大、海外市場への進出を目指す
事例からも見られるように、M&Aは売り手企業にとっては事業の継続や経営の安定、買い手企業にとっては事業拡大、海外進出の足掛かりなど、両者にとってメリットをもたらす経営戦略であるといえる。自社の強みを考慮して慎重に取引先やタイミングを選ぶことが成功の鍵となるだろう。