(3)の改正酒税法による酒類の価格上昇も飲食店にとっては大きな問題だ。2017年6月に実施された改正酒税法の目的は、酒類の過度な安売りの規制で、正当な理由なく原価を下回る価格で酒類を販売することができなくなった。これにより、仕入れ価格が上昇しておりその影響が出始めている。
また、今回の改正によって、ビール大手各社は揃って2018年3~4月より業務用を中心にビール類の一部やサワーの値上げを発表しており、この影響は今後も続く。さらに、世界的な潮流を背景に、今後もアルコール類の値上げが続くのではないかと原氏は予想する。
「WHO(世界保健機関)では、これまで先進国における禁煙を進めており、タバコのTVCMは放映できなくなりました。次にWHOが訴えるのがアルコールの害です。その流れは徐々に広まりつつあり、アルコールの廉価販売や飲み放題を規制しようという動きがあります」
外食企業からの悲鳴が聞こえてくるほどに、各方面からの値上げ圧力は強い。満足度の高いサービスを提供するには、値上げはやむを得ないということが見えてくる。
中小外食企業の現状は?
ここまで大手外食チェーンの相次ぐ値上げと、その原因について見てきたが、中小の外食企業ではどのような状況になっているのだろう。
「中小の外食企業でもシビアに棚卸金額と原価管理はしているところは多いと思います。その上で、例えば野菜の仕入れは問屋を通さずに農家さんと直接契約して中間コストを削ったり、レシピを変えて原価率の高いものの量を減らし、別の食材を使うといった努力をしています」(井上氏)
中小の外食企業でも、相当な経営努力をしているのだ。そこまでしても、もう立ち行かなくなっているのが現状であり、値上げを実施、もしくは検討している企業は多いという。
最後に原氏が、値上げを実施する際のポイントを教えてくれた。
「値上げをすると、短期的には客数が減ります。でも、動じないことです。様々な例を見ていると、値上げ直後は客数が減っても、その後、客足は戻ります。むしろ、やってはいけないのが、値上げ後に価格を再び下げることです。一度、上げたけど“お客様のために”と実質値下げのクーポンを発行するなどしてはいけません。
むしろ、値上げの必要性に迫られたことをきっかけにもう一度、業態のコンセプトや本当に来て欲しいお客さんを見直す機会にすることが重要でしょう。データに基づいて店舗の収支を見直し、原価はどこまでかけられるかを見極め、短期的な数字に動じないでブラッシュアップしていくことが必要だと思います」
値上げしたとしても、魅力ある業態、商品があれば、そこに真の価値を見出してくれるお客様はいる。「値上げ」とは、自社の資産や想定するお客様の情報を見据えて価格を設定すべきいい機会なのかもしれない。
【取材協力】株式会社タナベ経営
公式HP:http://www.tanabekeiei.co.jp/t/consulting/food/
■原 泰彦 氏
外食業界で店舗統括や新規事業に従事後、タナベ経営入社。新規事業立上げ、マーケティング戦略立案や赤字再建、人材育成を得意とする。信条は、「食品・フードサービス業界のポジティブカタリスト(触媒)」。フードサービス業界で働く人が、更に輝き続けるよう、変化と成長を支援する情熱的なコンサルティングを展開中。上場・中堅外食企業のコンサルティング事例多数。
■井上 裕介 氏
大手ホテル運営会社にて、ホテル・スキー場・飲食店舗の運営を行い、新規店舗開発・人材育成・業務改善・収益改革などの実績を持つ。タナベ経営入社後は、戦略設計、組織マネジメント構築・HACCP取得支援、店舗建て直し支援等において幅広く活躍している。