例えば牛肉では、1~4等級の牛肉は輸入の影響を受けますが、最上の5等級では逆に輸出が伸びると予測されます。この他にもブランド力のあるリンゴやイチゴなどの青果物、有機栽培のコメ、ブリ、サバ、ホタテなどの水産物、そして和牛肉などは輸出の増加が期待されています。
また、生乳は現在の関税が21.3%から19.1%となり、大きくは変わりません。大都市近郊の酪農家は主に生乳の生産を行いますので、TPPの影響は比較的少ないでしょう。反対に北海道の酪農家では生乳を加工品用に回すことが多いので、ニュージーランドなどからの安い乳製品の輸入により影響を受けやすくなります。
これまで日本では農業(1次産業)、食品加工(2次産業)、流通販売(3次産業)の融合による農業・農村の6次産業化が推進されてきました。TPPへの参加により、地域ビジネスの展開と新たな業態の創出を促し、農村の一層の活性化が期待されます。そのために一番大切なことは、影響の大きな農業に対して救済策をどのように取るかということです。
日本政府が検討する対策では、例えばコメに関しては現在のコメ備蓄制度の見直しが挙げられます。米国やオーストラリアからの輸入相当量も備蓄米として買い入れることでコメの流通増加を抑制して価格を維持する方法があります。また、牛・豚肉に関しては、畜産農家向けの経営安定対策の拡充と、法制化により牛・豚肉の課税引き下げに伴う減収を補てんする方法があります。
さて、外国ではどのような対策をとっているのでしょうか。すでにEU諸国や米国では農業保護政策は広く実施されています。農業者戸別所得補償制度などにより、フランスでは農家収入の8割、米国では穀物農家収入の5割前後が政府からの補助金となっています。日本においても小麦専業農家の収入の約8割は補助金ですが、これからもTPP対策として影響を受ける農家の所得補償をしっかりと行うことが必要です。
外食産業、小売業、製造業
次に外食、小売、製造業ですが、農業と違って全般的に大きなメリットがあるといえます。為替変動の影響もありますが、関税の軽減や撤廃により肉などの食材がより安価に納入できるようになるからです。これによりレストランやファストフードなどの外食産業、スーパーやコンビニなどの小売業は利益の確保がしやすくなります。関税の軽減分がそのまま利益になることはありませんが、わずかな値下げ額でも消費者の消費・購買意欲に対して大きなインセンティブとなり、売り上げが伸びます。