文明の転換期。効率の先にある体験の価値
私たちは今、大きな文明の転換点に立っています。人類の歴史を振り返ると、狩猟社会から始まり、農業革命、産業革命を経て、現在のデジタル社会へと至りました。これまで、産業革命以降の社会で最も重視されてきたのは効率性でした。最大多数の最大幸福を目指し、いかに平均的で画一的な体験を多くの人に届けるかが成功の指標だったのです。観光もその例外ではなく、誰もが同じ名所を巡り、同じようなツアーに参加することが一般的でした。
しかし、デジタル化が進み、一人ひとりのデータが可視化される現代において、その価値観は根本から覆されようとしています。これからの時代に求められるのは、平均的なサービスではなく、一人ひとりの心に深く刺さるエッジの効いた体験です。AIが知識や論理をサポートしてくれるからこそ、人間には何を感じるかという感性の部分が問われるようになります。
飲食業も同様です。単に空腹を満たすための効率的な食事を提供するモデルは、既にデジタルの波に飲み込まれつつあります。皆さまが提供すべきは、その場所、その瞬間にしか得られない五感を揺さぶる体験であり、それが地域社会を支える新たな基盤となるのです。
ミニ東京の罠を越え、地域独自の誇りを取り戻す
私が地方都市で活動する中で危惧しているのは、多くの地域がミニ東京を目指してしまっていることです。東京の利便性や都市的な景観に憧れ、似たようなチェーン店やショッピングモールを誘致することで、その土地が持つ本来の歴史や文化を壊してしまっている現状があります。どこへ行っても同じような景色が広がる場所には、観光客を惹きつける力はありません。
かつての成功体験に縛られ、利便性だけを追求した結果、地元の若者たちが誇りを持てない場所になってしまうのは非常に悲しいことです。今、世界中から観光客が訪れている場所は、利便性ではなくその土地にしかない価値を守り抜いた地域です。例えば、岐阜の白川郷や高山、アートで再生した直島などは、不便ささえも価値に変え、独自の文化を世界に発信しています。
食の分野においても、その土地の食材や伝統的な調理法は、地域を繋ぎ止める最後の砦です。チェーン店の均一な味ではなく、その土地の気候や風土が育んだローカルな食こそが、世界中の人々を惹きつける最強のコンテンツになります。私たちは効率性の呪縛を解き、もう一度自分たちの足元にある誇りを見つめ直すべきなのです。











