水産物流の現状と課題

専務理事 浦和 栄助 氏
東京都水産物卸売業者協会 専務理事 浦和 栄助 氏(以下、卸協会 浦和氏)「たとえば江戸前寿司は、天然や養殖などのネタ13種ほどでひとつ盛りになります。日本では全国どこのお寿司屋さんでも、毎日途切れることなく提供しています。これを可能にする日本の水産卸売市場の流通システムは、世界に冠たるものです。
一方、その裏側の流通は極めて複雑です。水産物は天然物が多く、全国から少量多品種の商品が豊洲市場に集まります。各産地から1台のトラックに20~30以上の荷主の商品を混載して、温度管理を徹底しながら運び、さらに全国の市場や物流センターへ振り分けられていきます。
水産業界の川上には小規模な漁業者が多く、大量の魚を安定的に獲れるわけではありません。そのため少量多品種になり、トラック1台分の商品を積んで出荷しにくい、物流効率の低下につながっています。さらに、生産者側の高齢化も深刻で、漁船の約8割が20~30年間使用されている現状もあり、各産地の将来不安は大きくなっています」

新事業・食品産業部
卸売市場室長 鈴木 裕 氏
農林水産省大臣官房 新事業・食品産業部 卸売市場室長 鈴木 裕 氏(以下、農水省 鈴木氏)「わが国の食品流通は、豊かな食生活や食文化を支えてきました。各産地と食品流通・商業の仕組みがしっかり繋がってきたことが基盤となっています。
しかし、近年は生産者の減少や高齢化に加え、人口減少による国内市場の縮小も進み、経済成長を前提に構築してきた流通の仕組みを見直す局面に来ていると思います」
東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋政策文化学科教授 中原 尚知 氏(以下、東京海洋大 中原氏)「国内の需要はひとつの産地では不安定で賄えず、日本全国の産地で日々水揚げが行われています。一方、消費者の要求水準は高く、ニーズは多様化しています。その不確実な両者をつなぐのが、流通です。

海洋政策文化学科教授
中原 尚知 氏
水産物の流通は、生産者、産地の卸・仲卸、消費地の卸・仲卸、小売まで、6段階の業者が関与する仕組みです。この多段階流通の構造は、高コストの要因と批判されがちですが、不安定な生産と、多様で予測しづらい消費ニーズをつなぐためには必要不可欠なシステムといえます。
ただ、近年は産地での水揚げ状況が大きく変化し、漁獲組成が大きく変わってきています。潮流や海水温の変化によって、従来の魚種の漁獲が減少する一方、これまで獲れなかった魚が水揚げされたりしている。産地としては急な環境変化に対応するのは容易ではありませんが、それでも価値を最大化するために、絶えずアジャストし続けてきました。
どこに販売すればよいか、どの販路を通せば消費者に届くか。6段階の業者がそれぞれ最適化しながら連動し、最終的に消費者へ的確に届くプロセスが形成されつつあります」

[出典]水産振興オンライン 水産物流通のこれから 流通現場からのアプローチ
水産物流の2024年問題
農水省 鈴木氏「商流と物流は表裏一体です。物流がなければ商流は成り立たず、商流がなければ物流も生まれません。その意味で、2024年問題は喫緊の課題で避けて通れません」
東京海洋大 中原氏「以前は産地から豊洲市場に水産物を運ぶため、トラックが夜通し走り続ける状況もありました。しかし、ドライバーの労働時間規制により、走行時間が制約され、これが水産物流の2024年問題として顕在化しています。
関東近郊の産地であれば、水揚げの翌日に都内の小売店や飲食店に鮮魚が並ぶサイクルはこれまでと変わらないでしょう。しかし、北海道、特に道東から豊洲市場への輸送は、水揚げから2日目に豊洲、3日目に小売、という従来の流れが、現在は1日余計にかかり、3日目に豊洲、4日目に小売、というサイクルが常態化しつつあります。












