「食産業庁」設立へ前進。人材不足、地域創生、政策提言など、課題解決の方向性を食団連が提言

セミナー・イベントレポート2025.06.04

「食産業庁」設立へ前進。人材不足、地域創生、政策提言など、課題解決の方向性を食団連が提言

2025.06.04

「食産業庁」設立へ前進。人材不足、地域創生、政策提言など、課題解決の方向性を食団連が提言

  • 汎用bnr_side_juhacchu_eatery_202507.png
  • 汎用bnr_side_v-manage_300_photo2.png

日本飲食団体連合会(以下、食団連)は5月21日、加盟者向け交流会でパネルディスカッションを行い、飲食業界が抱える課題について議論した。人材不足、地方創生、業界の地位向上など喫緊の課題に対し、登壇者は解決策と将来展望を提示。政策要望の働きかけに「食産業庁」の設立構想と実現への道筋が示された。

目次

佐藤代表理事あいさつ~外食産業の決起集会と未来への展望

食団連 代表理事 佐藤 裕久 氏
食団連 代表理事
佐藤 裕久 氏

佐藤代表理事は開会挨拶で「本交流会は私にとって決起集会です」とし、コロナ禍を乗り越えた飲食業界が直面する、国際情勢の変化による関税、エネルギー価格変動、人材不足、ノロウイルス対策、働き方改革、外国人労働者問題、若手育成、農作物保護、カード手数料といった多岐にわたる課題を指摘した。

佐藤代表理事「それでも、知恵と工夫で乗り越えられます。外食産業は人々に喜びや豊かさを届ける素晴らしい産業です。この業界を未来へつなぎ、10年、20年と持続可能な産業として歩めるよう、食団連は皆様と共に進んでまいります」

山下副代表理事あいさつ~食産業庁設立による地位向上

食団連 副代表理事 山下 春幸 氏
食団連 副代表理事
山下 春幸 氏

山下副代表理事は料理人としての現場経験を踏まえ、食団連の現状と今後の活動を説明。コロナ禍での政策提言経験から業界団結の必要性を説き、和食、洋食、ラーメンなど、これまで個別活動だった業態の結束が始まったと強調した。

食団連の最終目的を外食産業の価値向上とし、その施策として「食産業庁」設立構想を明かし、実現への確信を示した。特に、外食産業が若者にとって魅力的で、誇りや将来性、持続的成長を描ける業界を目指すことの重要性を訴えた。

山下氏「現在、食団連は61団体が加盟し、見込みを含めると67団体に拡大します。行政機関とのヒアリングや意見交換を通じ、政府に業界の声を届けています。そのためには、的確な情報・データの提供が不可欠です。国会議員との連携や陳情といった日常的な関係構築が、発言機会を得る上で重要になります」

会員団体交流会パネルディスカッション

1.人材不足にどう抗うか

左)NPO法人 日本ホスピタリティ推進協会 特任講師 角 俊英 氏、(中)一般社団法人 大阪外食産業協会 会長 中井 貫二 氏、(右)一般社団法人 北海道飲食業経営審議会 代表理事 大坪 友樹 氏
左)NPO法人 日本ホスピタリティ推進協会 特任講師 角 俊英 氏
(中)一般社団法人 大阪外食産業協会 会長 中井 貫二 氏
(右)一般社団法人 北海道飲食業経営審議会 代表理事 大坪 友樹 氏

飲食業界最大の課題である人材不足について、現場を熟知する3氏が施策と意見を交わした。ディスカッションに先立ち、食団連の高橋専務理事が外食産業の長時間労働要因を「働き手の質(職人)」と「量(ワーカー)」の2側面から議論する必要性を示した。

高橋氏「従事者約400万人の対策をひとくくりにはできません。ランチとディナー間のアイドルタイムの拘束時間化や、生産と消費が同時に行われる外食産業特有の課題に対する最適化が焦点です。スポットワーカーが普及する一方で、正社員が他店で働き、自店がスポットワーカーに頼るという本末転倒な状況(量の問題)も見られます。

また、和食の無形文化遺産登録から10年以上が経過しましたが、現在の働き方では職人修行が困難であるという質の問題も抱えています。複雑な仕込みなどの長時間工程については、法令遵守と本人の合意の上での環境整備が必要です。この点については、労務人事部会と実務レベルで議論を進めています」

NPO法人日本ホスピタリティ推進協会特任講師の角氏は、人材不足と定着率の低さの要因に組織風土を挙げた。

角氏「人間関係の希薄さや疎外感が離職を招きます。顧客対応だけでなく、社内の人間関係も良好にするホスピタリティの精神で組織風土を見直すべきです。当協会では『ホスピタリティコーディネーター養成講座』を通じて、その考え方と教育手法を提供し、組織風土改革の啓蒙活動を展開しています。経済産業省が推進する『おもてなし規格認証制度』は、企業を定量的に評価するもので、国際規格ISO23592にも準拠しています。仕組みと同様に『空気感』が重要であり、ホスピタリティがその鍵を握っています」

一般社団法人北海道飲食業経営審議会代表理事の大坪友樹氏は、北海道での女性雇用促進や地方の課題を語った。

大坪氏「当社では『母になっても当たり前に働ける企業』を目指し、主婦層の正社員雇用を推進しています。専業主婦が減少すると予測される中、飲食業においても働く場の多様化は必然です。若者から30代まで、多様な人材が活躍できる環境整備が必須であり、採用の門戸を広げた結果、応募数も増加しました。人材の多様性が持続的成長を支えます。インターンシップも積極的に受け入れ、大学生の採用にも繋がりました。飲食業と水産業を融合させ、食育や環境保全といった社会性のあるテーマを掛け合わせることで、若者の業界への興味関心を高めることができました」

一般社団法人大阪外食産業協会会長の中井貫二氏は、年収の壁対策として年間勤務計画によるシフト調整で繁忙期の人手不足を回避する工夫を述べた。

中井氏「人材不足は構造的な課題として受け入れるべきです。その解消策は、採用、定着、生産性向上の3点に集約されます。特に定着においては、従業員エンゲージメントの追求が重要です。生産性向上のためのテクノロジー活用も含め、食団連として積極的なアイデアや提案をしていく必要があります」

また、飲食業界ではOJT以外の研修時間の確保が困難である点について角氏は意見を述べた。

角氏「スキルだけでなく、働き手の意識や規律も関連します。スキルは教育によって育ちますが、その根底にある思いがなければ活かされません。人手不足であっても料理の品質を落とさないように、例えば生肉を焼く時間を一定確保するなど、業種や組織には守るべき当然の水準があります。その上で、顧客、仲間、会社とどう向き合うかといった、働く上でのあり方を考える時間が特に大切です。若者はマニュアルの理解力は高いものの、主体性と思いを持って業務に取り組めるかが問われます。ホスピタリティ教育を取り入れる企業が増えています」

最後に、登壇者から人材不足対策へのメッセージが送られた。

大坪氏「2030年にはサービス産業で660万人の人材不足が予測される中、業界の垣根を越えた柔軟な発想が求められます。飲食業単体で考えるのではなく、観光をテーマに他業種との連携を深め、飲食店がその中心的役割を担うべきです。業界再編も必要であり、観光との連携が新たな未来に繋がると信じています」

中井氏「食団連は人材不足問題に真摯に向き合います。私が所属する労務人事部会では、厚生労働省や専門家と情報を共有し、実情を踏まえた政策提言に注力しています。全国の飲食企業が持続可能な経営を行えるよう、食団連も一丸となって支援してまいります」

角氏「ホスピタリティ教育を浸透させることで、顧客視点で考えられる人材を育成したいと考えています。教育が組織に浸透し、職場の相互理解が進むことで、厳しい環境下であっても状況改善を目指せるよう支援していきます」

2.食×地域創生 2025

(左)NPO法人 築地食のまちづくり協議会 事務局 鈴木 孝夫 氏、(中)食団連 滋賀県支部 支部長 細川 雄也 氏(株式会社nadeshico 代表取締役) 、(右)NPO法人 居酒屋甲子園 9代目理事長 和田 裕直 氏
(左)NPO法人 築地食のまちづくり協議会 事務局 鈴木 孝夫 氏
(中)食団連 滋賀県支部 支部長 細川 雄也 氏
(株式会社nadeshico 代表取締役)
(右)NPO法人 居酒屋甲子園 9代目理事長 和田 裕直 氏

第二部のテーマは「食×地域創生 2025」。NPO法人築地食のまちづくり協議会事務局の鈴木孝夫氏、NPO法人居酒屋甲子園9代目理事長の和田裕直氏、食団連滋賀県支部支部長の細川雄也氏が登壇し、食を通じた地域創生の取り組みを議論した。

鈴木氏は築地場外市場の現状と展望を語った。

鈴木氏「従来は良い商品を並べていればお客様が来るという文化でしたが、変化に対応すべく新たな取り組みに注力しています。目指すは、『名産品づくり』『マッチング強化』『築地の強化』の3点です。

1点目の『名産品づくり』では、これまで地域独自の名産品がなかったため、市場関係者と連携して築地発の名産品を創出し、来訪者の体験価値向上と市場関係者の意識変革を目指します。2点目の『生産者と料理人のマッチング強化』では、築地の地理的優位性を活かし、生産者と料理人が密接に連携できる仕組みづくりを推進します。3点目のDX推進による『築地の強化』では、アナログな慣習が残る築地市場でDXを進め、データに基づいた経営を行うことで、人材確保を含む業界全体の強化を図ります」

食団連滋賀県支部の細川氏は、行政連携による地域創生例を紹介した。

細川氏「関西におけるインバウンド訪問者数は、大阪が366万人、京都が275万人であるのに対し、滋賀は3.6万人という状況です。この状況を打開するため、京都から電車で20分という利点を活かし、京都からの誘致を行政と共に模索しています。守山市の元市長が手掛けた小学校併設の『あまが池プラザ』にカフェとレストランを設置し、滋賀県ならではの古民家を改装してカフェを併設するなど、地域の拠点に食を取り入れる取り組みを進めています。飲食業単体ではなく、行政、生産者、住民が一体となった『オール滋賀』で地域を盛り上げていきます。さらに、地元客や企業をターゲットとした夏のイベントなどを企画し、滋賀の食材や食文化の認知度向上を図っていきます」

居酒屋甲子園の和田氏は、全国大会優勝の新潟県燕三条イタリアン「Bit」を成功例として紹介した。

和田氏「新潟のBitは、『食×地方創生』の模範と言えるでしょう。ものづくりの町・燕三条に立地し、新潟の食材を再発掘するとともに、職人手作りのカトラリーやグラスを積極的に使用しています。高価な品々を新潟の食材と共に提供することで、お客様は食事をしながらその土地の文化や技術に触れることができます。

また、プロジェクションマッピングで食材の背景や道具の製作過程を紹介し、地域の物語に触れる体験を提供しています。『新潟ってこんなに魅力のある街だったんだ』と感じさせるこの体験は行政関係者にも注目され、銀座出店への行政支援も得られました。地域の隠れた魅力を発掘し、その価値を再定義するこの手法は、他の地域でも応用可能です」

最後に各登壇者から、食産業が地域創生で果たすべき役割について提言があった。

鈴木氏「築地は産地ではありませんが、全国から食材が集まる拠点です。良いものを見極め、価値ある形で届けるという使命があります。『美味しいものは尖らせろ』という言葉があるように、店舗ごとの個性やこだわりを明確に打ち出すことが、食の価値を守り、発展させる上で不可欠です」

細川氏「滋賀には、まだ発掘されていない優れた地域食材が多くあります。農家から仕入れた食材を美味しく加工し、付加価値の高い商品として消費者に提供することで、外食産業と生産者双方の付加価値が向上します」

和田氏「訪日外国人のリピーターは8割を超えています。彼らは単なる観光客ではなく、日本人に対するのと同様のおもてなしとサービス提供を求めています。食を通じて日本の魅力を感じてもらい、日本の食産業全体の底上げに貢献したいと考えています」

3.どのような政策提言をするべきか

(左)一般社団法人 小規模飲食店環境整備協会 代表理事 鈴木 亘 氏、(中)日本ライブレストラン協会 会長 北口 正人 氏、(右)一般社団法人 食文化ルネサンス 専務理事 二之湯 武史 氏
(左)一般社団法人 小規模飲食店環境整備協会 代表理事 鈴木 亘 氏
(中)日本ライブレストラン協会 会長 北口 正人 氏 
(右)一般社団法人 食文化ルネサンス 専務理事 二之湯 武史 氏

最終ディスカッションテーマは「どのような政策提言をすべきか」。小規模飲食店環境整備協会代表理事の鈴木亘氏、日本ライブレストラン協会会長の北口正人氏、食文化ルネサンス専務理事の二之湯武史氏が登壇し、飲食業界の政治的影響力向上への具体的戦略を議論した。

鈴木氏は、業界団体が課題を政治に届け解決するメリットを強調。

鈴木氏「個人店が声を政治に届けるのは困難です。業界団体が一つのかたまりとなり、要望を働きかける必要があります。政策実現には、(1)共感してくれる議員や行政関係者を増やす、(2)議員連盟を設立する、(3)政治課題として認識させる、(4)予算を獲得する、という4つのステップがあります。食団連は議員連盟設立の段階まで進んでいます。政治スケジュール、特に骨太の方針などに合わせた活動が重要です。他の業界と同様に政治連盟を設立し、政治スケジュールに合わせた活動を展開していくことが今後の課題です」

北口氏は風営法が障壁となっていた外国人雇用問題を挙げた。

北口氏「旅館業において、接待行為の解釈から風営法の対象とされ、特定技能の外国人を雇用できないという問題がありました。入国管理局や農林水産省に直接掛け合い、4月の施行で旅館業界でも雇用が可能となり、人材不足解消に一歩前進しました。制度は、現場の悩みに寄り添い、働きかけることで改善に繋がります。これが民間側からの政策提言の一つの形です」

食文化ルネサンスの二之湯氏は、飲食業界と政治の関係の根源的課題を指摘した。

二之湯氏「政策要望がすぐに通るわけではありません。まずは、実現に必要な条件を理解する必要があります。飲食業界は、政治への理解や関係構築という点で、他の業界に後れを取ってきました。他の業界は政党支持とは関係なく政治と関係を構築していますが、我々の業界にはその文化がありません。食団連がこの文化を創出し、政治との対話を日常化していく必要があります。コロナ禍における家賃補助などは特殊な事例であり、平時においては飲食業界だけが特別扱いされることはありません。医師会や農協などと渡り合うには、まず食団連という組織を大きくし、現在の60団体から100、150団体へと、日本の飲食業界の代表となる必要があります。同時に、地域における政治関係者との関係深化も求められます。時間と経験を重ね、政治的リテラシーを高めることが、業界発展の一助となります」

そして、食団連が目指す「食産業庁」設立に向けた政策提言や政治連携について3氏が意見を述べた。

鈴木氏「政治連盟の立ち上げに加え、連携する議員連盟との継続的なやり取りが大切です。全ての政党と等距離で接するのではなく、政権与党との関係構築が政策反映の要点となります。限られたリソースの中で、最も影響力のある与党との繋がりを強化することが不可欠です」

北口氏「政治家との関係構築と並行し、官僚との連携強化も不可欠です。エンタメ業界は経済産業省のコンテンツ産業課と連携し、コロナ禍で数千億円規模の予算を獲得しました。飲食業界も農林水産省をはじめ、真摯に向き合ってくれる官僚との窓口が必要です。食団連の政策部会は、食産業庁の創設を視野に入れ、産業としての食を支える官僚との連携体制構築に取り組んでいきます。業界に理解のある官僚を増やし、自然と政策に関する相談が持ち込まれるような関係を目指します」

二之湯氏「私が議員だった頃、国産米で造られた清酒を『日本酒』と定義するGI(地理的表示)制度の創設に注力しましたが、安価な輸入米で酒を造る大手メーカーからの反発があり難航しました。その時、自分たちの正義が必ずしも業界全体の総意ではないと痛感したのです。食団連の方針に異を唱える方々と、その背後にある政治的な支援基盤を理解する必要があります。日本の飲食業界といえば食団連と言われるような確固たる存在感を確立することが、政治的影響力強化の基盤となります」

最後に、コーディネーターの食団連高橋専務理事が今後の活動への思いを語った。

高橋氏「現在は基礎固めの段階です。食産業庁設立といった目標達成には、5年、10年といった長期的な視点が求められます。飲食業界全体の理解と協力が不可欠です。食団連は、会員の皆様の意見を反映し、政策提言を一層強化してまいります。7月には外食サミットを開催予定です。今回は講演形式でしたが、次回は皆様から直接ご意見を伺う機会としたいと考えています。ぜひご参加いただき、共に業界の将来を考えていきたいと思います」

注目のキーワード

すべてのキーワード

業界

トピックス

地域