漁師から食卓まで~日本が誇る水産物流の現状と未来

セミナー・イベントレポート2025.09.19

漁師から食卓まで~日本が誇る水産物流の現状と未来

2025.09.19

その結果、鮮度の維持が難しくなっています。端的にいえば、鮮度が良いという強みがやや薄れてきている。さらに、業者間の取引でも、鮮度が高ければ在庫期間が延び、時間的マージンを分け合える余地がありますが、その余裕も削がれている。消費者への価値訴求と、業者間取引の両面で、これまで以上にシビアな状況になっています」

卸協会 浦和氏「生鮮水産物の輸送は、他の物流とは事情がまったく異なります。たとえば、養殖のブリでも、下氷や水氷で鮮度を保たなければならない。魚は氷の上に置かれ、氷が溶けると荷台に水が滴り落ち、これが生臭さの原因になります。そのため専用の荷台でしか運べず、農産物や衣類のような他の商品と混載できません。行き荷と帰り荷も同じ種類のものを運ぶ必要があります。

さらに、魚5kgを運ぶのにその倍以上の氷と水が必要です。輸送効率は低くなる分、人手が掛かりやすく、裏を返せば人手不足に陥りやすい構造にあります」

課題解決に向けた最新動向

物流業界ではモーダルシフト(トラックがメインの輸送を、環境負荷の低減と大量輸送を可能にする鉄道などへ転換すること)をはじめとする課題解決に向けた動きがある。

最近では、荷役作業の負担を軽減するパレット輸送の標準化や、デジタル化の進展、複数のドライバーでのリレー輸送を可能にする中継・共同物流拠点の整備など、新しい物流の形が少しずつ組み立てられている。

[出典]持続可能な食品等流通総合対策事業 事業イメージ 国土交通省 第4回 官民物流標準化懇談会 2024年11月 【資料6】農産物等の物流標準化に関する取組について

東京海洋大 中原氏「水産物を支えてきたトラックの定期便や自社便、高級品なら航空便やフェリーもありますが、効率化の動きはさらに進んでいます。たとえば鉄道輸送。新幹線の定期便を使い、とれたての鮮魚をその日のうちに産地から大都市部へ届ける試みです。モーダルシフトを軸に、トラックや鉄道、航空便などを組み合わせた物流網の再編が、少しずつですが着実に進んできています」

農水省 鈴木氏「食品流通はこれまで、豊かな食生活や消費者の多様な価値観を支えるために、常に変わり続けてきました。産地も、より安定的な生産を実現するため、漁船漁業から陸上養殖へシフトするなど、さまざまな難題に直面しながらも、じっとしていたわけではありません。自身の利益や人々の幸せのために、変化し続けてきたことは間違いないのです。

今後の人口減少がどう影響するかは正直わかりません。だからこそ、私たちも変わり続けていかなければなりません。

国は『さらなる効率化を、技術革新を』とスローガン的なことしかいえず、マクロな施策にとどまりがちです。しかし、現場の方々の『ここをラクにしたい』『無駄を省きたい』といった小さな気づきに寄り添い、そこにDXやデジタル化といった手段をどう当てはめていくかを考えることが重要だと考えています。

私たちも現場の方々と密に意見交換を重ね、少しずつ楽になる工夫を積み重ねながら、デジタルや新しい仕組みを現場に溶け込ませていく。そして怖がらずに変化し続ける。その歩みを現場と一緒に進めていきたいと思い、日々の仕事に取り組んでいます」

水産物流のミライのカタチ

卸協会 浦和氏「高齢化で胃袋の数も大きさも小さくなる一方、美味しいものを食べたいという欲求はむしろ強まっています。食の豊かさは、“腹いっぱい”から“多様性”へ確実にシフトしています。山間の小さな町の居酒屋でも、店内の黒板に『○○産クロダイ』と書いてある。そのための水産物流通をどう維持していくかが、いまの至上命題です。

産地のインフラが弱まるなか、食料安全保障の観点からも、水産物流は国が直接関与できる領域であり、守り抜かねばなりません。さらにいえば、漁業はある意味で国防でもある。周辺国は軍艦のような漁船で大規模な漁を展開しています。日本も漁業を商業として成立させ、獲った魚を確実に流通させて消費者に届ける循環を続けられなければ、日本の海も、日本そのものも守れないのではないでしょうか」

東京海洋大 中原氏「今の水産物流は、鮮度を極めて高い水準で保持する努力を重ねてきました。事業者は在庫や保管能力といった高コスト・低利益の仕組みを抱えながら、現在の魚食文化を支えています。ただ、鮮度が少し落ちたからといって、魚食文化が廃れることはないはずです。もし消費者が鮮度至上主義を少し緩めれば、もっと効率的で持続可能な未来像が見えてくるのではないでしょうか。

もうひとつ、ECの可能性があります。ご存知のように、水産物のECは非常に難しい。市場では現物を前に豊富な情報を得て、その場で取引が成立し、同時に物流も動きます。これをECで成立させるには、スクリーン上で現物を目の前にしたのと同等かそれ以上の情報を提供できなければなりません。これが実現できれば、需給が瞬時に決まり、産地から消費者まで最適な物流が組み立てられます。物流、商流、情報流を分離した取引ができるのです。少しSFのようですが、そんな未来を想像する価値はあるでしょう」

農水省 鈴木氏「豊洲をはじめとする市場の膨大な物量を即座に目利きし、値づけして流していくスピード感にはいつも驚かされます。何もないところからもう一度作れといわれたって作れないでしょう。大正・昭和の時代から、先人たちの知恵と経験が重なり合って作られてきた奇跡的な仕組みといえます。

そのうえで、食品流通は豊かな食生活を実現すると同時に、食料安全保障を支えるものです。生産、卸、小売、消費のどこか一つが途切れれば全体が止まってしまうような世界。だからこそ全体を俯瞰しつつ、弱くなった部分を補強し、逆に強すぎて他を圧迫している部分があれば調整するというトータルのバランスを保つことが農水省の役割だと思います。

現場の声を汲み取りながら、今日をきっかけに多様な価値観で議論を深め、未来の水産物流を共に築いていきたいです」

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