③場~VRで距離がなくなる“場”
VR(仮想現実)などの技術が一般に浸透すれば、自宅の部屋を飲食店のようなインテリアに見せることも不可能ではなくなる。またその場にいない友人を空間に呼び出して、リアルなバーチャルリアリティー飲み会を楽しんだりすることもできるだろう。そのとき、キッチンでは調理ロボットがレシピデータを共有し合い、互いの自宅で同じ料理を作っているのだ。
子安「人がどこに住んでどこで働くかという、大きな問題ですね。リモートワークが進んで自宅で働くことがスタンダードになると、外食の機会はぐっと減ると思います。やはり会社に勤めている人同士や、友達と会って飲食店を利用するといった理由が大きいので」
中村「場のとらえ方が、根本から変わってしまう可能性があります。飲食店そのものが解体されてなくなるという言い方もできますが」
楠本「これは、飲食店の役割が問われていると思います。確かにAIやVRなどいろいろな技術で擬似的に体験することは増えていくでしょう。しかしその分だけ、リアルな経験価値をどれだけ増やせる場を作るかが勝負になってきます」
“経験価値を高める場作り”とはどういうことなのか。楠本氏はスペインのサン・セバスティアンという人口15万人の町を例にあげた。
楠本「この街には美食倶楽部という、銀行家も料理人もみんなフラットな立場で参加する食のコミュニティが、60も存在しています。そのクラブには共通のルールがあって、とにかくみんなで料理を作って学び合うんです。レシピもシェアします。結果的に人口あたりのミシュランの星の数のある店が圧倒的に高い街になりました。町興しに料理を使って、成功したんです。サン・セバスティアンのようにもっと地域コミュニティ全体で、自分たちの地域ブランディングを継続的にしっかりやっていけば、世界中から人を呼んで感動してもらえる。そのために何をするかを、もっと考えないといけません。おらが街をなんばすればよかと、ということです」
中村「近くのお店同士で足の引っ張り合いをしている場合じゃないですね」
楠本「僕は地方にチャンスが生まれると思いますよ。40万都市もあれば5万都市もあって、それぞれがまったく違う。40万には40万人の、5万には5万人の、外食産業が果たす役割がありますから。おもしろい化学反応で個性ある街作りをしていったらいいと思います」
子安「楠本さんは、これからやりたい取り組みってあります?」
楠本「僕はとにかくシェアしたい人なので、サン・セバスティアンの美食倶楽部ではありませんが、地方にアジトのようなものを作りたいと思っています。上手く言えないけど、いろんなものを混ぜ合わせて人が集まる自由な場です。もういくつかの街でやり始めていて、この前CCCさんといっしょに宮城県多賀城市に図書館とレストランの一体型施設を作ったんですよ。人口6万人の街で、初日には1万2千人の方に来ていただけました。まぁ、自分の商売はいいんですが」
子安「すごいですね」