FC加盟店側のメリット
コロナ禍でも飲食店のFC展開を検討する関心は高く、船井総研へのFCに関する相談は飲食企業以外に、不動産業やアミューズメント業などの異業種からもあったという。
「外食企業が他社のFCに加盟する一番の目的は、時流に合った業態で出店できることです。一般的に業態開発するには、開発ノウハウの構築に時間も資金もかかります。飲食業の経営において店舗拡大を考える際、すでにFC展開されている業態であれば成功モデルも見えており、経営面のリスクを回避できます」
また、人材育成の面でもFCに加盟することのメリットは大きいと指摘する。
「オリジナルブランドの多店舗化は時間も労力もかかります。その要因として、店舗責任者クラスの人材育成の難しさがあります。その点、フォーマット化されている業態を多店舗化する方が、スピーディに出店できます」
他にも、加盟店にとってFC本部がどのような管理・運営をしているか知ることで、将来的に自社がFC本部として展開する際に参考になるという。こうしたいくつかのメリットを考えると、FC加盟を検討する企業が多いのも頷ける。
<FC加盟店側のメリットまとめ>
●時流に合った業態が出店しやすい
●成功モデルがあり、経営リスクを回避しやすい
●人材育成にとらわれずスピーディに出店しやすい
●将来的なFC本部運営の参考になる
FC本部の運営によって考えられる収益性と安定性
またFC本部を運営するメリットには、人手不足のリスクを抑えた出店、食材卸としての事業展開、自社セントラルキッチンの生産性向上といったことが考えられる。
「未開拓エリアへの出店を考えるにあたり、オリジナル業態での展開は認知度の点で求人が追いつかなくなるケースがあります。その点、すでに認知されている屋号でFC展開すれば、人材も集まりやすくなります」
FC本部運営の最大のメリットとして石本氏が挙げるのが、食材を卸す卸機能でのマネタイズだ。
「FC本部として加盟店に商品共有することで、セントラルキッチンの生産性と収益性を上げることができます。すでに自社のセントラルキッチンがある場合、セントラルキッチンの生産性を上げることは重要です。生産性を上げるには製造数を増やす必要がありますが、自社の多店舗展開のスピードではどうしても時間がかかるでしょう。そこでFC本部となるメリットが出てくるのです」
例えば店舗規模が大きい焼肉業態であれば食材卸として、またラーメン店の場合もサプライチェーンとして広げたいといった声があるという。
「最近では、これまで少なかった海鮮系のFC展開ニーズも高まっています。というのも生鮮三品において、以前のように肉が高くて魚は安いといった状況ではありません。水産品は食材の扱いも難しいため、海鮮系の食材卸やFC展開への期待が高まる気運があります」
<FC運営側のメリットまとめ>
●人手不足のリスクを抑えた出店ができる
●未開拓エリアに出店しやすい
●セントラルキッチンを有効活用し、食材卸としてマネタイズできる
大きなマーケットでは差別化要素、大商圏ではニッチ狙いも
ここからはFC本部の立ち上げ方について見ていきたい。そもそもFC展開をするのに向いている業態は何だろうか。石本氏は、その1つとして参入障壁の高い業態を挙げる。
「同業他社が簡単には真似できない、参入障壁が高い業態であればFC本部の立ち上げを考えていいでしょう。例えば、仕入れにおいて独自のルートがある、特徴あるメニューで他社から“そのままで出したい”というほど商品開発に長けていることなどが挙げられます」
さらに、店舗オペレーションを含めたマネジメントが他社でも実現可能かどうかも重要という。
「仮に単店舗で繁盛していても、同じような店を他の人が再現できるかどうかです。これはバックヤードの整備ができているかが重要になります。裏を返せば、そこをFC展開の強みにすることもできます。
例えば、肉の仕入れは誰でもできますが、カット済みの肉を真空パックで卸し、店舗では解凍し、封を開けて並べるだけで焼肉屋ができるとなれば、差別要素にもなります。こうした差別要素をいくつ作れるかで、FC化できるかどうかが分かれてきます。焼肉やラーメンなど、大きなマーケットでも差別化次第で、FC化できる可能性はあります」
FC本部の立ち上げでは、別の視点としてニッチなニーズを狙うということがある。世の中に店舗数もまだ多くなくライバルも少ない。大商圏におけるニッチトップという言葉があるように、ニッチを狙っていく方法も有効だ。
「例えば、パクチー専門店やモッツァレラチーズ専門店などがあります。ニッチをあえて狙うには、大商圏で集客が見込める立地、売上を高く取れるような業態というのもポイントです。もしくは、小商圏で成立しているモデルであれば、大商圏でも成立します」
FC事業者が講演するセミナーなどの情報をもとにすると、成功できそうなFCビジネスモデルは営業利益が20%以上というのがひとつの目安としてあるという。
FC運営はシステムの導入で加盟店を上手に管理する
FC本部を立ち上げるにあたっては、マニュアル、レシピ、契約書、食材の配送方法、保証金と加盟金の取り決め、ロイヤリティや食材価格の設定、加盟店の研修制度など、準備することがさまざまある。
「マニュアルやレシピの内容がFC加盟店に漏れてしまうことがありますが、どんな策を講じても100%守ることはできません。ただ、ITシステムを利用することで、ある程度の漏洩を防ぎながら、FC加盟店に共有しやすいようにはできるので、積極的に取り組むことをおすすめします。例えば、レシピの管理サービスを使い、本部側でメンテナンスをしながら加盟店に最新情報を閲覧してもらう方法です」
他にも、FC本部が加盟店へマニュアルを共有したり業務連絡したりする際にオペレーション管理ツールなどを使うのも有効だ。大切なことは、加盟店が増えたとしても、利用しているシステムで加盟店の経営状況を把握できる仕組みにすることが大切だ。
「自店舗をFC化しようということは、すでにそれなりの繁盛店をされていると思います。そうであれば、バックオフィスの整備は不可欠です。FC化を考えていてシステムを導入していないのであれば、多店舗化した際にどのようなシステムが最適か早めに判断して切り替えていく必要があります」
保証金や加盟金、月々のロイヤリティ、研修費用などについては、どのように設計すればいいのだろう。
「これらの価格設定については、正直決まったものはありません。保証金については、想定される食材卸の金額の3ヶ月分程度を保証金とするのが1つの目安です。加盟金は、初期のトレーニングも含めた工数の量や他のFCと比較した際のブランド価値によっても上下します。一般的な相場では200万円を軸に高いか低いかではないでしょうか。
食材卸に関しては、独自の判断でいいと思います。自社独自の仕入れルートであれば、多少価格を上げてもよさそうです」
SV機能で店舗のQSCを適正に管理する
FC本部の運営には、大きく分けて3つの方法がある。屋号をそのまま使ってもらう場合に、スーパーバイザー(SV)機能がある場合とない場合、食材卸だけを行うサプライチェーンでの展開だ。
SV機能とは、加盟店のQSC(Q:クオリティ、S:サービス、C:クレンリネス)レベルを維持し、商圏内で適正な売上と利益を残して継続した組織運営ができるようサポートするスーパーバイザー担当者を置くことである。SV機能がないことで、気づかないうちに加盟店のQSCの質が落ちたり、本部での研修経験のない人が店長になっていたりといったこともあるという。
「基本的にはSV機能はつけた方がいいと思いますが、その分の人件費がかかります。だからこそ、加盟店の売上を伸ばすことで、自社の利益を獲得することをミッションとできるSVであることが求められます」
一方、食材卸のみ行う選択もあるが、石本氏の考えとしてはSV機能をつけて継続的な収益を確保するFCモデルとして打ち出したほうがいいという。
「FC本部としてはじめるにあたり、スタート時点では既存社員が店舗立ち上げを支援したり、定期的な訪問をしたりするのがよいと思います。ただ、加盟店が3店舗、5店舗ともなると既存社員のSV兼任では管理しきれなくなります。それを見据えて、SV機能を整えていく必要があると思います」
売上の維持に必要な3つのこと
加盟店の数が増えてきてからの課題は、何と言っても売上の伸び悩みだろう。そうならないためにFC本部として最低限、確認しなければならないのは、商品、販促、顧客管理の3つが十分に行われているかどうかだ。
「例えば1年以上、メニューが変わらない店に行くでしょうか? 専門店であれば、グランドメニューの改定は難しいですが、その分、季節商品を高回転で打ち出さなければ、リピーターに飽きられてしまいます。販促については、既存客向けと新規向けで使い分けて、①定期的な実行、②本部として推奨、③マストで実行させる、この3つの方法で行うことが大切です」
顧客管理についても、本部としてどんな方法を推奨するかで変わるという。やりやすい方法として、LINEの公式アカウントを使った顧客管理がある。LINEはユーザー数が9,500万人に上り、幅広い年齢層に利用されている。
「不特定多数に向けた告知から、一度でも来店したお客様向けの情報発信ができるチャンネルを持っておかないと、客数の底上げにはなりません。この意識を持って計画的な顧客管理ができているかが重要です」
地域一番企業を目指したFC化
FC展開後の投資回収モデルはどのように考えるべきか。石本氏は10年先を見据えたビジョンを持つべきだという。
「投資の回収という点では、最低でも5年から7年はかかるため、そのFCモデルが5年先、10年先も利益が確保できる業態かの見極めが大切です。その際、未来の予測はできませんが、過去の実績で検討することはできますから、5年前10年前から安定して経営しているFCで、現時点でもある程度の収益が望めるのであれば安心できると思います」
研修についてのノウハウがないといった場合、船井総研では飲食コンサルタントが経営者向け、現場の責任者向けなど、対象に合わせたプランも用意しているという。
「私たちは、『地域一番企業を目指しましょう』とお話しています。地域一番店は、その業態で繁盛店を作り、地域で一番の店を目指します。一方、地域一番企業は、いま出店しているエリアで、さまざまな業種業態を展開して囲い込むことで、その地域になくてはならない企業になりましょうというメッセージでもあります。ぜひ、地域一番企業を目指しましょう」
株式会社船井総合研究所 地方創生支援部 外食グループ
中食事業の開発や飲食店・総菜店・仕出し店・ホテル・小売店などの活性化のほか、赤字企業のV字回復に向けた即時業績アップ、外食企業の中食事業参入や外販事業部構築、不振店のテイクアウト・デリバリー専門店転換など実績多数。
船井総合研究所フードビジネス専門サイト『フードビジネス.COM』