飲食店運営における、最低賃金引上げと103万円の壁に対応するためのデジタルツール活用法

飲食・宿泊2024.12.03

飲食店運営における、最低賃金引上げと103万円の壁に対応するためのデジタルツール活用法

2024.12.03

飲食店運営における、最低賃金引上げと103万円の壁に対応するためのデジタルツール活用法

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毎年の改定により、最低賃金が年々引き上げられていることはご存知だろうか。これは飲食業界に人件費の高騰として影響を及ぼすだけでなく、「103万の壁」という税制度により労働力が減少する問題も生じている。

特に扶養内で働くパートやアルバイトを雇用・採用する飲食店では、少なくなる労働力をどのように補うかが大きな課題になってくる。そこで今回は最低賃金の引き上げと103万の壁についての解説から、少人数で店舗運営するための工夫やデジタルツールの活用法についてまとめていく。

目次

飲食店の最低賃金引上げと103万の壁

飲食店の経営において、現場で働くパートやアルバイトなどの従業員は欠かせない。すでに給与やシフト面などで頭を抱えている経営者の方も多くいると思うが、今後はより慎重に計画を立てなければならなくなる。

では具体的に最低賃金の引き上げと103万の壁がどう関係してくるのか、それぞれ解説していく。

最低賃金引き上げとは?

最低賃金とは、従業員に支払わなければならない賃金の最低額を定めた法律のことである。時給換算されており、正社員やパート・アルバイトなどの雇用形態を問わず、すべての労働者に当てはまるものだ。

企業が最低賃金を下回る時給を設定することはできず、仮に労働者と企業の双方が合意していても、法律によって最低賃金額と同等にみなされる。もし違反した場合には、最低賃金額との差額を支払わなければならず、50万円以下の罰金が科される。

また日本では「最低賃金法」に基づき、金額を毎年改定している。労働者の給与を最低額で設定している企業は、引き上げに応じて見直す必要が出てくるだろう。

最低賃金の引き上げ時期

最低賃金が変動する時期については、毎年10月頃となっている。基本的には引き上げる方針で政府が目標を掲げており、全国平均の最低賃金を1500円まで段階的に引き上げる予定だ。
参照元:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧(過去5年分)

具体的な引き上げ額やペースについては都道府県ごとに異なるので、経営者は自店舗エリアの改定情報を細かくチェックしておこう。最新情報については、厚生労働省の最低賃金に関する特設ページで確認できる。
参照元:厚生労働省「最低賃金

都道府県別の最低賃金

近年では、毎年の改定により最低賃金が1,000円を超えている地域も少なくない。例えば東京・大阪・神奈川では、1,100円を上回る水準に設定されている。

地域名令和6年度最低賃金額令和5年度最低賃金額
全国平均1,055円1,004円
東京1,163円1,113円
神奈川1,162円1,112円
大阪1,114円1,064円

全国の最低賃金額については、以下のリンクから最新情報を確認できる。
参照元:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧

毎年のように最低賃金額は引き上げられ、令和5年度に全国平均が1,000円の大台を超えているが、それによって発生する問題もいくつか挙げられる。その代表的な例が、「103万の壁」と呼ばれるものだ。

103万の壁とは?

103万の壁とは、配偶者や子供などが世帯の扶養に入れるかどうか、所得税の支払い義務が発生するかどうかのボーダーラインのことである。扶養内で働く主婦や学生などの年間収入が103万円を超えると、様々な税負担が生まれる。

例えば、配偶者が年間103万円以上の収入を得ると配偶者控除(控除額38万円)から外れ、19歳以上23歳未満の学生の場合、特定扶養控除(控除額63万円)から外れる。

ただし配偶者控除については、2018年の税制法の改正により150万円まで上限が引き上げられた。そのため、年収150万円未満であれば以前と同様に控除を受けられるが、103万円を超えた分の所得税の支払い義務は発生する。

このように世帯の税負担が増えるため、限られた時間でしか働けない主婦や学生などは、扶養の範囲内となる年収103万円を超えないように調整する世帯が多くある。

最低賃金引上げが103万の壁に与える影響

最低賃金が引き上げられると、従業員の働く時間が同じでも給料は上がる。つまり扶養内や所得税のかからない範囲で働いている従業員がいる場合、年収103万円を超えてしまう可能性が出てくるため、以前と比べて勤務時間が減ることになる。

しかし労働者にとっては収入が増えるメリットもあるため、103万円を超えてフルタイムで働き、社会保険への加入を選択する従業員も出てくる。

飲食店への影響

飲食店においても、最低賃金の引き上げによる影響は大きい。他の業態と比べてパートやアルバイトの比率が高いこともあり、103万円を超えないよう扶養内で働く従業員は少なくないからだ。では具体的にどのような影響があるのか見ていこう。

人件費の増加

まず直接的な要因として、人件費の増加が挙げられる。最低賃金の引き上げによって103万円を超えてしまうケースでは、労働時間を減らすなどの措置が必要になる。その対策として新たなスタッフを雇うことで、単純に人件費が増えてしまう。

人件費などのコストが増える分、メニュー価格の見直しなどを検討する必要がある。しかし値上げによるリスクを考えると、そうした手段も簡単には判断できない。

人材確保の競争激化

最低賃金が上がることで、より良い条件の職場を求めて人材が流動しやすくなる。例えば、これまでは競合店と比べて時給が高い店舗だったとしても、最低賃金の引き上げにより差が埋まり、給与面での差別化が難しくなってしまう。より魅力的な労働環境があれば、人材が別の企業へ流れていく可能性があるのだ。

優秀な従業員を確保するためには、福利厚生の充実や労働環境の整備など、給与以外のメリットや報酬を用意することも重要だ。

教育・育成コストの増加

従業員1人あたりの勤務時間が少なくなると、新たな労働力を確保する必要がある。そして採用によりスタッフが増えた分、人材教育の面で様々なコストがかさむ。

既存スタッフは普段の業務をこなしながら新人教育なども行わなければならず、結果として店長や社員などの負担が大きくなりかねない。すると指示出しや教育などに手が回らないなどの悪循環が生まれてしまう。

労働時間の厳密な管理

これまでにも2019年の「時間外労働の上限規制」など、労働基準法の改正により従業員の働ける時間に規制が設けられてきた。それに加えて最低賃金の引き上げで、パートやアルバイトの時間管理もますます厳しくなるため、より厳密なシフト調整・管理が求められてくる。

特に最低賃金の引き上げは、引き続き上昇し続ける傾向にあるので、常に注視しておかなければならない。

限られた時間・人数で店舗を回す工夫

最低賃金の引き上げにより、飲食店の人材管理はますます困難なものになってくる。では具体的に限られた時間や人数で店舗を回すには、どのような工夫を凝らせばよいのか、詳しく解説していく。

シフト管理の効率化

限られた人員リソースで店舗を回すには、無駄のない人員配置やシフト調整が重要になる。具体的には忙しい時間帯や曜日には増員し、客数の少ないアイドルタイム時にはできる限り人員を減らすことだ。

過去の売上データや客数などから、曜日や時間帯などで必要な人員を予測できるとシフト計画を立てやすい。例えば、「平日の中ではどの曜日に売上が高くなる傾向にあるのか」「土日で最も忙しいピーク時はどの時間帯なのか」などだ。

キャンペーンを打ち出している時は分かりやすいが、何もない平日などでは客数の増減が分かりにくい。そのため季節や天気、周辺地域のイベント開催日など、客足の要因になるものは記録として残しておきたい。

あらかじめ工数が把握できれば、必要な人員を配置することに集中できる。データ収集などの準備は大変だが、管理ツールなどを導入することでより効率的に管理できるはずだ。

作業フローの見直しとタスクの可視化

従業員の生産性を高め業務の効率化を推し進めることで、少ない人員でも店舗を回しやすくなる。そのためには、無駄な作業の削減や適切な人員配置が求められる。

飲食店では季節によってメニューの変更や、机の配置などといった店内のレイアウトを変えることも多い。定期的に業務フローの見直しやマニュアルの更新などを行い、従業員が何をすればいいのか迷ってしまう要因を減らすことが大切だ。

また誰がどの業務を担当しているか、どの程度の進捗状況なのかが分からないと、的確な指示出しをすることが難しく、作業の抜け漏れといったミスも発生してしまう。

そこで「ホワイトボードやノート、タスク管理ツールなどで業務の進捗状況を1ヶ所に集約する」「タスクのカード化や札の表裏で作業の完了を表示する」など、タスクを可視化することで業務を滞りなく進められる仕組み作りも必要になってくる。

タスクの自動化や最適化

業務の一部を自動化することで、従業員の業務負担を減らし少人数でも作業を滞りなく進めることが可能になる。具体的には、以下のような例が挙げられる。

  • タブレットやタッチパネルなどのデジタルオーダーシステム
  • セルフレジやモバイル決済などの会計システム
  • 配膳ロボットや自動調理器などの機械工程の導入
  • 在庫管理システムによる受発注業務の効率化
  • シフト管理ツールなどでスケジュール調整の最適化

ツールの中には導入する際の費用が高いものもあり、結果的にコストが増加してしまう恐れがある。そのためクラウドサービスや月額制のサービスなど、初期投資の少ないものから取り入れることでリスクを抑えやすい。

店舗オペレーション管理ツールで円滑な業務を実現

これらの方法を取り入れれば、従業員の勤務時間が減った時にも対応しやすい。しかし実施するためには、準備や導入のコストが重く多大な時間や労力を費やしがちだ。

そこで身近な業務改善を行う方法として、店舗オペレーション管理ツールを活用するのも1つの手だ。例えば「V-manage」では、タスクの進捗状況のリアルタイム確認や作業フローの可視化などを実現できる。

これによりスタッフが業務の優先順位に悩まされることがなくなり、誰がどの作業が完了したかを把握しやすいため、指示出しなどもスムーズに行える。またダッシュボードやレポート機能では業務の実施状況が一目瞭然なので、忙しい日時や時間帯といったシフト管理に役立つ情報も得やすい。

労働環境の改善で店舗の少数精鋭化を図る

最低賃金の引き上げにより、飲食店では人手不足対策への重要度がさらに増している。とはいえ、人件費の高騰や人材採用の競争激化といった課題が多いのも現状だ。

そこで人材確保への取り組みだけでなく、ITツールや管理システムの活用で、業務改善や労働環境の整備を推し進めるのも1つの手段と言える。快適な職場環境を構築できれば、従業員の生産性向上や人材の定着などで安定した経営にもつながるはずだ。

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