アクト中食株式会社 平岩社長が語る、食品卸売企業の経営と今後の展望

卸・メーカー2023.04.14

アクト中食株式会社 平岩社長が語る、食品卸売企業の経営と今後の展望

2023.04.14

アクト中食株式会社 平岩社長が語る、食品卸売企業の経営と今後の展望

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広島県で1911年に米の集荷業者として創業し、2021年には創業110周年を迎えたアクト中食株式会社。食品卸売業のみならず、食における新たな価値の創造や日本農業の再興など、幅広い分野で事業を展開している。

「食と情報のディストリビューター」を掲げる平岩 由紀雄 代表取締役社長に、事業を拡大していった経緯と、未来の卸経営の在り方について伺った。

目次

集団づくりは能力のある人を集めること。

【Q】まず、創業からの歴史についてお聞かせください。

アクト中食株式会社
代表取締役社長
平岩 由紀雄 氏

私の曾祖父である平岩 喜左衛門が1911年に米の集荷業者として創業し、祖父の代で1933年に広島市内で米穀店を開業します。会社設立は1954年ですが、創業からは112年が経ちました。米穀店を営むなかで近所に飲食店のお取引先様が増え、お米のほかにもお酒や調味料などのご要望を受け、多様な食材を扱うようになり業務用卸売業として商売が拡大していきました。

私は大学卒業後に広島の地方銀行に勤め、1995年に当社に入社しました。当時、業務用食材を消費者にも販売しようと、今の業務用食品スーパー『プロマート』にあたる業態の1号店を出店しました。現在はフランチャイズも含めて、青森から沖縄まで約60店舗を展開しています。米穀店から始まり、食品卸、そして小売へも拡大していき、当社の基盤となっています。

【Q】新規事業も幅広く展開されていらっしゃいますね。

私は2005年、当時38歳で社長になりましたがその3カ月後に父を亡くしました。まだ若く経験もないですから、怖いもの知らずで様々な事業会社を作り、一時期は子会社が14社もありました。

社長に就任してすぐに、新規事業で業務用食品の小売事業を展開しましたが、バックヤードがなく、冷凍のストッカーも小さかったため、驚くほどの赤字が出ました。これはいかんと、スーパーの経営を20年されてきた方に入社してもらい、立て直しを図りました。

当社に従来からあった業務用の知識にその方の小売の知識が加わったことで、現在のスーパーの展開を一気に加速することができました。その時につくづく思ったことが、イノベーションというのは、組織という漠然としたものから起きるのではなく、ある個人同士のキャリアとキャリアがつながって生まれるということです。

また同じ頃に農業再生をしたいという想いのもと、「アグリカルチャー(農業)」と「リプロデュース(再生させる)」の造語でアグリプロデュース株式会社も設立しました。この会社では、本来、農協が果たす役割をハイレベルな形で実現しようと考え、生産者へのコンサルティングから、生産者とともに栽培した野菜を消費者に届けています。これは22世紀に向けて伸びる事業であり、食品を扱う会社としてはバックボーンにもなると考えています。

さらに農業と物流のこれからを考えると、ITは絶対に必要だということで、アグリプロデュース株式会社を設立した翌年にシステム開発や販売を事業内容とする株式会社ユーアイシステムズを設立しています。物流については、現在の株式会社CLO(旧アクトロジスティクス)を2003年に立ち上げて、強化しています。

【Q】どのような戦略で事業展開をされているのでしょうか。

現在は卸売業、業務スーパー、アグリプロデュース、システム開発、物流業という5つの事業が軸となっています。売上構成比は、コロナ前ですが卸売業120億円、業務スーパー60億円、農業と物流を合わせて200億円といった形です。

現在は落ち着いていますが、業務スーパーの小売については、最初は安さを武器に売上も店舗もどんどん拡大しました。ただ、安売りというのは、結局は力勝負。上には上がおり、体力のある企業のみが残っていきます。弊社スーパーの店舗数も最盛期の84店舗から52店舗まで落ちました。ただ、現在は少しずつ盛り返してきており、安定的に推移しています。

こうした組織のあり方は私の感覚では、昔読んだ中国の古典の『水滸伝(すいこでん)』のイメージなんです。モデルとしては山賊の集まりですが、国中からスペシャリストが集まることでとんでもなく強い組織になり、いずれ国全体の課題を解決していく。

私自身も能力のある人を集めること、どうやって当社に来てもらうかということに注力し、能力のある人に合った会社を作ることで拡大してきたんです。多様性、ダイバーシティという言葉が一般化する以前から実践していたわけです。もちろん、とんでもない失敗もありました。だからこそ今後の経営に悩みはありませんし、面白く事業をやっていけると思っています。

コロナをきっかけに急成長する「急速冷凍機」

【Q】コロナ禍前後で外食産業を巡る環境は厳しさを増しています。

当社ではコロナ前の2019年3月の経営計画発表会で、理想的な世界を全社員に向けて発表していたんです。社員の平均給与を100万円上げると、具体的な方法も示していました。その1年後にコロナ禍を迎えますが、「給与下げます」とは口が裂けても言えません。そのため、銀行が融資してくれる間は給与も賞与も下げない。

もし融資が止まったときには、社員のみなさんに「すみません、協力してください」と言おうと決めました。結果的にダメージは大きかったですが、雇用と給与水準は維持することができました。

【Q】コロナ禍に誕生した小型急速冷凍機について。

小型急速冷凍機
ACT-H-01

コロナ禍前から、メーカーや産地の食材を飲食店の要望に応じて運ぶという卸売業だけでなく、自ら商売を作っていく機能を持ちたいと思っていました。そしてコロナ禍になり、飲食店のお客様からなんとか売上を上げたいという相談をいただいており、食材以外で飲食店を支援できないかと考えました。

当社では、長らく冷凍冷蔵庫の技術開発をしてきましたが、その流れのなかで『小型急速冷凍機(ACT-H-01)』(以下、冷凍機)が誕生しました。なかなかエッジの効いた製品で、通常の20倍の速さで冷凍できて、あまりスペースがない飲食店でも設置することができるサイズです。

飲食店のお客様が冷凍機を導入されることで、当社はお客様に食材を卸すだけではなくビジネスパートナーになれるんです。例えば飲食店がお店の料理を冷凍品として販売する際、「プロマートで販売しましょう」という会話ができます。そうすると飲食店と食品卸という関係性からビジネスパートナーになり、一緒に商いができるようになります。

関連記事:飲食店に役立つ、アクト中食の小型急速冷凍機と食品ロス対策

人手不足の時代により良い人材を確保する方法

【Q】人材不足は食品卸業界でも大きな課題となっています。

以前から今後は採用が大変になると考えて、当社では企業でリクルートを長らく経験してきた60代の方に入ってもらいました。彼らがまず取り組んだのは、ハローワークや企業、学校などに、何かあれば当社をお願いしますと、挨拶回りをすることでした。やはり大切になってくるのは人間関係なんですね。相手と仲良くなり、当社を理解してもらうことでいい人材がいたら、当社を思い出してもらえるようになりました。そうした積み重ねで、人材獲得能力を組織として高めていくことが大事だと思います。

物流の人材については、これまでのように「将来は営業をしたい」という人材に物流部門で仕事をしてもらうようなやり方はもう難しいと思います。それよりも着目したいのは、根っから「ハンドルを握る仕事が好き」という方が一定割合いるということです。そういう人材を採用して、物流をお願いしておきながら、営業の適正のある人には営業もやってもらうような柔軟なスタイルがいいと考えています。

【Q】Z世代を含め、今後の採用についてお聞かせください。

Z世代については、社会貢献をしたいという価値観があります。当社はアグリプロデュース株式会社があることで、農業を起点に社会課題を解決したい人へと間口を広げられます。そこをきっかけとして、研修でそれぞれの事業の中身も見てもらうような方法でやらないと、これまで通りの採用のやり方では難しいと思います。

ただ、当社は特殊な例で、一般的な卸売業でも社会貢献を打ち出せる採用はあると思います。これから日本はさらに高齢化が進みます。そうした時代のなかで、我々がどのように貢献するかというと、高齢者が活躍できる組織を作ることです。高齢者といってももっと働きたい、若い方の面倒まで見るような元気な方も増えてきます。企業がそうした方々の受け皿になり、活躍の場を提供していくべきだと思います。

現在の日本では、一定の年齢になると役職を外されて給料も大幅に下がる。期待されていないとやる気も出ません。そうではなく、これまでの実績や経験を活かしてもらい、やる気と気力を持ってもらえる仕事をお願いするんです。若い方にしても、高齢者が元気に働いている姿を見れば自分たちの未来に希望が持てますし、自分も頑張ろうという気持ちにだってなります。

【Q】人材面で今後、取り組まれることはありますか。

社員の平均給与を上げることです。昭和の時代には、安い給料で社員を働かせて儲かっている企業もありましたが、これからは「うちの社員の平均給与はこんなに高いが、こんなに利益も出ている」ということを自慢できる企業でないと、立ち行かないのではないでしょうか。

ですが、社員の給与を上げる秘策があるわけではありません。地道に生産性を高めるための改善活動をみんなと共有して取り組む。中期的にはIT化を進め、長期的には事業構造そのものを変えていく必要があると考えています。

飲食店が花、卸売業は土壌でありたい

【Q】多彩な社長の発想の源には何があるのでしょうか。

敢えて言葉にするのであれば「お客様のため」です。私が勤めていた銀行で、最初にお客様から声をかけてもらえる銀行という意味で、「ファーストコールバンク」というキャッチフレーズがありました。一般の方が最初に口座を開くとしたら、社会人になったときの給与振込です。最初に口座を開設していただけることでその後の家賃の引き落とし、マイカーローン、住宅ローン、いずれは年金の受取口座と一生のお付き合いに繋がります。

食品卸も同じように、飲食店を経営するためにはどこかの食品卸と付き合いがはじまります。そのときに、最初に電話しようと思ってもらえる卸にならないといけないと考え、私も「ファーストコールベンダー」という言葉を作りました。これを実践するために必要なのは、お客様から「ありがとう」を言ってもらえることです。

食材のことだけでなく、人材がいないでも、それこそ「頭が痛いんだけど薬ある?」といった関係ないことでも、お悩みにとことん応えていく。それを続けることで、「ファーストコールベンダー」になれると思っています。

【Q】最後に社長の考える卸売業の存在価値とは何でしょうか。

時代とともに変わるものだと思いますが、私の感覚では卸売業は「土壌」、飲食店が花で我々は土です。良い土地にはいい作物やきれいな花が咲きます。そのためにより良い提案をし、飲食店のために全国を回って情報や知識をご提供する。飲食店のそばでよろず相談を受けながら、育むことができれば理想的だと思います。

そうなるためにも、卸売業としてはどこまで行っても「ラストワンマイル」を徹底的に極めていくことが何より大切だと考えています。


インフォマートのフード業界DXソリューション

アクト中食株式会社 代表取締役社長 平岩 由紀雄 氏

1995年アクト中食株式会社へ入社、2005年アクト中食株式会社4代目社長に就任。
「三方よし」の経営理念のもと、「ファーストコールベンダー」を目指し、食における新たな価値の創造や日本農業の再興など、幅広い分野で事業展開を図っている。
アクト中食株式会社:https://www.act-cs.co.jp/

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