流通の課題から生まれた青果事業
【Q】貴社が取り組む青果の事業について教えてください。
当社は2011年に創業した農業ベンチャーです。こだわりを持つ全国の農家さんと直接コミュニケーションを取って買い付けた野菜を、自社トラックで飲食店向けに配送しているほか、神楽坂にある八百屋で年間700種類、常時250種類の野菜・加工品を消費者向けに販売しています。2017年には、東京の多摩地域に無農薬野菜の自社農場もオープンさせました。
自分たちで作った野菜を、自分たちで神楽坂の八百屋まで運び、売る。生産から流通、販売までを垂直統合で担う理由は、そうしなければ日本の農業が根本的によくならないと考えたからです。
たとえば自社農場ではサラダハーブなどの葉物を栽培していますが、品種の選定から栽培管理、収穫管理、輸送管理までを一貫して手掛けているので、他とは差別化した美味しい商品が届けられます。
また、味での差別化に加えて、自社農場から通年出荷できる体制を整えています。そうすることで、品切れで他社に切り替えられることなく要望があればすぐに届けられるというメリットもあるのです。
当社の作る野菜は相場に左右されないので、取引先からは「価格が安定している、むしろ安い」と好評ですし、少々高い商品でも、農産物の情報をプラスアルファして卸先の飲食店が付加価値を付けて販売できるよう、お手伝いすることも可能です。モノとコトの価値に納得感があれば、消費者は対価をお支払いくださいます。
付加価値がつけば価格に反映されて利益が出やすくなりますし、自社で流通も手がければさらに効率的です。自分たちで美味い野菜を作って運んで届けるところまでを一貫して行い、本当に良いものを供給し続けたいのです。(代表取締役 伊東 悠介氏 以下、伊東社長)
こだわり農産物の情報戦で売上140%アップ
【Q】コロナ禍で取引は減っているのではないでしょうか?
コロナ禍でも、売上は前年と比べて140%増えました。自社の八百屋「神楽坂野菜計画」や個人向けECに加え、飲食店さんの紹介で販路が増えたことが大きいですね。高級野菜を扱っているわけではないので、取引をする飲食店の客単価は2,000円から8,000円と幅広いです。
また、私たちは産直品を取り扱っているので、飲食店のニーズを読んで先に野菜を仕入れておかないと、急な注文に対応できません。機会損失を防ぐためにも、日頃から取引先の飲食店とコミュニケーションを取っています。
農家さんから仕入れた栽培方法などのこだわり情報は、飲食店へ積極的に提供しています。そのうえで「翌日、翌月、翌シーズンのメニューを一緒に考えましょう」と、メニュー写真やPOPなどとセットでご提案すれば、取引先からは重宝されます。飲食店の方々も、野菜のストーリーで付加価値を上乗せできる。これは産直の卸でないとできません。我々のお客さん(卸先)のお客さん(最終消費者)の事を考えて提案する、取引先を巻き込んで情報とライブ感を最終消費者まで伝えていく、これが当社のカラーです。(伊東社長)
飲食店の皆さんに、自社農場まで来ていただくこともしばしばです。都心から1時間ほどで行けますから、「ぜひ来てください」とお声がけするのです。一緒に汗をかいて作業をしていただくなかで農業ってこういうものなんだと実感してもらえますし、店舗のスタッフの方もお客様に「この野菜は自分たちで採ってきたんですよ」と説得力のあるアピールができますから。
ともに農作業をした飲食店の皆さんが、Instagramに農場の写真を載せてくれることも多いですね。食を作るところから、アルバイトの若い子に触れてもらうのは、何のマイナスもありません。消費者にとっても大きな価値になると思っています。(事業開発部長 河合 洋輔氏 以下、河合部長)
都産都消で食のライブ感をお届けする
【Q】都産都消という理念を掲げていらっしゃいます。
自社農場を都内で営んでいるのも、流通の面で課題があったからです。安価なものを、高い送料をかけて運んでもなかなか利益が出ないですし、足が早いので流通の都合で鮮度も変わります。
ここ最近、食料が消費者のもとに届くまでにどれくらいの距離を運ばれてきたのか示す「フードマイレージ」に注目が集まっていますが、都産都消は合理的で、理にかなった取り組みだと思います。都内で生産した野菜といえば消費者にイメージさせやすいでしょう。
食のライブ感をお客様にアピールする材料になりますし、農家さんや農業におけるものづくりのストーリーを消費者に伝えたいという、私たちの取り組みとも上手くマッチする理念ですね。(伊東社長)
農業の課題は、情報が分断されていること
【Q】日本の農業が抱える流通上の課題は、何だとお考えですか?
情報が分断されていることだと思います。農家さんがさまざまな工夫をこらして作った野菜が、それぞれのこだわりに関係なく一箱に集められ、まとめて売られてしまう。これでは生産者の情報が消費者に届くことはありません。一方で、消費者が「こういう野菜が欲しい」というニーズもまた生産者に届いていないのが現状です。
本来のものづくりでは、マーケットリサーチをして商品を試作し、テストマーケティングを行いようやく市場に送り出します。農業ではそれができず、消費者のニーズが生産現場に還元されていません。大きな問題です。だからこそ新たなビジネスチャンスともいえますし、チャレンジのしがいもあるでしょう。(伊東社長)