「量の多さでお得感を出すよりも、少量でも品質の良さをアピールできるものを考えました。従来も少量パックの珍味がなかったわけではありません。でも中には、パッケージにキレイなイメージ写真がプリントされているのに、中身はイメージとかけ離れていたり、ちょっぴりしか入ってなかったりと、がっかりするようなものも少なくなかったのです。こんなやり方だから珍味ってなんとなくバカにされるんちゃうか、という思いもありました」
信念に基づいて、商品は透明フィルムのパッケージに詰めた。目指したのはありふれたものではない、オリジナリティのある珍味だ。
「ドライ珍味の王道はさきいかやナッツ類です。それらが、どストレートだとすれば、我々は全部変化球でいこうと考えました。ボール球でもうちしか作っていなければ、面白がって手にとってくれるようなニーズがあるだろうと。やはりマニアックなものを作るのが酒の肴の醍醐味です。“珍しい味”で珍味ですから」
たとえば、発売以来不動の一番人気を保ち続けている『揚げ塩ぎんなん』は、2度揚げの製法で従来にない軽い食感が特徴だ。『瀬戸内の天竺鯛』は、通常、贈答向けのミックスあられなどに高級感の演出として1匹入れるテンジクダイ(別名:イシモチ)だけを、贅沢に詰めた。
また、食堂のしょうが焼き定食の味を追求した『豚しょうが焼風ジャーキー』など、他にない商品を次々と打ち出していった。
キヨスクでも立ち飲み屋でも。広がる販路
伍魚福は酒販店への直販といった既存の販路があったが、『一杯の珍極』シリーズの売場はそれだけにとどまらなかった。
「売り込んだというより、直接“うちにも置きたい”とお声がけいただいて広がっていきました。ドライの珍味はこれまで酒屋さんがメインでしたが、スーパーやドラッグストア、変わったところではアパレルメーカーのセレクトショップなどで、“よそで見かけて面白そうだったから”と扱っていただいています」
それまでほぼ関西圏に限られていた販売エリアが大きく広がったきっかけは、JRのキヨスクでの販売だった。新大阪~東京間の駅売店や新幹線の車内販売などにも採用されたことで、認知度が高まった。
「出張や旅行の列車の中などでつまむのにちょうど良いサイズと、1袋225円~299円という手にとりやすい価格が受けました。品揃えが種類豊富なことで、1度に2つ、3つと複数購入していただいています。大手おつまみメーカーの低価格路線の定番珍味とも棲み分けができていて、競合しません」
スーパーやデパート、オンラインなどでも、詰め合わせがギフト用途で人気だ。女性から男性への、ちょっとした手土産や父の日のプレゼントとして使われている。
また、外食でもニーズがある。多くは小規模な店や、個人経営店だ。