食文化の輸出とかっこいい事を言う前に、もっと日本人がカジュアルでリーズナブルに揚げたての天ぷらを楽しめるスタイルを作らなければと考えたのが、大きな理由です。そこで、客単価を3,500円程度に抑えつつも素材のよさに満足いただけるお店として、喜久やをオープンしました。
人員を増やして、高回転を生み出す
【Q】揚げたての天ぷらをリーズナブルに提供できる理由はなんですか?
10坪程度のスタンディングスタイルなので、回転率の良さが強みですが、さらに強みを最大限に生かす工夫をしています。まず、特殊なフライヤーを導入し、調理を職人に依存していません。長年の修行を積んだ料理人の感覚頼みで天ぷらを揚げていては、ビジネスとはいえないからです。多店舗展開するためには、ある程度トレーニングをつめば誰でも美味しく揚げられる仕組みが必要です。
また、小麦粉などの食材はPBをつくってコストを抑えています。多店舗展開を見据え、オペレーションも重視しています。
開店当初は注文が立て込んでくると最初のオーダーから天ぷらの提供まで30分近くかかっていました。ですが、揚げ場の人員を2人体制に変更し、ひとりをアシスタントとして配置し、注文が入ると冷蔵庫から具材を出し、揚げ担当者に渡すようにしました。いわば、手術の時の執刀医にメスを渡す「器械出し」のように準備をし、揚げ担当を“揚げ”に集中させたのです。人員配置を見直すことで、今はどんなに忙しくても3分程度で提供できています。
手書きで受けていたオーダーも、ハンディタブレットで注文と同時に調理場とドリンクに注文内容が届く仕組みに変えました。オーダーを通す時間が短縮され、さらにPOSレジと連動しているのでお客様がお帰りの際に注文内容をレジに打ち込む必要もないため、いわゆるレジ渋滞を起こしません。行列ができていても少し待てば入れると伝われば、お客様は並んでくださいます。POSレジのシステム構築とオペレーションの改善をした途端、回転数がアップして売上は倍増しました。
人件費を気にしてワンオペなんてしたら成り立ちません。「喜久や」の強みを最大限生かすには、待たせないことです。さくっと入ってさくっと帰れる動きの良さで、人のトラフィックが多いところに出店すれば、絶対負けない自負があります。
【Q】2015年の1店舗目以来、麻布十番やミッドタウン日比谷など、トレンドの発信地に出店されていますね。
さきほど申し上げたようにターゲット層を明確にしているので、見合った立地を選んでいます。その際も、漠然とこのエリアならどこでもというわけではありません。たとえば恵比寿も東口と西口ではまったく違います。恵比寿店がある東口は、ガーデンプレイスから流れてくる動線があり、クリエイターや外資系といった暮らしに質の良さを求める人が多いエリアです。
西口はビジターが多く、「とりあえずみんなで安く飲める店」が求められます。すると「喜久や」は高い店となり、ニーズにあいません。他の出店地も、量より質を好む層の生活動線を狙っていて、いきあたりばったりは一切やっていません。