「昔から、飲食業は“どんぶり勘定”が横行してきました。しかし、ささいなズレでも、日々蓄積されていけば月単位で大きな負担になります。月末になって“何かおかしい”“どこかに問題がある”と気づいても、もう遅いのです」
こうした問題を乗り越えるために、大林氏が実践しているのが、“毎日、リアルタイムで原価率を管理する”ことである。
「弊社では毎日、社員に売上げと原価や人件費などの経費を出させています。そうすれば原価率にブレが生じても、すぐに対策を打つことができます。仮に目標原価率が30%だとして、1ヶ月の売上が100万円なら、仕入れの予算は30万円です。単純に計算すると毎日1万円が目安になりますが、例えば10日の時点ですでに15万円になっている…とわかれば、すぐに軌道修正することができます。問題がある店舗というのは、数字のチェックができていない、問題そのものに気づいていないのです」
ただ、リアルタイムでの原価管理は、言うほど簡単ではない。現場のマンパワーにも限界がある。そこで大林氏が勧めるのが、発注のシステム化である。
過去の仕入れ実績との比較も容易に
同社では発注はすべてインフォマートの『BtoBプラットフォーム受発注』を利用しており、「いつ」「どの食材を」「どれくらいの量」「どの業者に」「いくらで」発注したか、がすべてデータとして蓄積されている。
大林氏が現場で電話やファクスを使って発注していたときは、原価を計算するために、紙の納品伝票を1枚1枚、内容を確かめながらノートに書き写す、という作業を行っていたそうだ。
「人間なので、手でやっていると必ず計算ミスは起きます。それにそうした非効率な作業ほど、システムに任せたほうがいいんです。その分のマンパワーを、接客や調理、集客といった現場本来の業務に集中できます」
もちろん蓄積した購買データを活用して、リアルタイムで仕入れの管理や分析を行うこともできる。
「前月比、前年比といった過去の仕入れ実績との比較も簡単に行えます。僕は、“何かおかしい”と思ったら、まずは前月と比較していますね。追っていくと、前月よりも肉の発注量だけが突出して多い、というようなことに気づいたりして。ロスが出ているのかな、盗まれてるのかな、と原因を突き止めることができます」
仮に誤発注や不正があったとしても、伝票がデータ化(電子化)されているため、その発注がいつ、どの店舗の、誰によって行われたか、探し出すことも容易だ。
「紙の場合は、それを調べるために、1ヵ月分の伝票をひっくり返して、全部チェックし直さないといけません。これもあまりにも非効率です。そもそも伝票を紛失してしまっていたら、チェックのしようもないですしね」
忙しい現場では、悪気がなくても「伝票をポケットに入れたまま紛失してしまった」「気づかずに捨ててしまった」といったうっかりミスは日常茶飯事だ。データならそうした紛失の心配もなくなる。
現場にもコスト意識と経営感覚が…。スタッフの育成にも力を発揮
では、日々の仕入を厳しく管理されることで、現場のスタッフが心理的な抵抗を感じることはないだろうか。経営者としては、気にかかる点である。