飲食未経験ゆえに料理は諦めた。その分、肉質と知識で勝負
六花界の特徴のひとつに、お客同士の物理的、心理的な距離感の近さがある。店が混んでくると、注文した商品はお客の手から手へと渡り運ばれてくる。さらに、肉を焼く七輪は2台しかない。つまり七輪をお客同士でシェアして使うのだ。
「店が狭いので、お客様に手伝ってもらわないと出来ないですからね。それに、六花界のテーマは“肉と出会い”。僕が東京で人との繋がりもなかったので、いろいろな人と出会いたかった。お客様にお手伝いしてもらったり、七輪を一緒に使っていただいたりすることで、お客様同士の会話も自然と生まれるんですよ」
こうした雰囲気に誘われ、新たなお客が集まってくるのだ。そこからリピーターを作るために必要なものは、やはり肉だったという。
「僕は料理経験がないので、料理は諦めました。それに、狭すぎて厨房もありませんでしたし(笑)。でも肉は調理の必要がありません。その代わりとにかく良い肉を使い、その肉に対する知識には絶対の自信を持ちたいと思いました。
お客様には、どこそこの牛のどういう部位で、月齢は何ヶ月でランクはこのランクで、という風に肉を説明します。そうすると『まるでソムリエみたいですね』と面白がってくれるんです。
そして料金設定については安さも大切ですが、何より計算を楽にしたいと考えていました。肉はひと皿500円、ドリンクは1杯400円。レジを置くスペースもなかったがゆえに生まれた価格設定です」
良い肉となれば当然仕入れ値も上がる。それをひと皿500円で提供するためには、どうしたらいいか。森田氏は思い切った策に打って出た。
「肉というのは通常、牧場から出荷されて屠場に送られ、そこから仲卸し、小売を経て買うのですが、それを見直しました。牧場から直接仕入れるようにしたのです」
提携牧場については、これだ!と思う牧場へ飛び込みでお願いに行き、直接仕入れさせてくれるように頼みこんだ。
プライドを捨てたからこそできた、“初日からの常連客”
「最初はとにかく必死でした。この狭さは、誰もお客様が居なければ入りづらい。先客が3人くらい居れば、次の人も入ってみようかなとなります。だから、最初のお客様には1秒でも長く居て欲しかった。それで思わず『どうやったら繁盛しますか?』と目の前のお客様に問いかけてしまいました」