割増賃金率、中小企業も月60時間超の時間外労働で50%に引き上げ

法令対策2023.02.15更新:2023.06.05

割増賃金率、中小企業も月60時間超の時間外労働で50%に引き上げ

2023.02.15更新:2023.06.05

割増賃金率、中小企業も月60時間超の時間外労働で50%に引き上げ

  • bnr_menu-plus_300(汎用)
  • bnr_v-manage_300.png 汎用

2023年4月から、中小企業を含むすべての企業において、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%となった。対応しないと法的に罰せられる可能性もあるため、各社は長時間の時間外労働を減らすために業務効率化などの試みが必要となる。

今回は、割増賃金とは何かの説明と、厚生労働省の資料をもとに施行前後の変更点や事業者の注意点を解説する。

目次

割増賃金とは?

割増賃金とは、時間外労働の際に、通常の賃金に追加で支払いが必要になる賃金のことだ。割増賃金には3種類あり、以下の表にまとめた。

種類支払う条件割増率
時間外
(時間外手当・残業手当)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき25%以上
時間外労働が限度時間(1カ月45時間、1年360時間等)を超えたとき25%以上
(※1)
時間外労働が1カ月60時間を超えたとき(※2)50%以上
(※2)
休日
(休日手当)
法定休日(週1日)に勤務させたとき35%以上
深夜
(深夜手当)
22時から5時までの間に勤務させたとき25%以上

(※1)25%を超える率とするよう努めることが必要です。
(※2)中小企業については、2023年4月1日から適用となりました。
参照:厚生労働省「しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編

それでは、変更になった部分を細かく見ていこう。

2023年4月より月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げ

中小企業の月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は、これまで25%と定められていた。しかし、2023年4月以降は大企業の水準と同様に50%へ引き上げとなり、中小企業のコスト負担は増加することが見込まれる。時間外労働の割増賃金率引き上げの概要と、変更前と変更後の比較、施行後の注意点と対応方法について見て行こう。

引き上げの概要、変更前と変更後を表で比較

まずは時間外労働の割増賃金率引き上げについて、変更前後の割増賃金率を表で比較してみよう。

【1カ月の時間外労働の割増賃金率】

 2023年3月31日まで2023年4月1日以降
60時間以下60時間超60時間以下60時間超
大企業25%50%25%50%
中小企業25%25%25%50%

※時間外労働:1日8時間・1週40 時間を超える労働時間

具体的に変更になるのは、「中小企業において、時間外労働が1か月60時間を超えた部分」である。60時間以下の残業について発生する割増賃金率は、大企業・中小企業ともに25%から変更はない。自社が割増賃金率引き上げの対象になるかを十分に把握し、対象になる場合は時間外労働の削減や助成金の活用などを検討する必要がある。

なお、中小企業に該当するかどうかの判断は、次の表を参考にしてほしい。

業種①資本金の額または出資の総額②常時使用する労働者数
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
上記以外のその他の業種3億円以下300人以下


 上記の表のうち、①または②のどちらか一方を満たす場合に「中小企業」と判断される。業種によって判断基準が異なるため、自社の業種に照らし合わせて確認しておくことが重要だ。

2023年4月の引き上げ後の注意点と対応方法

割増賃金率の引き上げが施行された後の注意点としては、主に次の3点が挙げられる。

・深夜労働と休日労働の取扱いの確認
・割増賃金の代わりに代替休暇を付与することも可能
・必要に応じて就業規則を変更する

それでは順番に対応方法も合わせて見ていこう。

深夜労働と休日労働の取扱いの確認

前述のように、2023年4月以降は月60時間を超えた残業について、中小企業においても50%の割増賃金率が適用される。この50%という数値はあくまでも「残業時間」にかかるものであり、深夜労働に加算される深夜割増賃金率とは異なるという点に注意したい。

22:00~翌5:00の「深夜」に従業員が業務に当たる場合、60時間を超える残業時間に加算される50%の割増賃金率に加えて深夜割増賃金率25%がさらに加算されるため、基準となる賃金に75%を上乗せして支払う必要がある。

なお、月60時間の時間外労働時間の算定には、法定休日に行った労働は含まれない。ただし、法定休日以外の休日は算定対象となる点も押さえておきたい。

割増賃金の代わりに代替休暇を付与することも可能

法定時間外労働が月60時間を超過した場合、従業員の健康確保の観点から、割増賃金の支払いの代わりに代替休暇を付与することもできる。

休暇に代替できるのは割増賃金率が30%を超える部分に相当する労働時間だが、代替休暇を付与するには労使協定を結ばなくてはいけないため、会社によっては事前に組合と協議する場を設ける必要もある。

労使協定では、下記の4つの項目を定める必要がある。
1.代替休暇の時間数の具体的な算定方法
2.代替休暇の単位
3.代替休暇を与えることができる期間
4.代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

取り決めによっては、割増賃金率が25~30%の部分も代替休暇の対象とすることもできるため、自社の状況に合わせて適切に整備することが重要となる。

必要に応じて就業規則を変更する

割増賃金率の引き上げに合わせて、就業規則を適切な内容に変更する必要も出てくる。これまで60時間を超える時間外労働の割増賃金率について「25%」と表記していた部分を、「50%」に書き換えなければならない。

また、代替休暇を制度に組み込む場合は、代替休暇を付与する条件についても記載が必要となるため、注意が必要だ。

2023年4月以降の割増賃金引上げに対応するには?

今回の割増賃金率引き上げに関して、多くの中小企業は人件費の負担を強いられることだろう。この負担を少しでも軽減するために、2つの対応方法を紹介する。
・助成金を活用する
・DX化で業務改善をする

助成金を活用して働き方改革の推進を

「業務改善助成金」とは、生産性を高めるための設備投資を実施し、事業場内の最低賃金を一定額引き上げたときに、設備投資に要した費用の一部が助成される制度だ。30円コースから90円コースまでの4つのコースが用意されており、賃金の引き上げ額が高く、引き上げ人数が多いほど助成金も高くなる。

参照:厚生労働省 「業務改善助成金のご案内

助成率は事業場内最低賃金によって異なるが、75~90%の高い水準に設定されているため、業務改善に関する設備投資を検討しているのであれば、積極的に利用したい制度のひとつといえる。助成金をうまく活用しながら生産性を向上させ、労働時間の縮減や年次有給休暇の促進に向けた環境整備に取り組もう。

DX化で業務改善をする

業務改善の一環として、DX化を検討するのも効果的だ。

例えば、電話やFAXで受け付け時間が多くかかっているアナログ業務を機械による処理に変えたり、エクセル管理しているデータをシステム上で自動集計・保管したりするなど、積極的にDX化を進め業務効率化を図るのも良いだろう。

割増賃金率改定を機に業務の見直しを

中小企業への割増賃金率の引き上げは2023年4月から施行された。人件費が多い業種・企業において、法定割増賃金率の引き上げに伴う人件費の上昇は、経営を左右する可能性のある大きな問題のため、正しく理解し対応しよう。

外食・食品卸の受発注を楽にする BtoBプラットフォーム受発注

注目のキーワード

すべてのキーワード

業界

トピックス

地域