実は、チョコレートやビスケットといった菓子類は10年以上前から年月表示で運用されている。だが菓子類を除く加工食品では、年月日で表示していた。
「弊社の『プレミアム熟カレー』に代表されるようなカレールー、『LEE』のようなレトルトカレーなどの加工食品についても年月表示を進める動きが本格化し、社内でプロジェクトが発足したのは2014年9月です。翌月には、どの商品を年月表示に切り替えるか決定し、翌々月の11月には取引先へ切り替えの案内を行いました。その後、2016年1月にはすべての加工食品で年月表示への切り替えが完了しています」
比較的スピーディに切り替えが完了したような印象だが、実際にはこれまで述べてきたような製造や流通の様々な面での課題を感じたという。
「まず、年月表示に切り替えると最大30日短くなってしまう賞味期限について、品質検査を実施し再設定を行い、延長しました。製造面では、商品規格書をすべて変更しました。そして、賞味期限をパッケージに印字するプリンタや印字状態を検査する機器も、すべて設定を変更しました」
取引先の卸・小売業者への通知はどうだったのだろう。
「様々な要望や課題があるのではないかと心配しましたが、それはまったくありませんでした。近年、各社から年月表示切り替えのリリースが相次いでいるように、業界全体の流れとなりつつあるので、理解していただけたのだと思います。
ただ、卸・小売に関係する部分では、JANコード(商品を識別するバーコード)が課題になりました。弊社ではJANコードを変更せず、年月日表示の商品から年月表示の商品へ自然に切り替えることにしました。なぜなら、新しいJANコードにすると、今ある商品の納品をやめて、全国の全取引先に一斉に新規商品を納品することになり、食品ロスが発生するためです。
しかし、製造や倉庫などの現場からは異なる表示のものが同じJANコードだと管理が難しいのでJANコードを替えて欲しいという声があがりました。
ここは、各社が今後課題となる部分かもしれません。ただ、食品ロスを削減するという原点を考えれば、全商品を引き上げる必要があるJANコードの変更ではなく、同じコードで自然に商品が切り替わっていく方法で進めるべきだと思います」
課題となる部分は多いが、それでも年月表示の切り替えは長期的な視点ではメリットが大きいと田中さんは言う。
「年月日表示だと需要の上ブレに備え、毎日多めに生産する必要がありましたが、年月表示ならば、1カ月の間で在庫を調整できるため、その必要がなくなります。メーカーや卸の倉庫では、年月日表示では管理も煩雑ですし、扱うデータも多く、神経をつかっていたでしょう。
さらに小売の現場では、毎日決まった時間に行われている鮮度確認の作業頻度が、毎日から月に1回へ減り、大幅に簡略化します」
賞味期限の年月表示化には、製・配・販それぞれにメリットがあることがわかった。大手メーカー、大手小売での導入が進めば、業界全体に広がっていく可能性は高い。ある程度の設備投資や運用方法の検討は必要だが、将来的な変更に向け、今から検討をはじめてみてもよいだろう。