法令対策2014.04.25

食品の機能性評価モデル事業 ~ 健康機能の強調表示を考える

2014.04.25

井上 慎也

井上 慎也

 2012年4月25日に消費者庁から「食品の機能性評価モデル事業」の結果が発表されました。これは、2月のコラム「食品表示制度一元化に問われる、食品表示のあり方(2)~ 検討されている事項について」で触れた「健康食品の表示に関する検討会」で挙げられた課題を踏まえ、「新たな成分に係る保健の機能の表示を認める」可能性を考えるために発足した事業です。今後の食品表示に関わる重要な事項と考えられますので、「食品表示制度一元化検討会」のレポートはお休みして、今回はこちらの事業について紹介したいと思います。

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 2012年4月25日に消費者庁から「食品の機能性評価モデル事業」の結果が発表されました。これは、2月のコラム「食品表示制度一元化に問われる、食品表示のあり方(2)~ 検討されている事項について」で触れた「健康食品の表示に関する検討会」で挙げられた課題を踏まえ、「新たな成分に係る保健の機能の表示を認める」可能性を考えるために発足した事業です。今後の食品表示に関わる重要な事項と考えられますので、「食品表示制度一元化検討会」のレポートはお休みして、今回はこちらの事業について紹介したいと思います。

目次

機能性表示に関する国内の現状と海外動向

 2月のコラムでは、特定保健用食品のように認可を受けることによって、特定の効能・効果を記載することができる場合を除いては、原則として食品に医薬品と誤認するような表示(効能効果・用法用量)をしてはいけないこと、またその判断基準が曖昧なため、メーカー・行政間でキャッチコピーと規制のイタチごっこをしている現状をお伝えしました。

 では、海外ではどのようになっているかというと、例えばアメリカでは1990年代に食品やサプリメントに関する法律が成立したことをきっかけに、科学的に検証され、FDA(食品医薬品局)が認めた有効成分に対して機能性の強調表示(ヘルスクレーム)が導入されるようになりました。次いで2009年にはヘルスクレームの科学的評価・審査の業界向けガイダンスが出されています。また、EUにおいては1996年から行われたプロジェクトにより、食品のヘルスクレームの科学的根拠に関する評価法がまとめられています。諸外国では科学根拠の明確さに応じて、一定の強調表示が認められている、またはその検討がなされているのです。

 このような国内の現状や海外の動向を受け、日本でも(食品個別に認証を受けた特定保健用食品以外に)「有効成分に対して一定の機能性表示を認める新たな制度設計の可能性」を検討するために執り行われているのが、「食品の機能性評価モデル事業」です。機能性表示の明確な基準を設けることで、健康食品の表示・広告規制が効果的に行われ、消費者は科学的根拠が確認された成分を含む食品を識別しやすくなる、という観点で進められています。

11成分の機能性評価も実施

 この事業では、公益財団法人日本健康・栄養食品協会に委託を行い、諸外国における強調表示や、食品成分の機能性評価に係る評価基準等の調査・検討を行っています。そして、調査した諸外国等の制度を参考にしながら、評価の作業手順や基準、機能性表示モデルの基本型、品質管理基準等の策定のための検討を実施しています。

 

【調査・検討が行われた事項】
1. 諸外国等における健康強調表示制度の実態調査
2. 食品成分の機能性評価に係る評価基準等の検討
3. 食品成分の機能性評価に係る課題等の整理

 

【諸外国等における健康強調表示制度の実態調査 対象国】

・米国・オーストラリア・欧州(EU)・ニュージーランド・中国・カナダ・韓国

 

 さらに、米国FDAや欧州EFSAなど諸外国で一定の評価があり、かつ現在の健康食品市場における売り上げ規模の大きい11成分について、実際に機能性の評価も実施しています。機能性評価モデル事業では、「プロジェクト統括委員会」による事業全体の統括の下、実際に海外に赴き海外の表示制度の実態調査を行う「制度調査専門チーム」と、その調査・検討結果から得られた機能性評価モデルを下に、実際に調査対象の11成分の機能性の評価を行う「機能性評価専門チーム」で編成されています。

 

【調査対象の11成分】
・セレン
・n-3系脂肪酸(DHA、EPA等)
・ルテイン
・コエンザイムQ10
・ヒアルロン酸
・ブルーベリー(ビルベリー)エキス
・グルコサミン
・分岐鎖アミノ酸(BCAA)
・イチョウ葉エキス
・ノコギリヤシ
・ラクトフェリン

 

【評価方法の概要】
 主にヒトを対象とした科学的根拠資料を収集し、成分の機能、研究デザイン、論文の書誌事項、研究内容情報及び研究の質…など、そのデータの信頼性を評価した後、6段階の「総合評価」を作成します。「総合評価」では、評価をより的確にするために、研究の質、肯定的な研究報告の数・割合から「一貫性」が有るか否かを判断し、「作用機序(*1)が明確に説明できる」ことも考慮するとしています。

(*1)作用機序……成分が身体の中でどのように働き、効果を発揮しているかのメカニズム

 

科学的根拠レベル
総合評価
A機能性について明確で十分な根拠がある(Convincing)
B機能性について肯定的な根拠がある(Probable)
C機能性について示唆的な根拠がある(Possible)
D機能性について示唆的な根拠が少数ながら存在するが不十分
Eヒトでの効果確認例がなく、根拠レベル評価不能
F機能性について否定的な根拠がある あるいは、根拠情報とみなせるものが殆ど無い
資料出典:消費者庁「「食品の機能性評価モデル事業」の結果報告」


 11成分の機能として検証した30機能からは、「総合評価」ではE・F評価といった低評価は見られず、約8割がC以上の評価を得ています。これをもって「有効性が証明された」と受け取ることは出来ませんが、消費者の商品選択の情報として、活用されることが望まれます。

今後の表示制度への影響と課題

 現在はモデル事業といった検討・実験段階にとどまっていますが、この評価モデルをもとに表示制度が整備されていくことが期待できます。一方では、消費者庁では今回11成分で行われたような機能性評価については今後行わないことを発表しており、今後出てくるであろう新たな成分に対するアプローチがなされていないことが気になります。仮に表示制度への反映がなされた場合、他の成分についても評価が求められるのは当然ですので、今回の11成分だけにとどまらない継続可能な制度づくりが求められます。

 今回の評価結果をもとに表示制度へ反映させた場合、有効性が認められた成分に関しては、一定量含まれていれば、特定の機能についてパッケージや広告に記載できるようになり、商品開発の選択肢が広がることが期待できます。反面、機能性の評価を受けていない、または評価の結果、機能性が認められない成分については、今よりも表示違反の判断が厳しくなることが予想されます。判断が厳しくなること自体は不当表示や健康被害を防ぐためにも必要な措置だとは思いますが、何気ないキャッチコピーまでもが表示違反となってしまう状況だけは避けてもらいたいと思います。そのためには評価モデルの検討が完了した今、次にすべきは表示制度への反映だけではなく、表示規制のガイドラインづくりもする必要があるかもしれません。

 次回からは、再び食品表示一元化検討会の話題に戻り、これまでに議論されてきた内容に触れていきたいと思います。

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