法令対策2014.04.25

食品表示制度一元化に問われる、食品表示のあり方(2)~ 検討されている事項について

2014.04.25

井上 慎也

井上 慎也

 前回のコラムでは、現行の食品表示制度では質・量ともに消費者のニーズには応え切れていない現状と、現在、消費者庁主導のもと、「食品表示一元化検討会(以下、一元化検討会)」が行われていることをお伝えしました。今回は、実際に一元化検討会では、現行の食品表示制度のどこに焦点を当て、検討されているかについてご紹介したいと思います。

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 前回のコラムでは、現行の食品表示制度では質・量ともに消費者のニーズには応え切れていない現状と、現在、消費者庁主導のもと、「食品表示一元化検討会(以下、一元化検討会)」が行われていることをお伝えしました。今回は、実際に一元化検討会では、現行の食品表示制度のどこに焦点を当て、検討されているかについてご紹介したいと思います。

目次

食品表示の検討課題とは

 一元化検討会とは、制度の一元化や消費者にとってわかりやすい表示方法といった食品表示の「根幹」を見直し、改善を行うことを検討する取り組みともいえます。しかし、前回お伝えしたとおり、現行の食品表示は、問題の発生や技術の発展に伴って制度を増やし続けた結果、「枝葉」の部分が複雑に増えすぎてしまい、幹そのものが見えなくなってしまった状態にあります。これを打開するため、消費者庁ではこれまでも「枝葉」の部分の改善検討を行なってきましたが、今回の一元化検討会ではより一歩踏み込んだ形でアプローチを行なっています。

 では現時点で検討に挙がっている「枝葉」とは何か?以降にご紹介させていただきます。

1. 栄養表示の義務化

 栄養表示については、現行では健康増進法に関連する表示規則である「栄養表示基準」が主たる制度となっており、栄養表示を行う必要が生じるのは、大雑把に分けると下記に該当する場合となります。

・日本語で栄養表示をしようとする場合
・「ビタミンC配合」「Caたっぷり」など特定の栄養素の補給ができることを訴求した場合
・「ローカロリー」「ノンシュガー」など特定の栄養素が適切に摂取できることを訴求した場合
・「鉄分2倍」「カロリー25%カット」など従来品と栄養素の配合量を比較する場合
・保健機能食品(特定保健用食品・栄養機能食品)として販売する場合

 上記からわかるように、現在は栄養素についてキャッチコピーを書いたり、特定保健用食品や栄養機能食品である場合を除けば、表示は任意となっています。しかし、トランス脂肪酸を含めた栄養表示について諸外国では表示が義務化されている現状を受け、日本でも2010年に開催された「栄養成分表示検討会」で、義務化に向けた指針までは報告されています。今回の一元化検討会は、ここで決められた指針を具体化する位置づけになるものと思われます。

 食品の栄養表示が義務化された場合、文部科学省から発表されている「五訂増補日本食品標準成分表」のような基準をもとに栄養価の数値を計算することも可能ですが、基本的には分析が必要となり、企業側の負担が増えることが懸念されます。ただ、買う側としてはナトリウムやトランス脂肪酸のように健康リスクが疑われている成分の情報はぜひ欲しいはずです。特に健康志向の食品については、栄養表示のない食品は購入をためらってしまうのではないでしょうか。このことから、栄養・健康志向食品、嗜好性食品など販売する食品の指向を考慮して、必要に応じた表示制度の設定ができれば良いと思っています。

2. 健康食品の表示

 現在、健康食品については医薬としての認可を受けた医薬品と混同されることがないよう、厚生労働省の通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて(PDF)」で以下のような基準を設け、販売と表示の規制を行なっています。

① 医薬品に使われるような成分が含まれていないか。
② 医薬品のような形状をしていないか。
③ 医薬品と誤認するような表示(効能効果・用法用量)がされていないか。

しかし、③の表示については判断基準が曖昧なため、企業、行政ともに対処に苦しんでいるのが現状です。下記は不適表示の事例を一部抜粋したものです。

健康食品における不適表示事例
(1) 副作用のない安全な抗うつ薬として注目を集めています。
(2) 体の中からはね返す力を与えてくれるものとして注目されています。
(3) いつまでもきれいなお肌でいたいから
(4) 目を使う方に! 目の栄養
(5) お肌やおなかの調子はどうですか

いかがでしょうか。(1)(2)あたりまでは、確かに表現として医薬品を連想させかねない表現だと思いますが、(3)(4)あたりで「おやっ?」と思われた方もおられるかと思います。(5)にいたっては日常会話で交わされてもおかしくないような内容ですが、すべて規制の対象となっています。これに対し、健康食品を販売する企業側は「目を使う方に! 目の栄養」→「クッキリとした毎日を」などへの言い換えで対応しています。

 また、含まれている成分の健康的な機能の有効性や安全性等について、科学的な根拠がある場合は、食品個別に審査・認定を受けることで、「特定保健用食品」として許可された範囲で効能効果を記載することができます。しかし、2009年に特定保健用食品として認可を受けた食品から健康被害が疑われる不純物が検出されたことを契機に、特定保健用食品についても審査制度(評価基準や再審査)や表示方法の見直しの必要性が叫ばれています。

 消費者庁では、2009年から「健康食品の表示に関する検討会」を開催し、そこでも①特定保健用食品の認可制度の見直し、②健康食品の表示・広告規制、が消費者庁の課題として挙げられていましたが、今回の一元化検討会では、この基準の明確化や有効期間の設定、審査体制の検討が提唱されています。

 現在、薬事表現の規制が厳しくなっているのは、一部の業者による不当表示・健康被害に対処するためですが、これが真っ当な製品を販売する企業にとっても足かせとなっている面もあります。健康食品の表示・広告の基準が明確化されれば、メーカーは相応の準備が必要となりますが、規制一辺倒で、もはやキャッチコピーの「言葉遊び」をするしかない現行制度とは、一線を画すことになるのではと考えています。

3. 原料原産地の表示対象品目の拡大

 原料原産地の表示については、食品原料産地のグローバル化による消費者の関心の高まりを受け、2000年より表示が義務化された事項です。国内製造の加工食品で対象となる品目のうち、食品全体の50%以上が単一の農畜水産物を原材料とする場合、その原材料の産地を記載する必要があります。これまでも対象となる品目の拡大を行なっており、施行当初は8品目だったのが、現在は22品目になっています。
対象となる22品目

1 乾燥きのこ類、乾燥野菜及び乾燥果実(フレーク状又は粉末状にしたものを除く。)
2 塩蔵したきのこ類、塩蔵野菜及び塩蔵果実
3 ゆで、又は蒸したきのこ類、野菜及び豆類並びにあん(缶詰、瓶詰及びレトルトパウチ食品に該当するものを除く。)
4 異種混合したカット野菜、異種混合したカット果実その他野菜、果実及びきのこ類を異種混合したもの(切断せずに詰め合わせたものを除く。)
5 緑茶及び緑茶飲料
6 もち
7 いりさや落花生、いり落花生、あげ落花生及びいり豆類
8 黒糖及び黒糖加工品
9 こんにゃく
10 調味した食肉(加熱調理したもの及び調理冷凍食品に該当するものを除く。)
11 ゆで、又は蒸した食肉及び食用鳥卵(缶詰、瓶詰及びレトルトパウチ食品に該当するものを除く。)
12 表面をあぶった食肉
13 フライ種として衣をつけた食肉(加熱調理したもの及び調理冷凍食品に該当するものを除く。)
14 合挽肉その他異種混合した食肉(肉塊又は挽肉を容器に詰め、成形したものを含む。)
15 素干魚介類、塩干魚介類、煮干魚介類及びこんぶ、干のり、焼きのりその他干した海藻類(細切若しくは細刻したもの又は粉末状にしたものを除く。)
16 塩蔵魚介類及び塩蔵海藻類
17 調味した魚介類及び海藻類(加熱調理したもの及び調理冷凍食品に該当するもの並びに缶詰、瓶詰及びレトルトパウチ食品に該当するものを除く。)
18 こんぶ巻
19 ゆで、又は蒸した魚介類及び海藻類(缶詰、瓶詰及びレトルトパウチ食品に該当するものを除く。)
20 表面をあぶった魚介類
21 フライ種として衣をつけた魚介類(加熱調理したもの及び調理冷凍食品に該当するものを除く。)
22 4又は14に掲げるもののほか、生鮮食品を異種混合したもの(切断せずに詰め合わせたものを除く。)

(出典元:消費者庁「食品表示制度をめぐる事情」)

 今回の一元化検討会では、この原料原産地表示の対象品目や選定方法等も検討課題に含まれています。ただ、上記一覧をご覧になって思われたかもしれませんが、品目の拡大以前に、現在の基準ではどの食品が表示義務の対象となるかわかりにくいという問題があります。さらに、表示義務の基準が浸透していない背景もあり、事業者は自社製品に原料原産地を記載する必要があるのか判断がつきにくく、消費者は原料原産地が記載されている商品とされていない商品との違いがわかりにくくなっています。

 個人的には、対象品目の基準を「その内容を一般的に表す名称」としてしまうか、それが困難であれば「原材料の大半が生鮮品からなる食品については原産地表示が必要」くらい思い切った方針でもいいのではないかと思います。原産地に関心の強い消費者は、販売している小売店や飲食店はもちろん、メーカーに直接問い合わせることもありますので、メーカーの方は制度で定められているからといった受身の姿勢ではなく、自発的に自社製品の情報を管理し、お問い合わせや表示制度の変更にいつでも対処できる体制をとっておく必要があります。

 以上、現在、一元化検討会で制度の一元化と平行して検討されている事項を紹介しました。次回からいよいよ検討会で示された打開策について紹介し、私なりの意見も交えさせていただければと思います。

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