現在の食品表示は消費者にはどう思われているのか
さて、突然ですが、皆さんは現在の食品表示はわかりやすいと思いますか。平成21年に内閣府で発表された「食品表示等に関する意識調査」では、現在の表示制度を「わかりやすい」とした人が39.0%、「わかりにくい」とした人は36.2%と、わずかにわかりやすいとした人が上回ってはいますが、回答者の4割弱がわかりにくいと意見し、わかりやすいとした人も半数を満たしていません。さらに「現在の食品表示で十分な情報が得られているか」という問いには、「得られている」とした人が29.2%に対し、「得られていない」とした人は40.8%と、現在の食品表示で得られる情報は不十分であるとした人のほうが上回る結果となっています。
また、消費者が重要視している情報は、上位から「賞味期限」「原産地」「添加物情報」「原材料名」「農薬・抗生物質の使用状況」となっており、今後求める表示の改善点としては「用語の統一とわかりやすい情報整理」が77.1%、「文字を大きくする」が42.1%、「情報量を増やす」が34.2%となっております。
簡単にまとめると、現在の食品表示は複雑になっており、食品の安全情報としてのわかりやすさ、つまり質が求められてはいるものの、同時に量の増加も求められているということになります。パッケージ上の表示スペースの制約などもあり、現在の食品表示制度では両立が難しい現状が見えてくるのではないかと思います。
食品表示制度複雑化の原因は
では、なぜ現在の食品表示は複雑になっているのか。それは食物アレルギーや産地偽装など食品に関する新たな問題点、および栄養機能の解明や遺伝子組み換え作物といった新しい技術の台頭に対して、表示義務を現行の規則に追加する形で対応した、いわば、表示制度の増改築を何度も繰り返した結果、不便な形となってしまったのではないかと思います。
そして、食品表示制度については、これまで管轄が、厚生労働省の「食品衛生法」「健康増進法」関連の制度と、農林水産省の品質表示基準を中心とした「JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)」関連制度の2つの省庁に大まかに分かれていたことも要因にあげられます。(現在、立案執行はいずれも消費者庁に移管)
「食品表示一元化検討会」とは?
消費者庁ではJAS法、食品衛生法、健康増進法など、食品表示の関連法令の管理移管を受けて以来、これらの運用と同時に現行制度の問題点、及び解決策を模索してきました。そして、蓄積してきた食品表示の課題点について、一定の成果が得られたことを受け、
(1)食品表示の食品表示制度の一元化に向けた法体系のあり方
(2)消費者にとってわかりやすい表示方法のあり方
(3)一元化された法体系下での表示事項のあり方
の3つの項目を検討するためのプロジェクトとして、昨年秋より「食品表示一元化検討会」を発足しました。食品表示一元化検討会では、消費者庁の長官及び食品表示課の方々のほか、各財団・社団法人、大学、消費者団体の代表者を交え、事業者や、消費者からの視点、または法の視点からの意見を取り入れています。
【食品表示一元化検討会 委員一覧】
池戸 重信(宮城大学食産業学部長)
市川 まりこ(食のコミュニケーション円卓会議代表)
上谷 律子(財団法人日本食生活協会常務理事)
鬼武 一夫(日本生活協同組合連合会組織推進本部安全政策推進室長)
迫 和子(社団法人日本栄養士会専務理事)
田﨑 達明(東京都福祉保健局健康安全部食品危機管理担当課長)
中川 丈久(神戸大学大学院法学研究科教授)
仲谷 正員(日本チェーンストア協会食品委員会委員)
中村 幹雄(特定非営利活動法人食品安全グローバルネットワーク事務局長)
二瓶 勉(社団法人日本惣菜協会顧問)
堀江 雅子(財団法人ベターホーム協会講師)
丸山 善弘(神奈川県消費者団体連絡会事務局長
森 修三(財団法人食品産業センター企画調査部次長)
森田 満樹(消費生活コンサルタント)
山根 香織(主婦連合会会長)
(五十音順、敬称略)
一元化により、事業者・消費者にメリットが
この食品表示制度を消費者庁に統一し刷新を図る今回の検討会は、食品表示制度をリフォームする位置づけのものになるのではないかと期待しております。そして、一元化が実現した場合、事業者・消費者どちらの側からも以下のようなメリットがあるのではないかと考えております。
まず、事業者にとっては、表示規則が一元化されることによって、表示が必要な事項の確認が容易になることが予想されます。
一度、食品の表示をされたことがある方ならわかると思いますが、1品の食品表示を作る際には、JASの「品質表示基準」や業界規則の「公正競争規約」をはじめ、「食品衛生法に基づく表示について」「食品衛生法第19条第1項の規定に基づく表示の基準に関する内閣府令」といった省令・通知を、さらに栄養表示を行う場合や保健機能食品においては「栄養表示基準」を、また一部の食品に関しては経済産業省の「特定商品の販売に係る計量に関する省令」なども参照する必要があり、例を挙げるとキリがありません。これらのように現在は点在している表示規則がシンプルに集約される可能性があります。
そして、消費者にとっては確認したい事項が、どこに記載されているのかが分かりやすくなる可能性があります。
下の図は、食品表示関連規則の関係と現行の食品表示例ですが、「名称」から「販売者」までの一括表示に情報が集約され、記載方法まで指定がなされています。特に「原材料名」においては、「原材料情報」のほか、「添加物情報」「アレルギー情報」「遺伝子組換え情報」などが一箇所に詰め込まれているのが見て取れると思います。肥大化した表示義務事項をこの枠内に収めることに無理が生じており、これが先述の意識調査での結果にあらわれていると思われます。一元化の際に表示事項の分散・効率化が行われれば、これらの課題が一挙に解決される可能性を秘めていると言えます。
消費者との対話が可能な表示のあり方とは
食品表示は販売する側が消費者に対して、能動的に食品情報を提供できる数少ない手段であると同時に、消費者にとっても食品の情報を得る数少ない手段となります。品質表示基準などのJAS関連の表示制度は、昭和45年の改正時に「消費者の商品選択基準」を、そして食品衛生法に関わる表示制度は、「飲食による危険の発生の防止」を目的としており、どちらも消費者が食品を安心して喫食するための制度です。本コラムでは、消費者庁の一元化検討会の情報をご紹介しつつ、消費者との対話が可能な表示のあり方を探っていきたいと思います。お付き合いのほどよろしくお願いいたします。