飲食業界の職種と仕事内容
飲食業界の仕事は多種多様だ。飲食店というとホールスタッフを連想する人も多いだろう。実際には、商品の開発から店舗開発、マーケティングなどの様々な部門に分かれている企業も多い。具体的にどんな職種があるのか4つに分けて紹介していく。
- 店舗スタッフ
- 販売促進
- 店舗開発
- 商品開発・メニュー開発
1.店舗スタッフ
店舗スタッフは、来店したお客様に対して接客や料理などのサービスを提供することが主な業務となる。一般的に飲食業の仕事といえば、この店舗スタッフをイメージする方が多く、正社員以外にもアルバイトやパートなどの雇用形態も多種多様だ。
その中で接客や調理、管理業務といった担当に振り分けられる。店長などの責任者であれば、従業員の教育や在庫の管理・確認、お店の売上把握など様々な管理業務を行う。人手が足りない場合には、現場の従業員として接客や調理を行うこともあり、業務量も多くなってしまうという特徴も挙げられるだろう。
また近年のコロナ禍により、自店舗でデリバリーサービスを展開する飲食店の場合、バイクなどで商品を配達する業務を店舗スタッフが兼任していることも多い。
【主な仕事内容】 |
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・来店客への接客 ・調理、商品の配達 ・売上把握、在庫管理、従業員の教育など |
2.販売促進
販売促進は、店舗の売上向上につながる様々な施策を打ち出す職種だ。キャンペーンや季節イベントの企画・立案や新商品を告知するポスター作成など、自社商品のプロモーション活動を担う立場となる。
本部と店舗の連携を図るため、店舗の責任者などと打ち合わせをしたり、店舗スタッフの研修を実施したりしてサービス向上に努めるなど、飲食チェーン店などの円滑な運営をサポートする側面もある。
【主な仕事内容】 |
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・キャンペーンやイベントの企画立案 ・営業本部と各店舗の連絡 ・店長や店舗従業員への教育・研修 ・担当エリアの売上管理 |
3.店舗開発
新規店舗を成功に導くため、様々な調査や分析を行うのが店舗開発だ。主に対象エリアの調査や物件の選定、競合他社のリサーチなど、新規開店に関する様々な業務を手がける。
例えば、「集客率の高い立地はどの辺なのか」「周辺住民のニーズに自店舗がマッチしているのか」「すでに出店している競合に対してどう差別化するのか」など、あらゆる面で検討しなければならない。
そのためには、自社の強みやターゲット層などに深い理解があるだけでなく、出店予定エリアの調査データから様々な分析を行える能力が求められる。大手企業では、物件の賃貸交渉や店舗デザイン設計の部門を設けているケースもある。
専門的な能力が求められることもあり、基本的にはマーケティング分野の知識を持つ人や同職種の経験者から募ることが多い。飲食業において、食品とは離れた分野の知識が求められるのも特徴だ。
加えてスーパーバイザー(SV)やエリアマネージャーとして担当エリアや店舗売上などを管理し、問題があれば改善を促すことも重要な業務の1つだ。
【主な仕事内容】 |
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・物件開発、土地物件の情報収集などのリサーチ ・店舗企画 ・店舗デザイン設計 |
4.商品開発・メニュー開発
商品開発は、お店で提供する料理のレシピを新たに作り、既存のレシピ改良なども主な内容となる。そのため産地や原材料、生産コストなどを検討し、作っては試食をするなどの地道な努力も必要だ。
料理のトレンドや原材料のブランドなども考えるため、フードコーディネーターなどの資格を持っているとその知識やノウハウが役に立つ。また競合と差別化を図るために、店舗独自のオリジナルメニューを作るなどの発想力も求められるだろう。料理の味や質といった重要な事柄が左右される職種となる。
【主な仕事内容】 |
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・市場調査 ・メニューの企画、コンセプトの考案 ・料理の試作や試食、改良 |
飲食業界が売り手市場の理由
日本国内において、飲食に関わる業界の有効求人倍率は2014年頃から1倍を超えており、仕事を探している人よりも企業の募集人数が上回っているのが現状だ。厚生労働省の公表データによると、2023年2月時点でも1.3~1.4倍ほどの数値となっている。飲食業界が売り手市場と言われているのは、全体で働き手が足りていない状況からである。
参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年2月分)」
加えて飲食業界は、離職率の高さも理由の1つである。例えば、厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」によるデータでは、飲食サービス業における就職後3年以内の離職率はトップクラスだ。
参考:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します」
飲食業界の慢性的な人手不足の原因には、労働環境の状況も大きく関係している。具体的には以下のようなものだ。
年間休日が少ない
厚生労働省の公表では、完全週休2日制を採用している飲食サービス業は25%ほどで、他の業界と比べてもかなり低い割合となっている。
参考:厚生労働省「平成29年就労条件総合調査の概況」
この背景には、飲食店はGWやお盆などの大型連休も多くの集客を見込めることはもちろん、平日よりも土日祝日の方が売上につながり、一般的な企業と比べて営業日が多くなりやすいことが挙げられる。そのため、カレンダー通りの休みやまとまった休みを取ることが難しいのだ。
加えて飲食店はパートやアルバイトの採用が多く、1つの店舗あたりに正社員が1人しかいないケースもある。慢性的な人手不足の中で、従業員の急な休みが発生した場合など正社員の休みが不規則になるパターンも多いだろう。
平均年収が低い
飲食業界では従業員の給料が低いことも人手不足の要因の1つである。例えば外食産業における調査によると、「今の仕事を継続したいと思わない」と回答した人の5割ほどが収入の低さを理由に挙げている。
参考:厚生労働省「外食産業における労働時間と働き方に関する調査」
同調査では従業員の年収もリサーチしており、店長や店舗スタッフの収入で一番多い回答だったのが「200万円以上、400万円未満」という結果だった。
しかしスーパーバイザー等の役職では、収入の低さを理由に挙げている割合は25%、年収は「400万円以上、600万円未満」が多く、職種によって収入面には変化が見られる。
接客業にはストレスも伴う
飲食店営業は接客サービス業であるため、お客様への配慮や、より満足していただくための丁寧な対応が不可欠であり体力的にも精神的にも大変な仕事だ。時にはお客様の理不尽なクレームにも対応しなければならない場面もある。
特に近年では、SNSによってすぐに情報が拡散してしまいやすく、対応の仕方にも神経質になりがちだ。
飲食業界で働くメリット
従業員にとって、職場の労働環境が良いか悪いかは継続して働ける重要な要素と言える。上記のような様々な問題があることで、働き続けられない人も出てくるのが現状だ。
どの職種にも言えることではあるが、デメリットもある反面、魅力的なメリットもある。飲食店で働くことは“きつい”イメージを持つ人もいるだろう。しかし仕事にやりがいを持ち、自分に合った仕事を見つけている人も多い。では飲食業界で働くことには、どのようなメリットが挙げられるのだろうか。
接客や調理スキル、店舗運営ノウハウが身につく
飲食店の求人には未経験でもアルバイトから経験値を積むことができ、将来的に正社員に正社員として採用されるケースも少なくない。
ホールスタッフであれば、様々なお客様や共に働くスタッフと常に接することで、言葉遣いや立ち振る舞い、電話対応といった様々な業種でも活かすことのできるマナー全般が身につくだろう。
調理スタッフは、仕込み、加工・調理、盛り付けなどの様々な調理技術を現場で習得することができる。
こうした現場経験を積む中で、次第に店舗のマネジメントの仕事も任せられるようになっていくはずだ。
ただし店長などの責任者や管理職になるためには、ある程度の経験や知識が求められる。自分のなりたい職種がある場合には、早くから必要となる知識や資格、職種に応じた専門的な勉強を行うなどの努力も求められる。
多くの人との出会いがある
お客様との距離が近い飲食店では、毎日のように新しい人と接する機会がある。スタッフや来店客の方と人間関係を築くことができる。
人とのコミュニケーションが好きな人にとっては多くの人との出会いに良い刺激を受け、飲食店で働くことのやりがいを感じられる大きなメリットと言える。
将来的な独立やキャリアアップを目指せる
様々な店舗で働くことにより、業務経験やノウハウを活かして独立や将来的なキャリアアップを目指せる。特に企業の管理下で飲食店の店長経験などを実施できると、リスクを最大限に抑えて経営の知識やノウハウなどを培える貴重な経験となるだろう。
【居酒屋の店長経験を活かして独立】
例えば、日本一の居酒屋を決定する第15回居酒屋甲子園で優勝した「魚屋ちから」を運営する株式会社Interesting Innovationの塩澤氏は、以前働いていた居酒屋などでの店長経験を活かし、地元で独立開業して業績を伸ばした。
創業当初は予約0件だった居酒屋を月商1000万円の繁盛店を作り上げた経緯には、東京都渋谷区に展開する居酒屋「てっぺん」や「魚屋豪椀」で働いていたことが挙げられている。2022年までに、毎年1店舗の新規出店を行なっている。
関連記事:第15回居酒屋甲子園 優勝「魚屋ちから」。愛されるお店のつくり方
【地域や社会問題への取り組み】
2022年4月にリニューアルされた若手の飲食店経営者が集まる団体「外食SX」では、多様な経営理念の実現や食の問題解決、SDGsなどに取り組む「未来型飲食店経営」の構想を推し進めている。
同団体の活動では、外部講師を招いた勉強会を実施することで、飲食業界の未来を見据えた課題解決へ取り組むことが目的だ。また他の産業にも視野を広げ、飲食の領域にとどまらない事業の実現を目指している。
記憶に新しい新型コロナウイルスの流行で様々な産業が大きな問題に直面した際には、飲食業界でもサプライチェーンをはじめとした様々な企業と地域が連携し、事態を乗り切るケースも少なくなかった。SDGsという既存の問題に対応するだけでなく、将来的な生存戦略を目的とした活動にもつながるだろう。
関連記事:40才以下の飲食店経営者団体、第4期スタート。外食SX(エスエックス)の未来型飲食店経営の考え方
飲食業界に向いている人の特徴
飲食業界に向いている性格や趣向などはあるが、仕事を続けている内にスキルが身につくこともあるため、どんな能力が飲食業界に役立つか参考にしてほしい。
積極的なコミュニケーションができる人
飲食店では、直接お客様と接する機会が多い。ホールスタッフはもちろんのこと、カウンターのある居酒屋など距離が近い店舗では、調理している従業員が接客するケースもある。
お客様との積極的なコミュニケーションを取ることで「また来よう」と思ってもらえ、リピート顧客の増加につながる。顧客の定着は店舗の直接的な売上に繋がるため、店舗スタッフにおける重要なスキルの1つでもある。
また「とても美味しかった」「ごちそうさまでした」といったお客様の温かい言葉が仕事のモチベーション向上につながる。生産性やサービスの質が高まることで、店舗運営の良い循環ができ上がっていく。
料理を作る・食べるのが好きな人
調理スタッフや商品開発を目指すのに向いている人の特徴として、もともと料理に対する特別な気持ちを持っている方が長続きしやすい。「いかに美味しい料理を作るか」「どうすれば素材の良さを最大限活かせるのか」などの仕事への原動力になるからだ。
料理やお酒などが好きであれば、「自分だとこういう料理やサービスが欲しい」というお客様目線での接客やサービスも提供できる。料理への深い興味があるため知識を吸収しやすく、お客様からの質問などにも丁寧に答えることが可能となるはずだ。
豊かな発想力を持つ人
飲食業界では他の競合店との差別化を図るため、自社オリジナルの新メニューやサービスを提供する必要性も出てくる。独創的なアイデアを生み出すだけでなく、既存のメニューを改善する際の発想力も求められるだろう。
日頃から旬のトレンドを取り入れることや、食品に対する知識に自信がある場合には、調理スタッフや商品開発の部門で力を発揮しやすい。また最近では、消費者の注目を集めるキャンペーンやフェアを実施するために、SNSを活用できる視野の広さも重宝されるだろう。
もっと飲食業の職種について深く知りたい場合は?
飲食業界についてさらに深く知りたい場合には、その道のプロフェッショナルに聞くのが一番と言える。具体的には、以下の通りだ。
・実際に働いている人に話を聞く
・訪れた飲食店の様子を見る
・飲食店の経営者や関係者のインタビュー記事を読む
・運営企業や店舗のHPや口コミサイト、TwitterなどのSNSを確認する
自分が将来的に目標としている職種、もしくはそれに近い職場の方に話を聞くのがもっとも確実だ。実際に仕事をしている人の生の声を聞くことで、どんな仕事内容なのかイメージしやすくなる。
また飲食経営者や商品開発者を目指している場合、直接話を聞くのはなかなか難易度が高い。そうした際には、Web上などで掲載されているインタビュー記事を読むのも良いだろう。飲食店の店舗アカウントや従業員がSNSで情報発信している例も挙げられる。
関連記事:外食企業のインタビュー一覧
学生であれば、インターンシップなどで実際に職場へ訪問・体験することが可能だ。就職する前に貴重な経験を得ることができるため、積極的に行動しよう。
飲食業界で自分に合う業種を見つけよう
飲食業界で働くことに対して「労働環境が厳しい」「報酬や待遇が良くない」「休みが取りにくい」といったイメージを持っている方も多い。しかしそれでも業界内で働く人がいるのは、それ以上のやりがいを見つけたり、そこでしか得られない経験を積めたり、自身のキャリアに繋がるようなメリットがあるからだ。
競合が多く経営手腕などが求められる面もあるため、幅広い知識やノウハウが求められるだろう。しかしその分、自身の努力次第で社内での昇格や独立といったチャンスが広がっている。
特に新卒や転職などで飲食業界へ就職する際には、事前のリサーチや正しい知識を持っておきたい。自分の夢や目標がある場合、しっかりとしたキャリアプランを持つことが成功へのカギとなるだろう。