飲食店も販管費6ヶ月分の資金(キャッシュ)を確保せよ
新型コロナウイルス発生以降、東京地区の飲食店では徐々に売上が落ちてきている。今回の状況や2011年に発生した東日本大震災など、予測不能な事象が起こった際にまず最優先で押さえておくべきことは、資金繰り(キャッシュフロー)だ。タナベ経営の経験則上では、インパクト(緊急事態発生)から約3ヶ月~約6ヶ月後に資金ショートしてしまうケースが多い。
一般的に会社経営には6か月先行の資金繰り(キャッシュフロー)対策が必要であると言われている。ショート回避のために取引金融機関へのアプローチはもちろんのこと、各種補助金等の確認は即座に行うべきだ。
新型コロナウイルス流行に際しての助成金については、別項でまとめている。経済産業省が「セーフティネット保証制度」の対象条件を緩和しており、適用された場合、融資限度額が2倍になったり、融資額の100%を信用保証されたりする。また、日本政策金融公庫の特別貸付や、各地方自治体の融資制度なども紹介しているので、参考にしてほしい。
金額の目安としては、月額固定費の約半年分の現金を確保することが理想である。どれだけ長引くか不透明な状況でも確実なのは、“毎月固定費は確実に消えてゆく”という事実だ。
緊急時に取り組むべき固定費削減(賃料交渉)ノウハウ
資金(キャッシュ)確保のためには外部資金調達に加えて、店舗でのコストダウンにも早急に取り組まなければならない。緊急時だからこそ即実践してほしい固定費削減ノウハウが「賃料削減交渉」だ。
難易度・ハードルが高いと思われがちだが、要点を押さえ、スピーディーに的確な対応ができれば不動産・賃貸借契約の知識がなくとも交渉が可能だ。緊急時における店舗賃料削減交渉フロー(以下図)にそって解説する。
賃料削減へ導くポイントは大きく3点ある。
1.不動産オーナー(以下、オーナー)へのアポイント取得手法
オーナーへのアポイント調整時には「緊急でご相談したいことがございます」とし、要件は直接的には伝えない。
通常であれば、要件を伝えた後にアポイント取得の順だが、あえて要件を伝えないことで、オーナーがテナントについて考えを巡らせるだろう。「緊急で相談」となれば、賃料削減・契約更新だけでなく、最悪のパターン(撤退)まで検討する可能性が高まる。面談した結果、撤退でないとわかればオーナーに心理的な余裕が生まれる。
2.交渉展開パターンを想定した賃料削減ストーリーの構築
とはいえ、単純な賃料削減に応じるオーナーは、昨今の不動産市況を鑑みると極めて少ないといえる。ただ、今回のような不測の事態による売上減と、いつ収束するかわからないという不透明な状況は、飲食店経営者だけでなく不動産オーナーにとっても高いリスクをはらんでいる。
そのため賃料交渉のストーリーの概略をいえば「新型コロナウイルス→店舗売上減→経営判断(コスト削減他)」について具体的数値を用いて肉付けすることが必要である。
また、具体的にどこを削減するかを明確にしておくことも重要だ。
最低でも以下3パターンは用意し、オーナーとの面談で柔軟な対応ができるよう準備する必要がある。
1.単純賃料減額:現行賃料の●%、または●●円の削減
2.期間限定減額:●ヶ月限定で現行賃料の●%を削減
3.敷金・保証金一部返還:上記①・②が困難な場合にキャッシュを確保する
3.スピード感をもった回答の受領
緊急時での賃料削減交渉においては、オーナーとの初回面談から2週間以内に何らかの回答を受領することが理想的だ。
理由は、3つある。まず①いつ事態が収束するかわからないため早期固定費削減が求められる。次に②会社としての緊急時対応姿勢(真摯な姿勢)を示せる機会でもある。加えて③2週間を超えると、オーナーから賃料削減回答を受領できる可能性が低くなる。
上記3点のポイントをしっかりと守れば、オーナーとの信頼関係を壊すことなく話し合うことができるだろう。削減回答受領の際は、口約束ではなく覚書などを締結することも忘れないよう気をつけておきたい。
短期的かつオーナー視点で見れば、賃料削減交渉は収入が減ることになる。しかし長期的な視点で見れば末永い契約関係を保ちたいとする飲食店経営者の意向を汲んだ交渉とも言える。大切なのはオーナー・飲食店経営者双方にとって「緊急事態」=「一緒に乗り越えるべき壁」という共通認識を築けるかどうかである。
株式会社タナベ経営 食品・フードサービスコンサルティングチーム
東証一部上場のコンサルティングファームであるタナベ経営の食関連分野エキスパートで構成したコンサルティングチーム。上場外食企業の1割以上へコンサルティングサービス提供の実績がある。食品分野は、原料メーカーから2次・3次加工食品までと食品機械製造や包材メーカー、卸まで関連産業全てをカバーしている。
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