2019年5月頃から既存店の売上が減少か
2019年上半期の国内企業全体の倒産件数は前年同月比の2年連続で減少となった。一方で飲食店の倒産は前年同期比3.6%増という厳しい数値が出ている(出典:帝国データバンク)。数値上では、2019年の外食市場の縮小は顕著といえる。船井総研の外食部門では200社ほどのクライアントを毎月訪問しているが、二杉氏も外食産業の減速ぶりを肌で感じているという。
「2019年の5月ぐらいから、既存店の売上が下がっているという話は聞こえてきました。原因は製造業の減速や働き方改革などが、密接に関係しているのではないかといわれています」
もっとも通期の外食市場全体の売上という点では、微増になるのではないかと予測する。その根拠として好調なインバウンドや、単価上昇などによって売上が押し上げられる可能性があるからだ。
「原材料コスト、人件費、物流コストなど様々な経費が、上昇しており、その分を価格転嫁に踏み切る店も多いです。例えば全皿100円均一でやっていたスシローさんもここ数年で100円を超える高い商品の開発を進めています。コストの価格転嫁によって客単価アップを実現し、そうしたことでマーケット全体の見た目の売上は微増になるのではないかと思っています」
省力化、省人化の波にのれた企業が生き残る
2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される。訪日外国人もこれまで以上に多く訪れることが想定される。政府目標では2020年に4000万人(2015年約2倍)の訪日外国人を予定している。そのような特殊な環境の1年と言える状況で外食市場はどうなり、どう対応していけばいいのだろうか。
「都内だけに限らず、地方にも外国人が来る機会が増えると思います。一方で地方は人口が減っていきますから、地方における立地の格差は今後ますます開きが出てくるでしょう。
また、人口減少、人件費の高騰もありますから、より少ない人員で運営できる体制づくりや、バックヤードを整えていく仕組みづくりが必要です。そのためには可能な限りデジタルで使えるものはどんどん入れていくことが重要になってくるでしょう。当社も『省人化』というキーワードを掲げてコンサルティングを日々おこなっております。
例えば、ほとんどの人が今はスマホを持っています。QRコードだけ発行して、あとはお客様のスマホでQRを読み取り、メニューを立ち上げ、スマホから料理注文する『セルフオーダー』などは、場所や規模にかかわらず導入できます」
IT化以外でも料理の配膳を特急レーンでおこなったり、全テーブルにドリンクサーバーを設置したり、飲み放題をセルフ化することも、省人化の取り組みとなる。ITや様々な設備、機械を上手に組み合わせて、少ない人数でどう運営していくかが今後ますます重要になってくる。
「2020年以降、人口の減少、五輪が終わってホットなトピックスがなくなる中で経済の減速が進むことも考えられます。しかしながら、その中でも、成長していく企業は確実に存在するはずです。人手不足という時流にしっかりと対応した次世代のビジネスモデルを構築し、人の採用力と定着力を兼ね備えた外食企業は一気に勝ち組となるでしょう。
そうした企業は株式上場することで、企業のブランドイメージを高め、さらに人材採用力を高めることが可能となります。来年以降も外食企業の株式上場に注目していきたいと思います」
取材協力:株式会社船井総合研究所
お話:フード支援部 部長 上席コンサルタント 二杉明宏 氏
同志社大学大学院法学研究科卒業後、2000年、船井総合研究所に入社。飲食業専門コンサルタントとして、10以上の業種で活動。業態開発、新規出店、多店舗展開などを得意とする。ローカルチェーンからナショナルチェーンまで、支援先企業は年商1億~700億円と幅広い。
URL:船井総合研究所フードビジネス専門サイト『フードビジネス.COM』