東京都では、大企業等の民間企業で培われたノウハウやアイデアを起業や新事業創出に結びつけるための取り組みとして「新事業発掘プロジェクト(GEMStartup TOKYO)」を実施しております。2月19日(木)に今年度の成果報告会を開催しました。本イベントには、プログラム参加企業やメンターを中心に、オフライン・オンライン合わせて約150名が参加しました。
今回の報告会では、「事業化プログラム*」「新事業創出プラットフォーム*」参加企業の現時点での進捗報告に加えて、株式会社インキュベータ代表取締役の石川氏による基調講演が行われ、社内起業やカーブアウト成功のための重要な知見が共有されました。さらに、大企業のノウハウや技術を活かした新事業創出の手法として、「連携モデル*」に参加した企業より実際の制度設計の取り組みや現場での気づき、そして今後のアクションプランを共有しました。
*事業化プログラム:すでにアイデアや企画を持つ人を対象にした、起業や事業化を目指すためのプログラム
*新事業創出プラットフォーム:新事業創出に関心があり、新事業創出や起業に向けた知識や人脈を得たい方を対象にしたプログラム
*連携モデル:新事業支援を担当する部署をサポートする取り組み
基調講演
成果につなげる社内起業 ~起こす人&支える人へ~
株式会社インキュベータ 代表取締役/大学院大学至善館 特任教授/
明治大学ビジネススクール 客員教授 石川 明氏
大企業における社内起業・新事業創出の第一人者として、自身のカーブアウト経験と長年の新事業支援を通じて得た知見を、起業する側・支える側双方へ向けてお話いただきました。
石川氏:リクルートで社内起業の専門部署に長く在籍した後、7名でカーブアウトし、総合情報サイト『オールアバウト』の創業に参画しました。起業経験と、その後16年間における様々な企業の新事業支援を通じて、成果を出すことの難しさを痛感してきました。今社内で厳しい問いにさらされている方も多いと思いますが、心からエールを送りたいと思います。
社内起業の最大のメリットは、会社の資源にアクセスしやすいことです。資金、技術、人材、製造ラインなど、あらゆるリソースが手の届くとこ

ろにある。外部とゼロから交渉するより、担当役員に「1,000万円出してください」とお願いする方が、ずっとハードルが低いのです。決裁できる方に直接アクセスできる、これが社内起業の大きな強みです。
新事業は初めて取り組む方が多い。通常業務のやり方とは全く違うので、戸惑う方も多いです。だからこそ支える側の役割が非常に有効です。上司も新事業の経験がないケースが多いため、専門知識を持って助言できる人がいると、状況が大きく変わります。起業家はオールマイティである必要はありません。社内にいろんな得意分野を持つ方がいることは非常に強みです。誰かが弱いところをカバーする発想で支えてほしいと思います。
そして、経営リーダーは、やるべき新事業の範囲(フェアウェイ)と手を出さない範囲(OBゾーン)を明確にすべきです。役員間でこの定義が揃っていないケースが非常に多い。そこに「社内ではやらないが外に出してやる(カーブアウト)」という第3の選択肢も加えて議論し、方針を決める。方針が明確になるほど、社内の人間は動きやすくなり、いい事業が生まれます。
「事業化プログラム」「新事業創出プラットフォーム」成果報告 ~登壇企業5社が示した「社会実装」への軌跡~
成果報告のパートでは、大企業の持つリソースを活用しながら、社会課題の解決に挑む事業が相次ぎました。特に「個人の原体験や違和感」を起点としつつ、実証実験を通じて社会的な価値へと昇華させている点が多くのプロジェクトに共通しており、講評者からは企業内起業家としてのマインドセットの変化を高く評価する声が聞かれました。一方で、事業の持続可能性を高めるための資金調達や収益化モデルの構築、社内合意形成といった課題に対しても、具体的なアドバイスが送られました。

講評者:
株式会社coordimate 代表取締役 CEO 飯野 健太郎氏
グリーベンチャーズ株式会社 プリンシパル 高橋 理衣氏
株式会社リコー 事業創造プロデューサー TRIBUS スタジオ館長 森久 泰二郎氏
■日清医療食品株式会社 高木 麻衣氏 保育園お迎え時の夕食受取サービス「おむかえごはん」


【事業概要】
共働き世帯が直面するスーパーと外食の間の「夕食の空白」に着目し、保育園のお迎え時に、温めるだけで夕食が完結する夕食セットを受け取れるサービスを提案。日清医療食品が持つ全国約5,400箇所の施設への既存物流ネットワークと、給食提供ノウハウ(栄養管理・嗜好データ)の強みを活かした事業です。
【現状と成果】
- 保育園と連携した実証実験を実施中。商品設計からヒアリングまでを主導。
- 実証を通じ、単なる時短ではなく「子供の行動を変える体験型サービス」であるという新たな価値を発見。
【今後の展望】
保育園向けサービスにとどまらず、「家に帰る前にお食事を届ける」という新しい食のインフラ構築を目指し、将来的には通院や通所、オフィス等への展開も視野に入れています。
■株式会社東芝 篠田 光海氏 自治体のごみ回収を効率化「スマートゴミ置き場」


【事業概要】
年間2兆3,000億円にのぼるごみ処理コストと深刻な人手不足に対応するため、ごみ箱内で自動圧縮・脱臭を行う「スマートゴミ置き場」を提案。自治体や企業への導入を通じて、回収効率と焼却効率の向上を目指します。
【現状と成果】
- 5つの自治体へのヒアリングを実施し、すべての自治体で人手不足の課題を確認。うち3つの自治体から実証実験への前向きな提案を獲得。
- 現在は有志活動のため、資金や活動範囲に制約がある中で推進中。
【今後の展望】
国や東京都などが実施する支援事業等への応募を予定しており、事業の信頼性を高め、実証実験の円滑化を図ります。
■株式会社KDDIテクノロジー 中村 正幸氏 AIによる応募者の内面理解・マッチング支援


【事業概要】
「人に対する一方的な決めつけをなくしたい」という動機から開発。生成AIを活用し、人の内面心理的傾向、性格特性、カルチャーフィットを精密に評価するシステムで2030年に7兆円超と予測されるAI面接市場に参入します。
【現状と成果】
- 事業化プログラムを通じてビジネスモデルを磨き上げ、多くの見込み客との接点を獲得。
- 実機デモンストレーションを実施し、その精度について高い評価も獲得。
【今後の展望】
競合が増加する中で、蓄積される面談データを活用した差別化が鍵となります。また、社内決裁を動かすため、プロダクトの価値を実感した既存ユーザーの「生の声」を集めることに注力していきます。
■本田技研工業株式会社 三原 嵩大氏 スポーツスキル向上を支援する「モーションナビシステム」


【事業概要】
振動フィードバックを用いて、正しい体の動きを直感的に導くアームカバー型デバイス。特に習得難易度の高いゴルフスイング(手首の角度や腕のねじり等)に特化し、頭の理解と体の感覚をつなげる支援を行います。
【現状と成果】
- 被験者10人全員が「直感的に理解できる」と評価し、数値的な改善も確認。
- VCからの助言を経てゴルフ業界でLOI(関心表明書)を1件獲得。
【今後の展望】
ゴルフ領域での実績を基盤に、スポーツ全般、医療リハビリ、他産業への展開を計画。身体動作をリーディングするプラットフォームを目指します。
■三井化学株式会社 箕輪 晃氏 リユースカップによる循環型サービス


【事業概要】
バイオマス由来プラスチック製リユースカップを用い、オフィス内の使い捨てカップを代替するサービス。使用後は返却ボックスに戻すだけのシンプルな動線でユーザーの負担が少ない。
【現状と成果】
- 返却率99%を達成。
- 直近2ヶ月で8,916個のカップ削減、104kgのごみ削減に貢献。みずほフィナンシャルグループをはじめ大企業へ導入済み。
【今後の展望】
スタジアム、アリーナ、Jリーグ等への展開を目指すとともに、自治体等と連携したエリア単位での循環型サービス構築を計画。
講評者との対話で見えた、事業化への「壁」と「解」
成果発表後の講評を通じて、成功への解像度が引き上げられました。本田技研工業株式会社は「いただいた"開発の指標をどこに置くか"というご指摘は、まさに自分たちも悩んでいたところで、すごく刺さりました。デバイスをつけて圧倒的な感動体験を提供するのか、"上達した気になれるだけでいい"というニーズに応えるのか。改めて考え直すきっかけになりました。」
また、株式会社KDDIテクノロジーは「“これを使ってこういういいことがあった”とお客様に言っていただけることを目指します。この春から実際の運用フェーズに入り、AI面接の強みである実際のデータが集まりやすい特性を活かして、面接官へのアンケートも取りながら、お客様のニーズを満たしていきたいと考えています。」とこれからの意気込みを語りました。
連携モデルの学びの共有
日本企業では多額の研究開発費が投じられながら、実用化されないまま眠っている技術が数多く存在します。カーブアウトは、そうした資産を社会に還元するための有力な手段として、近年着実に広がりを見せています。本プログラムでは、「起業家本人が主導してカーブアウトを実現する」形に焦点を当て、企業の中でやりたいことを持つ人材が、社外で新たな事業を立ち上げていくプロセスを伴走支援しています。


講義:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
スタートアップ支援部 チーム長 馬場 大輔氏
■株式会社 Mizkan Holdings 池田 弥生氏
同社では2024年度・2025年度の2期にわたり、社内ビジネスコンテストを実施。書類選考によるアイデア審査からはじまり、ピッチ選考・グレーディング選考を経て、研修(初期調査・事業戦略策定)と並行しながら最終案件を絞り込む、段階的なステージゲートを設計・運用してきました。選出後は担当部署へ異動し、PDCAを回しながら2~3年での事業化決済を目指す仕組みを行っています。
池田氏:PoC段階においては、予算と期間以外のサポートがまだ不足していたと感じています。また、ビジネスコンテスト段階においては業務外でのアウトプットに対して役員からの期待も高い中、アイデアの質をさらに引き上げるための施策を改善していく必要があると実感しました。今後は参加者への負荷軽減として期間の拡大や評価基準の見直し、ターゲット設定の明確化、さらには報告体系・投資・撤退基準・社内アセット活用のための体制整備に取り組んでいきたいと考えています。
■株式会社 明治 吉田 良氏
イノベーション事業戦略部は、新事業開発に特化した部署として今年度で5年目を迎えます。社内コンテストやアクセラレーターの運営を通じて新事業を発掘してきた同社では、今年度、ステージゲートの判断基準を明文化。「課題の探索→顧客・課題検証→解決策検証→役員レビュー(CPF*確認)→PMF*検証→事業化(1年間の試験実施)」という流れを体系的に整備しました。
*CPF:顧客課題を特定し、解決策を提供できている状態
*PMF;市場のニーズに合った商品・サービスを提供できている状態
吉田氏:1年間運用してみて、明治として『なぜ新事業に取り組むのか』というビジョンの定義が十分にできていなかったことが最大の気づきでした。ステージゲートの基準はその目的に紐づいて設計されるべきであり、今後はそこを起点に制度全体をブラッシュアップしていきたいと考えています。カーブアウトについては、まだ取り組み件数が少ない段階ですが、テーマごとに社内で進めるべきか社外に出すべきかの判断基準をしっかり持ちながら、選択肢として検討していきたいと思っています。
■「GEMStartup TOKYO」とは
東京都は、大企業等の民間企業で培われたノウハウやアイデアを起業や新事業創出に結びつけるための取り組みとして「東京都新事業発掘プロジェクト事業(GEMStartup TOKYO)」を実施しております。本事業では、分野を超えた起業家やベンチャーキャピタリスト、各分野のプロフェッショナルの方々に協力をいただき事業化に向けたサポートを実施いたします。
【GEMStartup TOKYO HP】
https://gemstartup.metro.tokyo.lg.jp/
<一般の方からのお問い合わせ先>
GEMStartup TOKYO 事務局
TEL:050-8892-3544
Email:support@gemstartup.metro.tokyo.lg.jp









