
冬でも1日300個が売れる--。
その現象を生み出しているのは、南森町に店舗を構える大福アイス専門店「一口の幸せ」だ。
今回お話を伺ったのは、この店を切り盛りする同志社大学在学中の店長。Z世代の現役大学生でありながら、商品設計・価格設計・SNS導線までを一貫して設計し、“冬でも売れる”モデルを築き上げている。
なぜ寒い季節でも人はアイスを求めるのか。
なぜフレーバーを増やさず、あえて“削る”のか。
なぜ価格ではなく「価値」で選ばれるのか。
現役大学生がつくるリアル店舗の裏側にある思想と戦略を、インタビューを通して紐解いていく。
冬でも1日300個売れるという事実


冬にアイスが売れるという違和感
「冬にアイスが売れる」というと、どこか矛盾しているように感じるかもしれない。
寒い季節に、あえて冷たいものを食べる--その違和感こそが、この店の面白さだ。
しかし実際には、温かい店内で味わう濃厚なアイスは、仕事終わりの疲れを癒すご褒美になる。飲み会や食事のあとに立ち寄るデザートとして、家族への手土産として、あるいはデリバリーで自宅で楽しむ人も多い。
さらに、日本では12月が年間で2番目にアイスが売れる月とも言われている。
“冬でも食べたくなる”のではない。“冬だからこそ食べたくなる”設計が、ここにはある。
南森町という立地特性
南森町は、食の街でもある。
近隣には天神橋筋商店街が広がり、名店が軒を連ねる。
塩味の効いた料理を楽しんだ後、最後に甘いもので締めたくなる。そんな心理に、大福アイスはぴたりとはまる。
さらにこのエリアは民泊特区としても知られ、観光客の来店も多い。昼は観光客、夜は仕事終わりの社会人--時間帯ごとに異なる客層が流れ込み、1日を通して安定した集客を生み出している。
Z世代がリアル店舗に集まる背景
見た目は、いわば“手作り雪見だいふく”。
ころんと丸く、餅を伸ばす瞬間が楽しい。写真を撮らずにはいられないビジュアルは、自然とSNSに拡散される。
特に女子学生の来店が目立ち、購入後に店内や店前で写真を撮り、そのままInstagramへ投稿する姿も多い。
まず起きているのは「売れる理由」ではなく、「売れている現象」。その現象を丁寧に分解していくと、この店の設計思想が見えてくる。
売れる理由1.|“引き算”で素材を引き出す商品設計


余計な甘さや調味料を足さないという思想
この店の商品設計の根幹にあるのは、“足す”のではなく“削る”という思想だ。
近年、見映えを重視したスイーツ店が増えている中で、あえて素材そのものと向き合う。
余計な甘さや調味料は加えない。素材が持つ本来の美味しさを、最大限に引き出すことに特化している。
差別化の軸は派手さではなく、「本物の味」。
その覚悟が、商品一つひとつに込められている。
厳選されたフレーバーに込めたこだわり
この店が大切にしているのは、種類を増やすことではない。
素材そのものの力を最大限に引き出すことだ。
アイスには「ラクトアイス」「アイスミルク」「アイスクリーム」という区分があるが、使用しているのはすべて最上位規格の【アイスクリーム】のみ。
違いは乳固形分や乳脂肪分の割合にある。乳成分が最も多いアイスクリームは、コク・香り・余韻が格段に深い。
さらに、使用する乳製品は北海道・根釧(こんせん)地区のものに限定。冷涼な気候で育つ牧草と、酪農に適した環境で飼育されたホルスタイン牛から生まれるミルクは、濃厚でありながら後味が重くない。
この“土台”があるからこそ、余計な甘さを足す必要がない。

例えば「グランデ苺」。
京都おさぜん農園直送のいちごの果汁と果肉を使用している。甘さだけでなく、ほどよい酸味とのバランスがあるため、濃厚なミルクとぶつからず、互いを引き立て合う。
足すのではなく、削る。
素材を厳選し、余計なものを加えない。
その引き算こそが、味の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている。
「一口目で伝わる」味への徹底的な追求
あられは国産餅米100%。餅つきから焼き上げまで自家製。
農家直送のいちごを使用した「グランデ苺」。
京都の老舗茶舗の抹茶を使った宇治抹茶。
コーヒーやカフェラテは自家焙煎。
ミルクも乳成分の割合まで吟味して選定。
何度も改良を重ね、辿り着いた味。
だからこそ、余計なものは足さない。削れるところまで削る。
目指すのは、「一口目でわかる」感動。
その瞬間に、幸せを届けることだ。
売れる理由2.|価格ではなく「価値」で選ばれる理由


安さではなく、こだわりで納得感をつくる
他店と価格競争はしない。
価値は自分たちでつくるという姿勢だ。
商品への自信と、素材への徹底したこだわりがあるからこそ、「安いから買う」という選択軸には乗らない。
「これだけこだわってこの価格」という価値設計
安く作ろうとは考えていない。
目指しているのは、日常の中に小さな感動を届けること。
当然、素材にこだわれば原価も上がる。
それでも、できるだけ多くの人に届けたい。その想いの中で限界まで価格を抑えている。
価格ではなく、“納得感”。
それが、この店の値付けの本質だ。
体験価値が価格を上回る瞬間
大切なのは、購入後どうなったか。
感動したか。
幸せを感じたか。
また来たいと思ったか。
商品だけでなく、接客や空間、雰囲気まで含めた総合体験。
価格はあくまで入り口にすぎない。
最終的に残るのは、「体験価値」だ。
売れる理由3.|世界観とSNS導線設計

「一口の幸せ」というネーミングの力
店名の「一口の幸せ」は、コンセプトそのものだ。
テレビ番組魔法のレストランにも取り上げられたことがある。
忙しい現代人に、ほんの少しの幸せを届けたい。
その想いが、名前に凝縮されている。

Instagramを起点とした拡散
餅で包まれたアイスは、新感覚スイーツ。
可愛らしい見た目は写真映えし、SNS投稿と相性がいい。
餅を伸ばす瞬間の動画は特に人気で、バズを生みやすい。
その拡散が広がり、インフルエンサーの来店にもつながっている。
来店までの心理導線
SNSで発見
↓
保存
↓
近くに来たときに思い出す
↓
来店
さらに家紋風のロゴが視覚記憶に残り、「どこかで見たことがある」という状態をつくる。
その心理設計が、リアル来店へとつながっている。
受験生応援キャンペーン

店舗は大阪天満宮のすぐ横。
受験の神様のもとで商売をしている縁から、受験生応援キャンペーンを実施。
合格通知書とInstagramフォロー・ストーリーメンションで、好きな商品を1つ無料(1人1回)。
2026年3月末まで実施しているので、無事合格した受験生はぜひ店舗へ足を運んでみてほしい。
売上だけでなく、地域とのつながりを大切にする姿勢が、この店の世界観をより強くしている。
同志社大学生がつくる“Z世代リアル店舗モデル”

なぜリアル店舗を選んだのか
もともと路上靴磨きやヒッチハイクを経験してきたという店主。
人との出会いが人生を変えると実感してきた。
だからこそ、直接お客様と出会えるリアル店舗を選んだ。
目の前で「美味しい」と言ってもらえる瞬間が、最大のやりがいだという。
Z世代経営者だからこそできる表現
若さは未熟さでもあるが、武器でもある。
圧倒的な行動量、トライアンドエラーの数、思い切った判断。
自分の目で見て感じたことを即実践に活かす。
商売に年齢は関係ない。本気度こそがすべてだ。
このモデルの再現性
お客様を集める中心は、SNSと地図検索。
素材へのこだわりが口コミの評価を高め、リピートにもつながる。
地域のお店や民泊施設と連携し、店内に案内を設置するなど、地道に認知を広げている。
商品・接客・店舗の清潔さを徹底し、体験の質を磨き続けている。
特別な魔法はない。
“削る商品設計”と“磨き続ける運営”。
その積み重ねが、1日300個という数字を支えている。
冬でも1日300個売れる理由--“設計”が生んだ必然のヒット
冬でも売れる理由は、季節ではなく設計にある。引き算で磨き上げた商品。
価格ではなく価値で選ばれる思想。
SNSとリアルをつなぐ導線設計。
そして、目の前のお客様を大切にする経営姿勢。
「一口の幸せ」という名前の通り、
その一口が、誰かの1日を少しだけ良くしている。
それが、南森町で起きている現象の本質だ。
一口の幸せ【店舗情報】

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