後継者不在の食品卸に必要なM&A戦略と事業承継事例~日本M&Aセンター

卸・メーカー2023.07.19

後継者不在の食品卸に必要なM&A戦略と事業承継事例~日本M&Aセンター

2023.07.19

後継者不在の食品卸に必要なM&A戦略と事業承継事例~日本M&Aセンター

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高齢化が進む日本において、中小企業の経営者は約3分の2が60歳以上で、その半数は後継者がいないといわれている。後継者不在の企業のうち半数は黒字経営であり、このままでは数々の優良企業が後継者不在を理由に休廃業せざるを得ないといわれている。

こうした問題を解決する手段のひとつにM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)がある。M&Aによる事業承継で従業員や取引先を守るだけでなく企業の成長も望めることで、今やM&Aは多くの企業が肯定的なイメージを持って増加傾向にある(中小企業庁「2021年版中小企業白書」)。M&Aの機運が高まるなか、食品卸業界にどんな恩恵をもたらすのか。株式会社日本M&Aセンター食品業界専門グループチーフ高橋空氏に話を伺った。

目次

食品卸売業界の市場規模と再編率

食品卸業界の市場規模は、1990年代以降の金融危機やバブル崩壊の影響で2012年に底を打ったものの、近年ではコロナ禍であっても食品の流通自体は拡大傾向にある。同様に増加傾向にあるのが、食品卸の市場規模における売上高上位10社の市場占有率だ。1990年は2%で多種多様な事業者が市場を占めていたが2021年には11%まで増加している。

[参照]食品卸売業界市場規模と再編率(株式会社日本M&Aセンター)

価格交渉力の格差を生む再編率

株式会社日本M&Aセンター
食品業界専門グループ
チーフ 高橋 空 氏

外食市場での売上高上位10社の市場占有率は10~15%だが、特に再編が著しいのが小売業界だ。ドラッグストア業界での上位10社の市場占有率は70%強、食品スーパー業界では80%強となっており、市場のほとんどが再編によって拡大した大手企業に占められている。

株式会社日本M&Aセンター 高橋空氏(以下同):「市場シェアはM&Aによってグループとなった企業に集まります。食品卸売業と販売先の小売業の再編率の差が、取引における交渉力の差につながっていると考えられます」

食品卸業界におけるM&Aのトレンド

上場企業などが公表しているM&A件数は増加傾向にあり、2022年は年間4,000件ほどとなった。一方、食品卸業界のM&A件数は年間平均約30件で安定的に推移している。

「M&Aは非公表で行われることが多く、総数は公表件数の3倍から4倍あると言われています。つまり、食品卸業界のM&Aは年間100件ほど、3日に1回は企業間の吸収合併が起きているのではと考えられます」

[参照]食品卸業界のM&A件数(株式会社日本M&Aセンター)

「また、ここ数年は日本の食品卸企業が海外企業を買収した事例(IN-OUT)が増えているのが特徴です。その背景には様々な理由がありますが、食品卸業界が抱える課題に慢性的な人手不足、取引先の再編による価格交渉力の低下、物流コストの増加、低い利益率、長時間労働などの労務問題、地域を超えた競争の激化などがあるといえるでしょう。

特に食品卸業界の経営者を悩ませているのは、売上高は維持できても利益が下がる状況ではないでしょうか。改善のための最重要テーマは生産性です」

中小企業こそ目の前のチャンスを活用すべき

卸売業界の大手企業と中小企業では、生産性に約1.8倍の差があると言われている。つまり同人数でビジネスをした場合、大手は1.8倍の売上高を得ていることになる。中小企業が勝ち残るには大企業と同じことをするのではなく、インバウンドの復活や越境ECの加速、海外展開、テクノロジーの進化など目の前にあるチャンスを活用しなければならない。

[参照]最重要テーマは生産性(株式会社日本M&Aセンター)

「重要なのは、社会の変化をビジネスに活かすことです。その際はやみくもに行動するのではなく、一定の方向性を持って改善していく方が効率的です。例えばITツールを使うことで、従業員がやらなくてもよい作業をツールにやらせ、本来すべき価値を創出する業務に専念すること。そうすることで生産性は上がります。社会の変化をチャンスに変えることが重要です」

食品卸に求められる方向性は、その企業の規模や状態によって異なる。このうちM&Aによって解決しやすい領域は、商品のフルライン化への対応、周辺領域の新規事業参入、エリア内でのシェア拡大と周辺地域への参入、他社資本との連携による取引拡大・調達コスト削減の4つだ。

[参照]食品卸に求められる方向性(株式会社日本M&Aセンター)

M&Aのメリット

「後継者の不在が確定した企業は、設備投資や人材採用に躊躇するなど後ろ向きの経営になりがちです。そうすると業績が伸び悩み売上高や営業利益が下がる傾向になります。この状態から脱却するには今一度前向きな経営を取り戻す必要があり、M&Aは有効だといえるでしょう」

そのほかに、M&Aには次のようなメリットがある。

① 後継者問題や、先行き不安が解決する
② 株式売却によって、創業者利得を得ることができ、ハッピーリタイアができる
③ 社員の将来ビジョンが開け、新しい夢が持てる
④ シナジー効果により、一社単独ではできない大きな成長が実現する

[参照]M&Aがもたらす効用(株式会社日本M&Aセンター)

また、中小企業庁のデータによるとM&A実施企業と非実施企業では、売上高成長率と営業利益成長率が異なっている。注目すべきは、M&A非実施企業は営業利益成長率がマイナス成長をしている点だ。

[参照]M&Aを行えば成長する(日本M&Aセンター)

「既存ビジネスの延長では、営業利益成長率が上がらないどころか、下がりやすい傾向があります。自社を安定的に成長するためにもM&Aは検討すべきでしょう」

15のM&A戦略

一口にM&Aといっても、何を主目的とするかで5カテゴリ、15パターンに分類できるという。自社が成長するための優先順位と、効果的なM&Aパートナーを決定するために見直してみよう。

市場浸透型(1)競合提携自社と同等の競合関係にある同業との提携
(2)ロールアップ戦略資本力のある同業のもとでグループ化する戦略
製品開発型(3)製品拡張戦略関連性のある製品・サービスを扱う企業同士の提携
(4)許認可取得新規に取得が難しい許認可を有する企業との提携
(5)技術提携(A&D)自社で開発が困難な技術を持った企業との提携
(6)ブランド取得ブランド力のある商品や事業を持った企業との提携
市場開拓型(7)エリア拡大戦略他地域での事業基盤を有する同業同士の提携
(8)海外企業提携海外での事業基盤を有する同業同士の提携
(9)特定顧客獲得同業で大手取引先との口座を持っている企業との提携
(10)顧客層拡大違った顧客層を有する同業同士の提携
垂直統合型(11)垂直統合戦略バリューチェーンにおける川上・川下の企業の提携
多角化型(12)事業ポートフォリオ転換戦略複数事業を抱える企業がM&Aにより事業構造を転換する戦略
(13)コングロマリット戦略一定のコンセプトで多角化したグループを形成する戦略
(14)プラットフォーム戦略M&Aを活用してビジネスプラットフォームを構築する戦略
(15)マルチアライアンス戦略複数企業と広範囲に戦略的提携を行っていく戦略

 

食品卸のM&A事例4選

実際にM&Aで大きく改善を遂げた大手食品卸4社の事例を紹介する。

M&A事例1.ヤマエグループ ~M&Aによる水平・垂直・新規事業分野への進出を加速。サプライチェーンのあらゆる場面でビジネス創造

九州地方で食品や住宅関連の事業を展開するヤマエグループホールディングスは、仕入れから加工、販売まで一気通貫で請負える体制を構築するため、2022年に食品業界だけで4件のM&Aを実施し、サプライチェーンのあらゆる場面でビジネスを創造した。

[参照]大手食品卸のM&A事例(1)ヤマエグループHD(株式会社日本M&Aセンター)

M&A事例2.西原商会 ~事業承継型M&Aによる商社とメーカーの融合。自ら作り、自ら仕入れ、自ら届ける一貫体制の構築

業務用食品卸を主軸とする西原商会は、大きく業績が落ち込んだ2020年に単年で過去最大件数のM&Aを実施した。量販店に強い営業力を持つ企業とのM&Aを積極的に行ったことにより二本足体制を構築し、2022年には復調を遂げた。

[参照]大手食品卸のM&A事例(2)西原商会(株式会社日本M&Aセンター)

M&A事例3.神明HD ~アグリフードバリューチェーンを目指す食品卸。食材を育て、つくり、届けるをテーマに展開

関西で米卸を営む神明ホールディングスは、米卸や食材宅配、種子生産、菓子製造販売などの企業とのM&Aを実施することで、サプライチェーンを広域に展開している。

[参照]大手食品卸のM&A事例(3)神明HD(日本M&Aセンター)

M&A事例4.加藤産業 ~国内トップクラスの食品卸によるASEANへの積極参入。アジア地域での食品流通事業の展開と構築を進める

食品卸業界で国内トップクラスの加藤産業は、ベトナムやマレーシアの企業とのM&Aを推進することで、ASEAN領域への積極参入を図り、アジア地域での食品流通業としての地位の確立を進めている。

[参照]大手食品卸のM&A事例(4)加藤産業(日本M&Aセンター)

M&Aによって一社単独ではできない爆発的成長を

食品卸売業界では人手不足やコスト上昇などから、売上高を維持できても利益額が下がる傾向がある。そのため、自社単独での成長は難しい。

「現状を打破するには爆発的な成長が必要であり、それができるきっかけの一つがM
&Aです。外部企業との提携でシナジー効果を生み出すことで、一社単独ではできない規模の成長を遂げることが可能です」

食品卸業界の譲渡オーナーの決断

企業を譲渡した経営者は、どのような考えがあったのか。4つの事例を紹介する。

譲渡事例1.親族承継と両にらみをしながら決断

年商7億円規模の米卸を営む70歳のオーナー。親族承継と第3者承継の両者を比較し、後者に販路開拓や売上拡大のメリットを見出したため、農業資材や食品販売を営む企業に譲渡を決定した。

[参照]親族承継と両にらみをしながら決断(日本M&Aセンター)

譲渡事例2.コロナ禍でも業績好調だが後継者不在の社長の決断

菓子の企画卸売を営む72歳のオーナー。コロナ禍でも黒字経営を行っており、取引先からも引く手数多の状態だった一方、自身の年齢から設備投資に一歩を踏み出せないでいた。そこで、売上高50億円規模の菓子製造業をM&Aのパートナーに選び、グループ全体の商品力を強化した。

[参照]コロナ禍でも業績好調だが後継者不在の社長の決断(日本M&Aセンター)

譲渡事例3.50代前半の経営者が会社の成長のため譲渡を決断

売上高8億円規模の野菜加工卸業を営む51歳のオーナー。販路開拓を課題としつつも営業リソースが不足していたため、取扱商材の異なる年商100億円以上の野菜卸売業とM&Aを実施したところ、互いの商品・販路のクロスセルを実施することができた。

[参照]50代前半の経営者が会社の成長のため譲渡を決断(日本M&Aセンター)

譲渡事例4.自分ではやり切った自負があるからこその決断

30~50億円規模の酒類卸業を営む47歳のオーナー。既存事業においてできることはやりきったという自負があり、これ以上の成長は自身では見込めないことから、年商100億円以上の飲食店向けサービス業とのM&Aを実施した。その結果、安定的な販路を確保することができ、飲食店向けの事業の多角化を実現したほか、ステップアップまでの道筋を見つけることができた。

[参照]自分ではやり切った自負があるからこその決断(日本M&Aセンター)

M&Aの手順

M&Aは、買い手企業が一方的な条件を突きつけてくる強引なものではない。売り手企業が自社の成長戦略にマッチする企業を探すプロセスである。

「日本M&Aセンターでは、まず売り手企業のプレゼン資料を作成し、買い手企業に交付します。買い手企業は秘密保持契約を締結したうえで内容を検討いただき、マッチするようであればオーナー同士の意見交換をしていただきます。その後は、買収監査による最終調整が行われ、最終契約を締結して株式譲渡が成立します。

[参照]M&Aの手順(株式会社日本M&Aセンター)

また、当社ではM&A成約式を実施します。時には涙を流すオーナーもいらっしゃいます。長年育てた会社を手放すことは重大な出来事です。だからこそ、自社の将来を託すパートナー探しにはこだわっていただきたいですね。その際は“準備は早く、決断は慎重に”を心がけてほしいとお伝えしています」

会社を加速度的にに成長させる可能性を持つM&A。未だ再編率の低い食品卸業界では、今後急速に広まる可能性が高い。後継者がいない、会社を成長させたい、今のビジネスに閉塞感を感じているという方にはM&Aを検討してはいかがだろうか。


食品業界M&A DATA BOOK【2023年保存版】| 日本M&Aセンター

株式会社日本M&Aセンター

本社所在地:東京都千代田区丸の内一丁目8番2号 鉃鋼ビルディング 24階
代表者:代表取締役社長 三宅 卓
公式ホームページ:https://www.nihon-ma.co.jp/

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