物流の課題は積載効率の低さ。食品卸の対策を流通経済研究所が解説

卸・メーカー2023.05.25

物流の課題は積載効率の低さ。食品卸の対策を流通経済研究所が解説

2023.05.25

物流の課題は積載効率の低さ。食品卸の対策を流通経済研究所が解説

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人口減少による働き手の不足は、日本における全産業の課題である。中でも食品の物流業界では小ロット多頻度での配送や温度などの品質管理の厳しさに加えて、人手不足、物流の2024年問題、燃料費をはじめとする物流コストの上昇、積載効率の低下、長時間労働といった問題が追い討ちをかける。

こうした課題に対して、事業者はどのような取り組みができるのか。小売業をはじめとする流通・マーケティング分野において諸問題の研究調査活動を行う公益財団法人流通経済研究所に、食品卸業界における課題解決のヒントを伺った。

目次

人手不足で現実味が増す食品の物流ストップ

最近、メディアでも取り上げられる機会の多い物流の2024年問題。働き方改革関連法により、自動車運転業務の時間外労働の上限規制が適用されることで、トラック輸送などでドライバーの不足が一層加速するといわれている。そうなれば、商品が届かないという事態が現実となるかもしれない。

■物流の需給関係の模式図

■トラックドライバーの年間労働時間の推移

[出典]経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップ」(2022年3月)

食品卸業界の問題はトラックドライバーの人手不足だけではないと流通経済研究所の久保田氏は指摘する。

主任研究員 久保田 倫生 氏

主任研究員 久保田倫生氏(以下、久保田氏)「統計データでも明らかですが、流通業、物流業、飲食業は、全産業と比較して賃金がそれほど高くなく、労働環境も他の産業と比べて厳しいといわれています。そのため、働き手が集まりづらい傾向になっていると考えられます」

生産年齢人口が減少を続ける状況において、人手を集めて対策するのは現実的ではなく、業界全体の視点から効率化による解決を目指さなければならない。流通・小売業界では、人手不足の課題に対して積極的な取り組みを進めている。そのひとつに、首都圏で店舗を展開する小売業4社が共同で取り組んでいる物流改善に向けた動きがある。

久保田氏「2023年3月に食品スーパー大手4社の社長が共同記者会見を開き、『持続可能な食品物流構築に向けた取り組み宣言』を打ち出しました。荷主である小売業のトップ自ら、現状のままでは物流が立ち行かなくなるという認識を広く示した上で、4社で協力して改善していこうと宣言したわけです。これはかなり画期的だと捉えています。物流業界全体を通じた効率化の動きにつながるきっかけになると考えられます」

この宣言では4つの具体的な改善方法が示されている。

(1)加工食品における定番商品発注時間の見直し
(2)特売品・新商品の発注・納品リードタイムの確保
(3)納品期限の緩和(1/2 ルールの採用)
(4)流通 BMS による業務効率化

主任研究員 田代 英男 氏

主任研究員 田代英男氏(以下、田代氏)「4つ目の流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準(Business Message Standards):流通業界全体の業務効率化・コスト削減を目指して導入された新たなEDIの標準仕様)による業務効率化とは、いわゆるEDIにより発注書や請求書などをデジタル化するということです。

飲食業界では飲食店がパソコンによるシステム発注を利用できないということがあると思います。ただ、スマートフォンが普及している今、LINEを利用した受発注という方法もあるのではないでしょうか」

食品卸では飲食店からのFAXや電話による発注が多くある。パソコンのシステムを導入せずとも、スマホを使った受発注の仕組みを利用することで業務効率化は一歩進みそうだ。一方で、食材の配送は単価が安いものを多頻度かつ小ロットで配送しなければならず、効率化は避けて通れない。そのための具体的なヒントとなるのが、経済産業省と国土交通省が実現を目指す積載効率の改善策、フィジカルインターネットである。

フィジカルインターネットが目指す世界

フィジカルインターネットとは、インターネット通信に着想を得た物流の考え方である。インターネット通信ではデータの塊をパケットとし、パケットをやり取りするルールとしてプロトコルを定めることで、限られた通信網を多人数で共有し通信を可能としている。送り手と受け手が1対1でやり取りしたのでは、現在のような膨大なデータ通信は行うことはできない。

こうしたインターネット通信の考え方を物流の世界でも実現しようとするのが、フィジカルインターネットである。荷物をパケットに見立て、規格化した容器(ケースやパレット、コンテナなど)を利用して、不特定多数の荷物を共同輸配送する仕組みである。

■フィジカルインターネットによる積載効率向上のイメージ

[出典]経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップ(2022年3月フィジカルインターネット実現会議)」

久保田氏「フィジカルインターネットとは、ひと言でいうならば、今あるインフラを最大限活用して、効率的にモノを運んでいきましょうということです」

■トラックの積載効率の推移

[出典]経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップ(2022年3月フィジカルインターネット実現会議)」

現状の積載効率は2018年から40%を下回っている。フィジカルインターネットが実現すれば、1台のトラックで複数の荷主の荷物を運ぶことができる。人手不足の解消にもつながり、配送効率を高めることで物流コストも軽減できる。ただ、こうした構想を実現するのも一筋縄ではいかないという。

久保田氏「流通・小売業の業界がこの概念を理解したとしても、そんな簡単にはいきません。というのも、日本は企業の数が多く、なおかつ産業構造が多段階にわたっていて複雑です。発注側がいて、受注側がモノを運ぶにあたり、自社で配送するか物流業者に委託します。物流業者が自社で運べない場合には、さらに別の物流業者に委託するといった多段構造になっているのです。企業数も多く複雑なため、議論はなかなか進みませんでした」

食品卸にとって商品を届けることは競争領域であるため、他社よりも安く早く運ぶことを自社の強みとして打ち出してきた。その結果、荷主からの厳しい要求に応え続けなければならないという現状がある。

飲食業界では食品卸同士、顧客となる飲食店を奪い合うなかで、いつでも、少量からでも食材を届け、さらに価格を下げるといった消耗戦を繰り広げてきた。それも限界に来つつあるものの、競争には負けられないために他社との協業体制は望めない。こうした現状を変えるには、どうすればいいのだろうか。流通経済研究所の専務理事である加藤弘貴氏がこう話す。

専務理事 加藤 弘貴 氏

専務理事 加藤弘貴氏(以下、加藤氏)「解決に向けた道筋はいくつかあると思いますが、その1つとして、やはり買い手である飲食店の意識改革は重要です。今までのように、注文すればすぐに卸業者が持って来てくれることが、もう成り立たなくなっています。

そのことを理解し、自分事として捉えることからはじまるのではないでしょうか。その上で、自分たちの行動を変えれば、川上である卸が少しは楽になるのではといった意識を持ち、一緒になって良くしていくということが大切です」

求められるのは、業界のリーダーとなる人物の打ち出すビジョン

加藤氏の指摘する買い手側の意識改革を促すにはどうすればいいのだろうか。流通経済研究所では、製造、配送、販売の各事業者が集まり、それぞれの課題を共有しながら解決を目指すための「製・配・販連携協議会」の事務局を務めている。その活動は2011年から始まっており、参加企業には製(メーカー)、配(卸売業)、販(小売業)の大手企業が名を連ね、現在53社となっている。協議会では業種を超えて課題の共有が行われているという。

加藤氏「もともとメーカー、卸、小売の三者が揃って話をする場は、意外とありませんでした。そういう場があればということで、製・配・販連携協議会はスタートしました。協議会で、三者がそれぞれにどんな問題を抱えていて、その原因がどこにあるのかを話し合ってみると、案外『そんなことで困っているの?』ということがよくあります。

そこから議論が進み、例えば、卸業者で困っている課題を小売業が少し譲歩することで解決することもあります。まずは話し合いの場を持って情報発信をして、それを業界全体の課題として共通認識を持つことが大事だと思います」

こうした話し合いの場が、飲食業界内にも展開されていくには、何が必要なのだろうか。

加藤氏「業界全体を良くしていくというビジョンなり、夢なりを業界のリーダーとなる人が広く発言していくことが必要です。そういうリーダーを作り、みんなでリーダーと一緒に具体的な取り組みを進めていくことが大事ではないでしょうか」

その際、行政にもサポートしてもらう、もしくはまずは行政にリーダーシップを取ってもらうということも必要だという。

加藤氏「飲食業界が抱える問題は、産業全体、ひいては日本全体の問題でもあります。そこに行政としてしっかりと関与していくことには、行政としても大きな意義があります。特定の企業の話ではなく、産業全体を良くするために、行政とあゆみをひとつにして、何ができるかを考えていくのも解決へ向けた道筋と言えそうです」

協調領域を明確にすることで、話し合いがはじまる

最後に食品卸売業にフォーカスして、事業者が取り組むべきことについて聞いてみた。

久保田氏「同業種で競争する部分とお互いに協力できる部分があると思います。競争領域と協調領域といいますが、このうち協調領域の方を議論の対象として取り組めば、ライバル同士であっても、大きな摩擦は起きないのではないでしょうか。まずは協調領域を明確にしていくことから進めてみてはどうでしょうか」

飲食店側での具体的な取り組みについてのヒントを示した。

加藤氏「小売・流通業界とも共通しますが、リードタイムを今一度見直すことです。リードタイムを長くしていくことを発注側が考えることがポイントです。モノがちゃんと届くことは大事ですが、用意・配送する時間をいかに長くできるか、待てるかが、全体に対して大きなインパクトになると思います」

飲食店では、突然の団体予約や、近所でのイベントによる予想外の混雑など、緊急で対応しなければないときがある。

久保田氏「モノがないからすぐに持ってきてほしい場合などの緊急対応は仕方がないと思います。ただ、緊急対応の状態を通常とせずに、ベースとなる普段の配送をいかに増やせるかがポイントです。早めの発注をすることで卸側にはゆとりができ、配送の調整がしやすくなります。効率的な配送ルートを組めたり、良い食材を確実に届けたりすることもできるようになるでしょう。フィジカルインターネットは、既存のインフラを最大限活用することです。そうした少しずつの積み重ねによって、卸間が共同して配送したり、行きと帰りの両方で効率的に荷物を運んだりということにつながっていくのではないでしょうか」

食品メーカーと食品卸、飲食店のそれぞれが課題を共有することで、飲食業界の効率化を高め、より魅力的な業界としていくことになる。ピンチをチャンスに変えて、業界を上げて取り組むべき時が今来ている。

[参考]
経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップを取りまとめました!
経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップ

食品卸の3大課題 受注、入力、販促を解決『TANOMU』

公益財団法人 流通経済研究所

所在地:東京都千代田区九段南4-8-21 山脇ビル10F
公式ホームページ:https://www.dei.or.jp/

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