「ムスリムの訪日客の多くは、日本食や文化を楽しみに来ています。それほど身構えず、アウエーではなく、あくまでホームで勝負、おもてなしできるのだと考えていいと思います」
日本企業のハラール対応の現状
では、現在の日本企業のハラールビジネスへの対応状況はどうなっているのだろうか。
「まず、アウトバウンドですが、ASEANを中心としたイスラム圏への海外進出や輸出をすでに進めている企業は、やはり大手企業が多いですね。外食チェーンでは、吉野家や丸亀製麺がハラール認証を取得し、インドネシア、マレーシアなどに進出しています。食品メーカーでは、インドネシア、マレーシアに海外法人を立ち上げ、生産拠点も設けている味の素、同じく、海外事業所を持つヤクルトでしょうか。イスラム圏への進出はやはり、言葉の壁、貿易の壁、マンパワーの壁、情報の壁…といろんな障壁があって、一部の例外を除き、中小企業には高いハードルとなっているのが実情です。現在、イスラム圏での店舗展開や商品輸出を探る動きがあり、今後、その動きは続々と表面化してくるところだと思います」
一方、インバウンドはどうだろうか。
「日本各地の食肉メーカーが、ハラールに対応したと畜場の整備を進めています。ブラジル、オーストラリアなどからの冷凍輸入も可能となっており、ハラール肉については、国内での供給体制が整いつつあるのが現状です。また、国内の外食市場では、訪日ムスリムの観光エリアとなっている東京、大阪、京都、名古屋などの大都市圏でハラールフードを提供する店が増え始めています。こちらは、大手よりも中小・零細企業、個人運営の店舗での動きが目立ちますね」
いずれにせよ、アウトバウンド、インバウンドとも、日本企業によるムスリム市場の開拓はまだまだ始まったばかりなのだと佐久間氏は言う。
「個人的な感覚でいえば、“よーい、ドン!”の合図が発せられた段階。一部の大手を除き、どの企業も横一線なので、中小企業にもチャンスは広がっています」
次回は食品メーカー向けの『ハラールビジネスの実践編』として、ムスリム市場でのビジネス展開をよりスムーズなものにしてくれる「ハラール認証」制度や、その取得方法、認証を取得した企業の成功事例などについて取り上げる。