拡大するムスリム市場
約1,400年前、アラビア半島で始まったとされるイスラム教。この教えを信じる人々を、ムスリムと呼ぶ。現在、その人口は全世界で推定18億5,000万人。イスラム教といえば、中東諸国というイメージもあるが、それは正確な認識ではないと佐久間氏は指摘する。
「ムスリムが最も多いエリアは、近年、経済成長が著しいASEAN(東南アジア諸国連合)です。特にインドネシアは世界最大のイスラム人口(人口2億5,000万人のうち約9割)を持つ国で、マレーシア、シンガポールにも多くのムスリムがいます。世界のムスリムの半数以上はアジアに暮らしており、中東に暮らすムスリムは一部と考えてください」
ASEANの経済成長により、中間層の人口が増え、今後、ムスリム市場が飛躍的に拡大していくと予想されている。
「シンクタンクの予測によると、ムスリムの人口は、2030年にキリスト教徒を抜いて世界一となり、2050年には世界人口の3分の1になると見込まれています。そして現在、ムスリムを対象とする市場規模は推定300兆円といわれ、2030年までには1,000兆円に達するとの経済予測もあります。その中で、食品関連のマーケットは約20%と言われています。つまり、現在の約60兆円の規模から、2030年には約200兆円まで拡大するということです。いま、成長著しいムスリム市場には世界各国の企業が注目しています」
一方で、国内市場でも2020年の東京オリンピック開催に向け、ムスリムのインバウンド需要が増大していく。
「2014年に1,314万人だった訪日外国人旅行客は、安倍内閣が掲げる観光立国の成果もあり、2015年は1,974万人まで大幅に増加しました。そのうち、ムスリムの訪日客数は2~3%と数字だけを見れば低調ですが、2013年に東南アジア諸国のビザ発給要件が緩和されて以降、年間3割のペースで増加しており、今後も、東京オリンピックに向けて加速度的に増えていくでしょう。確かなことは、いま、ムスリム市場は新たなビジネスチャンスになっているということです」
そのムスリム市場の攻略に向けて、重要なキーワードとなるのが、ハラールである。
ハラールとは何か?
ハラールとは、イスラムの戒律で『合法的なもの』『許されたもの』を意味するアラビア語。反対に、『非合法なもの』『禁じられたもの』を意味する言葉が、ハラームである。その理解なくして、「ムスリム市場進出の成功は難しい」と佐久間氏は指摘する。