「神様が導くムスリムの生活全般の中で、許されている行いをハラールといい、食、金融、生活雑貨、化粧品…と、生活のあらゆる分野に浸透しています」
食についていえば、イスラム教の戒律で『口にすることが許されているもの』がハラール、『口にすることが禁じられているもの』がハラームとなる。
「食分野ではハラールなものが多く、野菜、果物、穀物、水産物の一次産品の多くがハラールです。まずは、食べることが禁じられたハラームとその概念を理解し、それ以外がハラールだと考える方法が良いでしょう」
日本でよく知られているハラームは、豚と酒(アルコール)だ。
「『豚』は、豚肉そのものだけでなく、豚肉由来の派生物も含めてすべてが禁じられています。ゼラチンや乳化剤などの原料になっている場合もあるので、注意が必要です。牛肉、鶏肉、ラムなど、豚以外の肉についても、イスラムの教えに則った方法…例えば、ムスリムが祈りながらと蓄・加工処理したものしか食べることが許されていません。また、アルコールについても、酔うためのアルコールは一滴も許されません。」
他にも、血液、トラやクマなどかぎ爪や鋭い牙がある動物などがハラームとされる。ムスリム市場で食ビジネスを展開するうえで、ハラールとハラームへの対応は極めてハードルが高いことのようにも思えてくる。そもそも、加工技術が発達し、商品の成分構成が複雑化する現代において、何がハラールで、何がハラームかを判別することすら困難な作業となる。また、原料だけでなく、製造過程でのコンタミネーション(混入)にも注意が必要だ。
日本国内では「それなら中国人、韓国人、台湾人向けのビジネスを優先しよう」と、ムスリム市場への参入を断念しはじめている飲食店や食品メーカーもあるのだという。
「私が代表を務めるハラル・ジャパン協会は、ハラールビジネスのマーケティング支援やコンサルティング事業を展開していますが、設立当初(2012年)はやはり企業からの引き合いが少なく、『特定の宗教を支援することはできない』と、関連省庁も積極的ではありませんでした。今でこそ少しは進んでいますが、ムスリム市場に続々と進出する海外企業と比べ、日本は“地球一周半”後れを取っている、というのが私の感覚です」
大きなビジネスチャンスをふいにしないために、まず取り掛かるべきは、「イスラム教の本質を理解することが大切です。本当のムスリムを知ること、ハラールを正しく学ぶこと。ここが出発点になる」と佐久間氏は助言する。
「確かに、ムスリムは豚に対しては厳格で、豚肉に触れたものすら口にしたがらない。ただ、お酒については、例えば、醤油や味噌など、発酵過程で自然にアルコールが醸造される食品に関しては、特に問題にしないムスリムもいます。宗派や地域、個人によって解釈の差があるということです」
現在、日本に訪れているムスリムとなると、ハラールの解釈はさらに寛容なものとなる可能性が高い。